空間データが変える未来

G空間情報が変える社会とビジネス - (page 2)

高橋睦(野村総合研究所)

2013-12-19 07:30

 次に、防災を中心に、社会課題解決へのGIS空間情報活用の要請が高まっていることも大きい。

 先の東日本大震災では、国土地理院や民間測量会社などが被災地の空中写真や衛星写真をウェブサイトで公開したり、sinsai.infoが被災地と支援者をつなぐ役割を果たしたりするなど、官民個人問わず地理空間情報が生成、流通され、その有効性が改めて認識された。一方で、政府機関や自治体レベルでは、応急時の被害状況の把握、共有や支援活動、復興計画の策定において必ずしもG空間情報を効果的に活用できていなかった。

 例えば防災分野では、位置情報を活用した被災者の居場所把握や地図を用いた多機関間のリアルタイムな被害状況の把握、共有、最適な避難誘導などの仕組みができれば、人命救助の可能性も高まるだろう。また、社会資本の維持管理の効率化、高度化や地図を用いた行政の意思決定補助やサービスの効率化ができれば、人口減少下での行政サービスの全体最適化が可能になる。このように、国全体の安全安心力や経営力を高めるためのG空間情報を活用した仕組み構築とそのための環境整備を進めていくことが必要だ。

G空間の意義とは

 さらに、G空間のビジネス界へのインパクトを考えてみたい。

 G空間の意義、それは「空間」と「情報」の融合と言える。GISは、さまざまな地理空間情報を地図上でレイヤーごとに管理し、分析できるシステムである。点(ポイント)、線(ライン)、面(ポリゴン)で情報が作られ、レイヤ相互の分析には空間結合など時間のかかる処理が必要だった。G空間の世界では、高度な測位と地図の高精度デジタル化、さらに情報処理技術の進展により、位置IDを起点として情報が垂直統合するIDモデルによる情報流通が実現すると考えられる。つまり、位置IDを基点にして、リアルタイムな情報検索が可能となる。

 5月に米Googleが発表した新たなGoogleマップは、情報融合の方向性を示している。Googleマップ上の特定の場所をクリックすると、カード上に施設の名前と今日の開店時間、関連する口コミ情報などが一括で表示される。ルート検索をクリックすると、自転車を含む交通手段の選択肢が詳細なタイムスケジュールとともに提示される。地図の上にあらゆる情報が統合され、行動の選択が容易になるのだ。

 今後、3Dマッピングの技術進展により、高さ、時間も含めた現実世界のG空間情報化が進む。リアル世界とコンピュータ上の世界がいわば相似形となる。これにより、モデル化やシミュレーションがより身近なものになるだろう。あらゆる情報は位置情報、時間情報と結びつき、ビッグデータを形成する。そして、O2Oがより進化し、最初に述べたアマゾンプライムエアのような自動化やオートメーションがさまざまな産業やサービスに組み込まれるようになる。


地理空間情報関連市場の市場規模 単位:億円 (総務省委員会資料 NRI提供)

 野村総合研究所が5月に総務省の「G空間×ICT推進会議」に提出した資料では、2012年度では19兆8000億円であるG空間関連市場が、2020年には現状のままの拡大で32兆3000億円、G空間情報を利用するための各種施策投入効果を見込んだ最大シナリオで62兆2000億円まで拡大すると試算した。

 しかし、その実現にはまだまだハードルが高い。基盤情報、特に行政保有情報の流通の仕組みづくりやデータ流通のためのプラットフォーム構築、個人情報、二次利用などのルールの確立などが求められる。IDモデルにしても、世界を統一的に表現する枠組みはまだこれからである。ただし、AmazonやGoogleマップの例など、世の中が急速に動いている中、実現の一端が見えてきたのも確かである。

 今後は、G空間と情報通信の融合を切り口に、関連分野での動向及び課題について紹介していく。

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高橋 睦(たかはし ちか)
 野村総合研究所にて都市政策、地域情報化、都市の海外展開等に係る調査・コンサルティング業務を担当後、官民人事交流制度により国土交通省にて地理空間情報活用推進に係る業務に従事。 現在は野村総合研究所に復帰し、さまざまな社会課題におけるG空間やICT活用に関する調査、コンサルティングを主に活動している。

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