対談 TECH.ASCII.jp編集長 大谷イビサ氏×ZDNet Japan編集長 國谷武史:クラウド時代へマインドセットを変えよ(後編)

CIOは部分最適ではいけない

國谷企業ではCIO(最高情報責任者)がITの目利きとしての役割を担っています。ZDNetではCIOを主要な読者としていて、これまで何人ものCIOから話を聞きましたが、ある著名なCIOは、「テクノロジーは手段でしかない」と話しており、テクノロジーとビジネスをどうマッチングさせリードしていくか、自分たちのビジネス課題とやりたいことを一致させていくことが大事だと語っていました。

大谷やはりCIOは部分最適ではいけなくて、全体最適を考えないといけない。ビジネス戦略をきちんと練り、仕組みを考え、そこに最適なテクノロジーを選んでいくのが大事です。ビジネスが分かっていないとCIOはできないと思います。

國谷例えば、「働き方改革」の文脈を見ると、テクノロジーに関してはスマホ導入といった部分的の話が多いですよね。会社として業績を上げることなどが「働き方改革」の本質であるはずなので、「世の中の流れだから」といった消極的な姿勢のままにテクノロジーを採用したところで、本質的な目的は成し遂げられないわけです。ある業界アナリストの方が言うには、例えば、基幹業務を司るテクノロジーがERPです。このERPも30年前の仕組みのままだと、業務スピードは出ませんし、それこそなかなか変革はできないでしょう。働き方変革の中でERPを活用していくという視点が大事ということでした。

大谷今の話はマイクロサービスやコンテナにも通じますね。マルチクラウドが進み、コンテナ化で抽象化することで、楽にインフラを扱えるようになりました。ベンダーロックインを逃れられることもメリットです。いまクラウドでは、インスタンス、コンテナ、サーバーレスへと、コンピューターの粒度が変わってきています。特にコンテナは2018年にフォーカスされました。2019年が楽しみです。

國谷特に2018年はKubernetesが話題になり、ビジネスとテクノロジーの両面でクラウドを前提に利用していく環境の下地が整ってきたように思います。

大谷企業のクラウド導入を見ると、IBMが言うところの「リフト&シフト」を指向してはいるものの、「リフトしっぱなし」で停滞しているケースが見られます。クラウドに乗せただけで、クラウドの新しい技術を使っていない。スタートアップでは「インスタンスとデータベース」から、サーバーレスへと移っており、これは企業のカルチャーなのだなと腹落ちしています。新しいことにチャレンジしている文化の方がクラウドになじみやすいようです。

國谷先日取材した大手の半導体メーカーでは、センサーデータをいかに活用するかを真面目に考え、生産ラインの可視化からラインの全無人化までビジョンを描いています。昔ならその実現に10年をかけていたところを、クラウドを活用すれば数年でできるといった具合にスピードアップしています。こうした感覚を持っている企業は、大手であってもスタートアップに近いものがあると思います。

大谷自動車などの製造業は規模が大きいので、実現できたら波及効果は大きいでしょうね。

國谷昔ながらの産業界がこの1、2年で大きく動いてきていますよね。2019年以降は、間違いなく大きなインパクトを与えると思います。

IoTとビックデータとAIがつながる

大谷製造業に限らず、最近はリーガルテックやアグリテックなどのクロステックも話題になっていますね。従来ITを使わなかった業界がクラウド導入に踏み切っています。そうした事例を追っていて分かったのは、今後はテクノロジーだけではなく、業界独自の知識が重要になるということです。先日、通信事業者がエビの養殖をIoTで最適化するという話を聞きましたが、半分以上がエビの養殖に関する話でした。前提知識をとらえないと、センサーデータ活用の必然性が理解できないからです。AIも今後、こうした業界知識が必要になると思います。

國谷データ活用というと、IT業界では数年前に「ビッグデータ」という概念が出たものの実態はあまり広まらず、最近では「データレイク」という表現に置き換えられています。ビジネスで活用するためのデータを蓄積することが大事だという点がようやく市場に認知されてきたと感じます。

大谷ビッグデータがうまくいかなかったのは解析するデータサイエンティストがまだ足りなかったからでしょうね。人は急には増やせませんから……。でも、かつてビックデータを解析するのは人間でしたが、これからはAIにやらせる。IoTとビックデータとAIがつながってきました。一方で、今はAIに学習させるためにデータが必要になってきました。

 最近ではデータのパイプラインをきちんと作り、データをどこに貯め、どう解析するか、いかに楽に使えるか主戦場になってきています。IBMならIBM Cloud Private for DataやWatson Studioですね。

國谷データサイエンティストの意味するところも変わってくると思います。データをどう処理するかだけではなく、データの本質を理解して、どう価値に変えていくか。それができるのはビジネスの最前線を知る人です。AIやデータカタログなど下準備の部分ができてきているので、これからは人や会社がやりたいことをテクノロジーで実現できるようになりつつあると思います。

大谷「デジタルトランスフォーメーションで、ディスラプトされないために何をするか」と考えるのは、やめるべきですね。そう考えていると、いつまでもディスラプトする側に勝てません。自らの存在価値をどう世に問うていくのかが重要ではないでしょうか。

 その意味でビジネスとテクノロジーを橋渡しする媒体があったら、すごく存在価値があると思います。そういう意味ではZDNetに期待しています。アスキーはテクノロジーから積み重ねて、ビジネスを見ていこうと思っています。読者に納得感を与えたいです。

國谷ビジネスにテクノロジーが深く関わっている現在では、変化の起点がテクノロジーになることも多いと思います。成長途上のテクノロジーを追うことは、そのテクノロジーに近い立場にいる人でも難しいことがありますが、テクノロジーが人や社会の進化に与える影響は大きく、やはりテクノロジーの出現が人や社会の変化における着火点になることが多いと思います。ZDNetでもこうした変化をしっかり追い、CIOやITをビジネスに利用する人々にとって有益な情報をこれからも伝えていきたいと思います。

対談
TECH.ASCII.jp編集長 大谷イビサ氏×ZDNet Japan編集長 國谷武史
クラウド時代へマインドセットを変えよ前編
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