クラウド活用の“今”をエグゼクティブに聞く(1)――楽天:どのクラウドを使うのかは重要ではない

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デジタル変革が叫ばれている今日、企業はクラウドをはじめとするITインフラとどう向き合うべきなのか――。本シリーズでは、IT活用に長けた先進企業のエグゼクティブに、ITと経営の視点で、自社の考えや取り組みを紹介してもらう。第1回目の今回は、IBM、マイクロソフト、シスコなどのITベンダーを経て、現在は楽天の副社長でありCIO & CISOを務める平井康文氏に話を聞いた。

経営や事業とITが融合

--楽天はテクノロジー企業そのものという印象がありますが、今日のデジタルトランスフォーメーション(DX)への流れの中で、ITの使い方や経営戦略に変化はありましたか?

楽天株式会社
副社長執行役員
エグゼクティブ ヴァイス プレジデント
CIO & CISO
平井康文氏
楽天株式会社
副社長執行役員 エグゼクティブ ヴァイス プレジデント CIO & CISO
平井康文氏

 DXという言葉がもてはやされていますが、楽天の取り組みは大きく変わっていません。設立当初から楽天は、経営や事業とITが表裏一体となっています。表裏一体というより、“融合”と言った方が正しいでしょう。楽天のサービスやプロダクトは全世界で70以上あり、これら全てがテクノロジーのアーキテクチャーに立脚して作られています。

--本格的にDXにアプローチするとき、どういうステップやマインドを心がけていけばよいでしょうか。

 IT業界はとかく難解な表現をしがちで、DXも分かりにくいですよね。しかし、その本質というのは極めてシンプルだと思います。従来のアプローチとDXとの違いは、計算式の分母と分子に例えることができます。つまり、これまでは基幹システムの構築やERPなど、経営の効率化や最適化させるために分母を小さくすることを目指していました。一方、DXは分子をいかに最大化して解を大きくするかということです。ITを活用していかに新しい事業モデルを作り上げていくかということです。

--DXは従来のビジネスの延長線上にあるのではなく、これまでとは違う次元、モデルで考えなければならないと解釈している人もいるようですが、どうお考えですか。

 そういう見方もあるかもしれません。しかし、そう考えると敷居が高くなってしまいます。例えば、日本でもスタートアップの成功事例が数多く生まれており、特にフィンテックの分野ではスタートアップがメガバンクと提携して新しい事業モデルを作っています。しかし彼らは、クオンタムリープ(量子的飛躍)で物事を発想しているのではなく、「今の世の中の次に来るものは何か」という現状の続きで発想しているのです。曲がり角の先はまだ見えないけれど、向こう側をイメージしているのです。けっして、別次元のところから俯瞰しているのではなく、現在からつながっているその先を見ることが、第一歩につながると思います。

 楽天自身も21年間ずっとその方向でやってきました。楽天の事業の中心は、データを活用するメンバーシップ事業です。日本には1億以上の楽天IDがあり、これに加えて、プロダクトのカタログ情報、日々のトランザクション情報などがあります。これらのデータを徹底的に活用することで、事業をドライブさせています。

 楽天の事業分野は、Eコマース、デジタルコンテンツ、フィンテックの3つです。これに、4つめの事業として、2019年10月からモバイルキャリアサービスに参入します。それぞれの事業がユーティリティであり、これらを「共通のサービスデリバリープラットフォーム」と「エンドポイント(顧客)」とでサンドイッチにします。共通のサービスデリバリープラットフォームとエンドポイント(顧客)を押さえた企業が強くなれると考えています。

クラウドに期待するのはアジリティとスケーラビリティ

--楽天の事業ではどのようにクラウドを活用しているのですか?

 クラウドの対義語はオンプレミスだと思われがちですが、実は、レガシーシステムとも考えられます。レガシーとは、垂直統合されたメインフレーム、クライアントサーバモデルなど、ベンダーに依存した技術のことです。このレガシーの反対側に、オープン化されたクラウドがあります。楽天では、パブリッククラウドとプライベートクラウドをハイブリッドで活用しており、すべてがクラウド化されていると言っても過言ではありません。

 オープン化も進めており、オープンソースをベースにベアメタルやコンテナ化なども含め、様々なインフラをクラウドの上で構築しています。プライベートクラウドでのIaaSやPaaSをはじめ、各社のパブリッククラウドも各サービスの特性に応じて随時選んでいます。どのクラウドを使うのかは重要ではなく、それぞれのクラウド間をつなぐことができるかどうかが肝心です。それさえできるのならば、各サービス担当者が、自由にクラウドを選択してよいと思います。

 クラウドに期待しているのはアジリティとスケーラビリティです。クラウドを使えば無限のコンピュータリソースを一瞬にして手に入れられます。ただし「クラウドにするとコストが下がる」というのは神話で、高くなることもあります。しかし、タイムツーマーケット、つまりより早くサービスを市場に提供することを考えると、必然的にクラウドを使うという選択肢に落ち着きます。

--エンジニアにとってクラウドは、どういう環境なのでしょうか。

 楽天株式会社の開発部門では現在、日本国内に2,000人以上、海外も含めると3,000人以上の従業員が在籍しています。日本にいる従業員の約半数が外国籍、女性は約2割です。イノベーティブなものを作り出そうとするとき多様性はとても重要で、様々な人材が集まることでイノベーティブなものを生みだすことができると思うのです。

 エンジニアに対して、フレームワークを固定し、「あなたは、このピースを作ってください」と言っても、イノベーティブなものは生まれません。エンジニアは自分が持つナレッジや専門性を自ら証明したいのです。現在のオープンソースの流れは、エンジニアの生き様や力を存分に発揮できて、それを実現できる環境がクラウドなのだと思います。

--クラウドには様々な利点がありますが、エンタープライズの管理性やガバナンスという面についてはどうお考えですか?

 管理性やガバナンスとも全く矛盾しないと考えており、クラウドだからセキュリティに難があるということはありません。クラウドでインフラを構築するときに重要なのは標準化です。標準的な技術を設定し、それに適合するものを使うというようにすれば、問題ありません。例えば、いま多様なクラウドを併用して、モバイル端末の利用や在宅勤務などファイアーウォール外からのアクセスもありますが、セキュリティガバナンスのためにはCASB(Cloud Access Security Broker)があります。CASBを使えばきめ細かく管理できて、伝統的なオンプレミスと比べても違和感なくクラウドを活用できると思います。

「データ」「AI」「ブロックチェーン」に注力

--楽天のCIOに就任してから、なにか印象的な変化はありますか?

 楽天に来て3年半ですが、特にこの1年でクラウドそのものが大きく変化しました。クラウドネイティブなテクノロジー、例えばオートメーション関係、マイクロサービス、DevOps、OpenAPIなどです。オープンな環境であるクラウドがさらに進化して、使い勝手がよくなったと感じています。

--テクノロジーの観点から、今後はどのような点に注力していくのですか?

 楽天の事業を支えるテクノロジーのコアになると考えているのが、「データ」「AI」「ブロックチェーン」の3つです。

 データについては、グローバルデータオフィスを作り、専任のチーフデータオフィサーをアサインしました。これに加え、データのプラットフォーム、データに関連するプロダクトを作るデータサイエンスチーム、各事業とのインターフェースとなるデータアナリティクスチーム、この3つのファンクションで部門を構成しています。

 データは事実そのものであり、これにAIの要素を加えることで爆発的にデータ分析やデータサイエンスが進みます。足し算ではなく掛け算になるわけです。楽天ではすでにAI化が進んでいて、楽天が展開している各種事業においてお客様への自動応答を行うAIチャットボットを既に世界で60以上リリースしています。これはIBM Watsonを活用して開発したものです。

 ブロックチェーンはパラダイムシフトだと思います。これから特に重要になるのはエンタープライズ・ブロックチェーンです。ブロックチェーンが企業間を超えたデータ交換の共通プラットフォームとなるのではないでしょうか。楽天ではそれを見越して、2016年8月に英国・ベルファストに「楽天ブロックチェーン・ラボ」を開設しました。

サービスをつないで、新しいサービスを作る

--まだクラウド化が進んでいない企業もありますが、これからどう動いていくのでしょうか。

 「先にクラウドを選ばなくてはならない」という方法論に縛られているのではないでしょうか。クラウドの選定は最後でいいのです。まずはサービスやプロダクトのモデルを作るのが重要です。このサービスとこのサービスをつないで、新しい別のサービスが作るという発想です。その次にAPI連携を考えると、サービスの具体的な形が見えてきます。そして最後に、どのクラウドを使うかを選びます。クラウドの選定に迷う気持ちは分かりますが、クラウドの選択は最後でいいのです。

 2020年以降に5Gが商用化され、クラウドに踏みだすよい契機となるのはないでしょうか。IoTへの動きが活発ですが、IoTはクラウドだけでは足りず、MEC(Mobile Edge Computing)も重要になります。クラウドとMECの組み合わせで、いままでにないものがつくれる。システム化の敷居が大きく下がります。次世代クラウドの大きな方向性とみています。

 先ほど触れたAPI連携やマイクロサービスが、クラウドネイティブの方向性として重要だと感じています。楽天では現在450くらいのAPIがあります。これまでエンジニアがバラバラに使っていましたが、「これではいけない」とAPIカタログを作りました。APIのゲートウェイを作り、APIのサービスレベルを管理し、ガバナンスをちゃんと提供できるようにしています。

日本のおもてなしをデジタル化したい

--ビジネスサイドの要件や課題と、テクノロジーが噛み合うようにするためには何が必要でしょうか。

 例えば楽天では、かつては「Development Unit」という1つの組織に全てのエンジニアがいました。カンパニー制をスタートするようになり、事業を担当するエンジニアはカンパニーへと移動させました。エンジニアが事業の横に座ることで、事業との一体感が高まりました。

--最後に、今後のビジョンについてお聞かせください。

 最新のテクノロジーには引き続き執着していこうと思っています。また、楽天では英語を社内公用語化していますが、今では社員のTOEICスコアの平均点は830点を越えています。社内公用語英語化を発表してから8年が過ぎましたが、すでに良い効果もでており、今後さらに加速していきます。弊社社長の三木谷は、「英語の社内公用語化は楽天を国際化するためではなく、楽天の良さを世界に広めるため」と言っています。おもてなしやホスピタリティなど、日本のサービスクオリティはとてつもなく優れています。日本のおもてなしをデジタル化してサービスやプロダクトに注入していけば、絶対どこにも負けないと確信しています。

 テクノロジーにディスラプションをかけていくことと、日本の美学であるおもてなしをデジタル化すること、これらを組み合わせていきます。

--本日はありがとうございました。

提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
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