企業内で起こっている「情報の質の低下」は、コラボレーション基盤の革新を促す重要な動機のひとつになっている。こうした質の低下はなぜ起こったのだろうか。それを解決するためにはどうすればいいのだろうか。前回に引き続き、リアルコムの取締役執行役員である吉田健一氏の意見をもとに、企業コラボレーション基盤の今後のあり方を考えてみたい。
前回の記事(「レイヤとコンポーネント」への切り分けが情報基盤構築のトレンドに)では、情報系システムの環境変化の要因を示した上で、今後コラボレーション基盤をどのように構築すべきかについて、吉田氏は「インターオペラビリティ(相互運用性)の向上」というキーワードを示した。そして、もう1つの重要なポイントとして同氏が挙げたのは「情報の質の向上」だ。
忘れられた「情報の棚卸し」や「作法」
電子メールを筆頭とするITによるコラボレーション支援ツールは、業務の効率化を促した一方で、「情報洪水」とも呼ぶべき、企業内に流通する情報量の爆発的な増加と、全体的な質の低下をも引き起こした。
では、IT化以前の状況はどうだったのだろうか。思い返してみると、意外にも「情報の質を高める」ための人為的な努力が行われていたことに気づく。その理由のひとつは、情報の発信自体にかかるコストが意識されていたためだ。
電子メールもFAXもなかった時代、送信文字数に対して課金が行われるテレックスでは、省略文字を駆使して簡潔でわかりやすい文章を書くことがビジネスマナーのひとつとされた。また、社内の伝達事項もA4用紙1枚に収まるようなまとめ方、伝え方が心がけられていた。それは、有限である掲示スペースの一部を使って、短時間で要点となる情報を正しく伝えるための作法でもあった。そして蓄積された文書は、期間を決めて棚卸しされ、不要なものは廃棄されていた。かつて、そんな人為的な情報整理に携わった経験がある人も多いだろう。こうした取り組みは、情報の流通や蓄積にかかるコストに対し、その効果を高めることを目指したものだったと言える。
ところが、電子メールや電子掲示板がコミュニケーションの主流になると、情報の発信コストは極端に下がった。発信する情報の内容や、情報の受信者が吟味されることは減り、無造作に添付ファイルが付けられ、ネットワークに津波のごとくあふれ出した。
吉田氏は、ITが情報を自動的に整理してくれるだろうという幻想や、情報発信コストの劇的低下による「作法」や「棚卸し」という考え方の後退が、情報量の爆発的な増加と、全体的な質の低下を招いた原因となっているのではないかと分析する。