「サーチ」ブックレビュー:人間と機械をつなぐ新たな検索の世界

Mary Branscombe (ZDNet UK) 翻訳校正: 沙倉芽生

2015-03-20 06:00

 検索というものが、知りたい情報を探すにあたってウェブサイトのリンクを見つけるためのものだと考えるのであれば、すでにGoogleが10年前にこの課題を解決している(と同時に、YahooやBingはほとんど諦めている)。しかし、技術によって拡張されつつある世界を十分に活用するためのものとして検索を捉えるのであれば、まだ課題は多い。とはいえ、その課題は非常に面白いものである。


Search: How the Data Explosion Makes Us Smarter ● 著者:Stefan Weitz ● 出版社:Bibliomotion ● 176ページ ● ISBN 978-1-62956-034-2 ● 26.95ドル

 検索はすでに、自分の欲しい物を求めて文字を入力し、関連ページのリストを表示するという枠を超え、ユーザーの作業の一部もしくはほとんどの作業を行うシステムへと変化しつつある。将来的に検索は、クエリの入力からかけ離れたところまでたどり着くだろう。新しい場所に旅行した際、自動的に関連情報が入手できないのはなぜだろう。温度自動調節器が太陽を見て、部屋の温度を低く保つにはエアコンをつけるよりもカーテンを閉めろと判断するようになるのは検索が原因なのだろうか。Kinectがユーザーの感情を読み取って映画を本当に楽しんだかどうかを察知し、次回映画を検索する時に何がいいのか提案するとしたらどうだろう。また、ユーザーがサイトのどこまで読んだかをウェブカメラが把握し、ユーザーの物覚えの良し悪しをシステムが判断したらどうだろうか。

 著書「Search: How the Data Explosion Makes Us Smarter」(「サーチ:データの爆発によって人類はいかに利口になるのか」の意)の中で、米MicrosoftのBing担当検索ディレクターであるStefan Weitz氏は、検索が人類と技術をつなぐと述べている。検索が、われわれの周りにあるほぼすべてのことを説明するようになり、より深い意味を持たせるようになるというのだ。もし検索というものが、世界中のすべてをインデックス化して理解し、聴覚や触覚、さらには臭覚、視覚といった機能まで持ち、人間やその他のシステムとさまざまな方法でコミュニケーションを取るとすれば、そのシステムがいかにして設計され、実際に何ができるのか、詳しく知りたくなるだろう。もし検索が人類と世界をつなぐものになるのであれば、検索そのものが世界になると言っても過言ではない。

落とし穴の可能性も

 問題は、これが良いことなのか悪いことなのかという点だ。Weitz氏は、技術面での課題を解説しているほか、ビジネスモデルやプライバシー、セキュリティに関する課題についても語っている。Weitz氏は検索というものを、常に側にいるアシスタントであり、普通に生活しているだけで優しく世界を改善してくれるものだと考えているのだが、こうした課題は同氏の検索への考え方を変えてしまうようなものであるにも関わらず、しっかり解説しているのだ。検索がどのように世界を改善するのかというと、例えば何かヘルシーなものをオーダーするよう促されたり、大酒飲みになればなるほどお酒に高い料金を支払う必要が出てきたり、ミーティングの前に関連するメッセージやドキュメントを見せてくれるといったように、さまざまなニーズを察知するようになるという。

 経済面だけを考えると、こうした未来がやって来ることは難しい。例えば、現在のビジネスモデルでは、高価なシステム運用コストをまかなうため、とにかく広告を見せることに価値があるとされている(Weitz氏によると、5万台のサーバが置かれたデータセンター1カ所を稼働させるために月間350万ドルかかるという)。本書の中でWeitz氏は、われわれはデータを自身のものとして所有しておらず、情報を一般のものとして公開しているのだと述べる。なぜならば、誰も情報の価値を理解していないためで、オンライン上では物理的な世界で存在するような保護というものが存在しないからだという。

 とはいえWeitz氏は、自らを技術楽観者だとして、リスクを語りつつも潜在的価値を強調している。本書では、図式と情報の関係についての詳細を含め、ウェブ検索の初期から現在のようにすべての技術が検索に関連づけられつつあるところまでの流れを詳しく解説している。メタデータ付きの画像や、自動的に文字が出るビデオ、ソーシャルネットワーク上の個人情報、「いいね」ボタンを押すことの意味、配車サービスのUberや複数のサービスを連携するIFTTTなど現実の世界と結びついたアプリ、スマートデバイスやスマートセンサ、イベントへのデジタル招待状、チェックインした場所、支払いシステムなど、Weitz氏はいかに現在の先進国世界がデジタル化されているか、またWolfram Alphaのような質問応答システムがいかにして情報をかき集めて答を出しているかについて説明している(Microsoft社員が執筆した書物でありながら、同社の研究所で行われている面白い実験を少し紹介しているほかは、Microsoftの技術に特化した話はほとんど書かれていない)。

 Weitz氏は、機械学習について、また人間を検索システムの一部とすることでより便利なシステムが誕生するということについてわかりやすく解説している。さらに、人工知能の可能性を語っている部分では、同氏の楽観性がかいま見える。Weitz氏は説教じみたことは言っていないが、何か利口なことをするサービスやアルゴリズムがうまくいくのはアプリのおかげだと考えているようだ。例えば、SiriやCortanaといった知的アシスタントを利用しているユーザーが投げかける質問のうち、30~40%程度は本当の質問ではないという。つまり、何か回答を求めて話しかけているのではなく、こうしたアシスタントが本当にわれわれを人間だと認識しているかどうかテストしているだけだというのだ(人間というものは、時に矛盾していたり非論理的でもあるのだが)。

 同書を読んでいると、とても頭のいい人が隣で過去20年の技術を語り、次の20年を予想している話を数時間聞いているような気分になる。技術に関してどこまでついていけるかはさておき、確実に今まで知らなかったことを学ぶだろう。また、今後われわれが向かう方向についても面白い考えが浮かぶはずだ。それをすばらしいと捉えるか恐ろしいと捉えるかは、本が決めることではなく、読者がいかに世界を見るかによって決まる。もちろんWeitz氏はすばらしいと捉えているが、読者に同意は求めていない。同書は、現在の技術に関する問題に対し、すべて回答しているわけではない。だからこそ、技術の課題について書かれた入門書としてすばらしいものになっているのだ。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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