作戦成功の裏には「インテリジェンス」あり--その大切さを国家レベルで考えてみる - (page 2)

梅田正隆(ロビンソン)

2010-05-06 13:30

 この戦略を立案するときにもインテリジェンスが深くかかわってくる。戦略とインテリジェンスの関係については、Larry Kahanerが著書「競争優位の情報戦略」で次のように述べており、その重要性について指摘している。

インフォメーションに比べて、インテリジェンスは常に不足している インフォメーションに比べて、インテリジェンスは常に不足している

 インテリジェンスが欠乏している状態を「Garbage-In, Garbage-Out (GIGO) 」とも呼ぶ。入ってくるものがガラクタだと、出てくるものもガラクタと言う意味だ。適切なインフォメーションに基づいたインテリジェンスがないと、適切な決定や正しい行動を起こすことは難しい。

 インテリジェンスの大切さは、歴史上古くから認識されていた。紀元前5世紀ごろ、いち早く戦略におけるインテリジェンスの重要性を指摘したのが、有名な兵法書「孫子」だ。有名な「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」の句は、戦闘を開始する前に、あらかじめ敵情を知り、そして自軍の状態を客観的に把握し、それらを統合して分析することの重要性を説いたものといえる。

 戦略を「立案」するためにはインテリジェンスが欠かせないのだが、世の中には、戦略や作戦計画の「実現」に必要となるインテリジェンスをもたらすために活動する、特別なチームが存在する。世界的に有名なチームの1つが、イスラエルの対外情報機関である「モサド」だ。

作戦成功の裏にインテリジェンスあり

 英国王立統合軍防衛安保問題研究所の客員研究員である小谷賢氏の著書「モサド−暗躍と抗争の六十年史」(新潮選書)によると、モサドは「首相の命によって動く官僚組織」であるが「法律にも規定されていない」機関であるそうだ。およそ1500〜2000人で構成されているらしく、米国CIAの10分の1の規模だという。少数精鋭のようだが、世界中にいるユダヤ系市民のネットワークも有効に機能しているようだ。

 まるでスパイ映画のような極めて困難と思える任務を遂行するモサドの活躍は、小谷氏の著書に詳しい。アルゼンチンのブエノスアイレスに潜んでいたナチスの残党、Adolf Eichmannを捕獲し、密かにイスラエルに連れ出した1960年の「アイヒマン捕獲作戦」をはじめ、1976年のエールフランス機ハイジャック事件では、ウガンダのエンテベ空港を作戦開始から30分で完全制圧し、人質105人のうち103人を救出しイスラエルに連れ帰った「サンダーボール作戦」など、その活躍ぶりは広く知られている。

 これらの作戦は、相手国の主権を侵害する外交上極めて危険な作戦であり、モサドが提供したインテリジェンスなくしては、決して実行されなかっただろうし、成功することもなかっただろう。このように国家レベルの戦略や作戦計画を実現するときにもインテリジェンスは不可欠なのである。

 この例から、インフォメーションを集め、そこからインテリジェンスを生み出す作業がいかに重要か、なんとなくイメージできたのではないだろうか。日本国、そしてあなたが所属する企業や団体の「インテリジェンス」は、どのように生み出され、活用されているのかが気になってきたのではないだろうか?

 さて、次回からは企業活動にとって重要な「ビシネスインテリジェンス」について、基本的なところから見ていくことにしよう。あなたがかかわるビジネスの成否はインテリジェンスの生産と活用をいかに行うかにかかっていると言っても過言ではない。心して取り組もう。

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