山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国でグーグルが利用できなくなり半年、ユーザーは

山谷剛史

2015-01-13 06:38

 中国では、5月27日にGoogleへのアクセスが遮断されたが、その7か月後の12月27日、今度はGmailにアクセスできなくなった。この日よりネットの壁越えの代名詞であるVPNの検索数が1.5倍に増えた。

 12月29日、外交部の定例会見では、この件の質問が出たが「具体的な状況がわからないので、担当部門に直接連絡を提案する」という回答をした上で「中国は外国からの投資や合法的な経営を歓迎する」というお決まりの回答にとどまった。12月30日、環球日報は「本当に中国が封じたのなら、その現実を受け止めるべきだ」という記事を掲載。新聞でアクセス遮断の存在を書くことは、示唆レベルでも珍しい。

 Googleが提供する数々のサービスは、中国企業が似たようなサービスを出し、中国のネットユーザーはそれに満足している。たとえば検索の「百度」、Gmail代わりの「網易」のメールサービス、YouTube代わりの「優酷」や「土豆」が代表的だ。Googleマップがなくても、多くの中国ユーザーは、「百度」や「高徳」で不満はない。

 中国人は英語が苦手な人が多い。もちろんプロフェッショナルな人はいるが、仕事や学問や生活などで英語を普段使いしている人以外は、昔から横文字アレルギーや横文字系サービスが苦手な人が多い。近年では、1960年代~80年代の貧しかったころを描いた映画作品がでてきているが、英語が苦手な当時の大学生が作品中でしばしば描かれている。

 こうしたことからGoogleは、過去には中国市場に浸透すべく、「谷歌(グゥガ)」という中国名を名付け、「g.cn」という短いドメインを取得した。百度に対抗して、音楽検索サービスを投入したり、無料IMEをリリースするなど現地化に努めている。ただ百度のシェアは高まる一方だった。政府が、キャッシュにアクセスできないなどの規制をかけたというのもあるが、結局中国人は中国人によるサービスが好きだったというのが理由で、百度など中国サービスを選んだ。

 筆者自身の経験だが、Google Earthを中国の中年の知人に見せたことがある。地図への好奇心が返ってくるかと思ったら、「なんてアメリカは恐ろしい国なんだ」という国防的感想が返ってきた。アメリカは中国の敵国という認識は多くの知人が思っているところで、彼らなりに敵国の定義は違うのだろうけど、Google Earthを見た中年の反応はさもありなんであった。

 そういった考え方が根っこにあるので、多くの中国ネットユーザーは、Gmailをすでに利用しておらず、このニュースの反応は少ない。また反応があるにしろ、残念がる意見があるほかにも、「スノーデン事件でわかった。アメリカに干渉されないネットツールは必要」という意見もある。

 一応Googleに変わるサービスがあるからといって、それがGoogleに相当する実力があるかというと話は別だ。Googleが使えなくなって困ったと苦情が見られたが、言い換えればGoogleの代替サービスが代替たりうる能力を満たしていなかったのである。

 たとえば百度地図には外国の地図は掲載されていない。百度の検索機能は、中国で両方利用していた中国人利用者の間では「ひどいクオリティ」と言われて久しい。中国語の検索結果も評価されていないのに、英語の検索結果はさらに輪をかけてひどい。日本語やその他の外国語は、もう目も当てられない。

 Googleが利用できなくなり、困ったのは研究者や学者だ。翻訳機能や外国の研究が調べられないと悲鳴をあげる。百度も翻訳サービスを出している。数カ国語を用意しているが、読者は日本人なので、日本語翻訳での例を出そう。試しに「ふじさん」と入れれば「日本的象征」、「ふくおか」と入れれば「西日本」、「ねんがじょう」と入れると「小姐。」と返ってくる始末だ。

 Gmailもまた研究者や学者、それに留学希望者や貿易会社に影響を与えた。もちろん在中外国企業もだ。外国企業とのやりとりや学術用途では、どうしてもGmailは要る。「Gmailが利用できなくなれば、それだけで国際市場で差はつき、先を越されかねない」と危惧する声や「Gmailからの留学申請のみを受け付ける北米の大学もある」という声もある。

 ところで本国中国でGoogleなどを全く利用しなかった中国人留学生が、Facebookだのtwitterだのを話す外国人との輪の中で、会話に入れない例を多数聞いている。在日中国人の定番サイトでは、Gmailが使えなくなったことは話題にもならない。

 ネットで慣れ親しんだサービスを、あるとき切り替えるなんてことは容易ではない。銀座などを歩く中国人観光客で、地図アプリで現在地を見ながら歩いている人はいるだろうか。中国国外に住み始めたらからといって、ネットで慣れ親しんだ母国のサービスを容易に切り替えられない中国人は少なくない。中国国内でも国外でも、ますます大海を知らず、自国のネットサービスという井戸の中に籠りそうだ。Gmail封鎖により、中国人や中国企業の海外進出に影響が出てくるのだろうか。もう少し待てば興味深いエピソードが出てくるかもしれない。

山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。

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