マルチクラウドネイティブアプリは統合管理の時代へ ― ベールを脱いだ「VMware Aria」のコンセプト

複数のパブリッククラウドを利用する企業が増えている。パブリッククラウドは手軽に利用開始できるため、各部署がクラウド環境を利用し、「結果的にマルチクラウドを利用」しているケースも多いのではないだろうか。複数の異なるクラウド環境を運用管理する場合、コストやセキュリティ、スキル習得などの課題に直面してしまう。これまでサーバーやデータセンターの抽象化を行ってきたVMwareは、これらの問題を解消するべくマルチクラウドの抽象化を実現するソリューション「VMware Aria」を2022年9月に発表した。そのコンセプトや利点を紹介する。

コスト・セキュリティ・ガバナンスなど、
マルチクラウドの課題が顕在化

 インフラ管理のプロダクトは、サーバーやネットワーク健全性を監視し、運用を支援する。クラウド環境では、アプリケーションやコンテナ、コスト、セキュリティなども管理する必要がある。

 VMwareが2022年8月29日~9月1日に米国で開催したイベント「VMware Explore 2022」で発表した「VMware Aria」は、マルチクラウドでのアプリケーションとインフラ、サービスを共通データモデルで単一プラットフォームに統合・管理するというコンセプトを持つ。

 VMwareの調査では、2021年には73%の企業が2つ以上のパブリッククラウドを利用しており、2024年にはこれが81%を超えると予測している。日本企業でも事業部門や目的によって異なるパブリッククラウドを採用し、全体としてマルチクラウドを利用しているケースも見られる。その背景には、アプリケーションのリリース速度の向上やITインフラに費やす時間の減少、ビジネスの生産性向上などのメリットがあるからだ。

 メリットの一方で、管理の困難さもある。それがVMware Aria登場の理由だ。マルチクラウド管理の課題についてヴイエムウェア マーケティング本部 チーフストラテジストの渡辺 隆 氏は次のように述べる。

ヴイエムウェア株式会社
マーケティング本部 チーフストラテジスト 渡辺 隆 氏
ヴイエムウェア株式会社
マーケティング本部 チーフストラテジスト
渡辺 隆 氏

 どうやってコストを最適化・削減していくか――。円安の影響によってクラウドコストの最適化は日本企業の大きなテーマになっています。また、アーキテクチャの異なるクラウドを利用すれば、ネットワークやセキュリティの構成も難しいのが実情です。クラウドに載せたアプリケーションをリファクタリングしていく必要もあります。各クラウドサービスは急速に技術が進展しますので、日本でも海外でも人材のスキル習得は大きな課題です」(渡辺氏)

 パブリッククラウドにはさまざまな選択肢があり、従量課金で手軽に利用できるものの、気がついたらコストやセキュリティ、ガバナンスなどの管理が部門ごとにバラバラで、人材の育成も追いつかない「クラウドカオス」の状況に陥ってしまう恐れがあるのだ。物理サーバーやデータセンターを抽象化してきたVMwareは、この課題を解消するため、マルチクラウドの抽象化をVMware Ariaによって実現しようとしている。

図:マルチクラウド環境で発生する新たな課題
図:マルチクラウド環境で発生する新たな課題

各種パブリッククラウドに接続・可視化し、APIで管理を容易に

 VMware Ariaのコンセプトは、共通のプラットフォームとデータストアによって、アプリケーションとクラウドをほぼリアルタイムにマッピングして、コスト、運用、自動化といったマルチクラウドの管理を統合するというものだ。

 このプラットフォームの土台となるのが「VMware Aria Hub Powered by Aria Graph(以下、Aria Hub)」だ。渡辺氏は「単一のUIによって、VMware Cloudだけでなく、複数のパブリッククラウドに対して一貫性をもった操作で管理を行えます」と説明した。

図: VMware Ariaのアプローチ
図: VMware Ariaのアプローチ

 Aria Hubは、各種システムの依存関係や隣接関係を示すグラフデータベースを利用しており、各種パブリッククラウドでのサービス利用状況を一元管理できるインターフェースを提供する。

 ヴイエムウェア クラウドマネジメント技術部 部長の京野 英司 氏は、利用イメージをネット検索にたとえて、「知らない場所を訪問する際、事前にパソコンやスマートフォンで電車の乗り換え情報や近くの店を調べるように、検索サービスの価値は、そこで提供される情報の作成でなく、Web区間にある情報を整理することです。同じようにAria Hubはプライベートからパブリックまでマルチなクラウド空間の情報を整理します」と説明した。

 Aria Hubでは「VMware Aria Graph 」データストアによって2億個以上のオブジェクトの関係を管理できる。アプリケーションを構成するコンピューティングリソースやデータベースなどの接続状況や各種設定をドリルダウンして確認ができる。リソースの金額やアカウントごとのコスト情報は「VMware Aria Cost powered by CloudHealth」によって提供される。

 Aria Hubの利用にあたっては、VMwareの他ソリューションは必須ではなく、他社製品を含めた情報を取得するアダプターの開発を進めており、プラットフォームに依存せずに情報を統合的に管理できる特徴を持つ。その上で、「GraphQL API」によって、異なるパブリッククラウドのコンソールに個別にログインすることなく必要な情報が取得できるようになっている。

 京野氏は「GraphQL APIは、基本的には1回のコールで必要な情報を、各種プラットフォームから取得できます。複雑な環境における正確かつ適切なスコープでの情報提供がAria Hubの価値のひとつです」と加えた。

ヴイエムウェア株式会社 クラウドマネジメント技術部 部長 京野 英司 氏
ヴイエムウェア株式会社
クラウドマネジメント技術部 部長
京野 英司 氏

ポリシー定義や移行、管理の最適化もサポートする
VMware Ariaのソリューション

 マルチクラウド環境のガバナンスに対して提供されるのが「VMware Aria Guardrails」だ。セキュリティ・コスト・パフォーマンス・設定において、コードベースの定義が可能だ。運用ポリシーやセキュリティポリシーをコードによってあらかじめ定めておき、運用において違反があれば通知し、自動または手動で手軽に修復してプラットフォームを健全に保つことができる。

 京野氏は「他社の類似のソリューションと決定的に違うのが、設定やセキュリティだけでなく、コストや性能などさまざまな観点から運用できることです。導入ハードルを低くできるよう、弊社の知見をライブラリ化したテンプレートも開発しています」と語った。

 データセンターにあるアプリケーションやシステムをマルチクラウド環境に移行するサービスが「VMware Aria Migration」だ。既存環境の整理、移行計画、移行の実施を中心に支援する。たとえば、オンプレミスに配備したvSphere上で稼働するアプリケーションをVMware Cloud on AWSなどのVMwareサービスに移行する際に、ネットワーク接続や必要な設定に加え、従来のパフォーマンスが移行先でも同等になるかを確認し、自動的に展開していくことができる。

 さらに、マルチクラウド環境の利用状況をAIや機械学習によって分析してビジネスへの洞察を提示するサービスが「VMware Aria Business Insights」だ。京野氏は「問題が生じたときの原因など、数ある情報中からほんとうに必要な情報を最適化して提供するサービスです」と説明を加えた。

図:VMware Ariaの3つのソリューション
図:VMware Ariaの3つのソリューション

パブリッククラウド各社にサービス提供する
VMwareだからこそできるソリューション

 複数のパブリッククラウドを統合管理できるVMware Ariaは、個々のインフラ運用の実務担当者向けというよりは、ITインフラ全体を管理する立場の人に向けた製品と言える。渡辺氏は「ある部門が使っているクラウドではコストの問題がなくても、複数のクラウドを利用する場合、組織全体では高額になっている場合もあり、より上位の管理者としては気になるところだと思います」と述べた。

 クラウドカオスの問題は、エンドユーザーだけでなく、パートナーとして顧客にサービスを提供するシステムインテグレーターにもあるという。京野氏は「例えば、AWSとMicrosoft Azure両方のパートナーとなっている企業では、ガバナンスやコストを最適化したうえで顧客の環境を管理していきたいと考えています」と指摘した。

 一方、パブリッククラウドクラウドベンダー各社は、それぞれが自身のサービスを利用してもらいたいため、ライバルと協調するようなクラウドカオス解消の動きは見られない。マルチクラウド管理に対する自社のアドバンテージについて渡辺氏は、「VMware Cloudは、AWS、Microsoft、IBM、Oracleなど各社に展開しています。これまでの仮想化の取り組みの歴史や価値も含めて、パブリッククラウド専業ベンダーとは違うポジションにいます。このような企業はほかにないと思います」と語った。

 また、パブリッククラウドクラウドは各種サービスの開発速度が速いため、マルチクラウド管理のサービスを提供するならその動きに追従していかなければならない。京野氏は「特定の機能にフォーカスしたマルチクラウド管理を提供できる企業はあるかもしれませんが、限定的なサービスカバレッジや中長期的なサービス継続性といった観点では懸念点も少なくないのではないかと思います。トータルにマルチクラウド管理ができる会社があるかと問われたら、クラウドプラットフォームに対する中立の立場と大規模な開発リソースの両方を有するVMware以外にないと私は信じています」と加えた。

 データセンターからマルチクラウドへの移行、またクラウド間の移行、マルチクラウド環境のトータルな管理、ビジネス上効率的な運用を支援するVMware Aria。VMware Aria Hub フリーティアは申し込みを受け付けしている。クラウドカオスの懸念を感じているなら相談してみてはいかがだろうか。

提供:ヴイエムウェア株式会社
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