「プロジェクトマネジメント」の解き方

プロジェクトを「丸投げ」できない理由(前編)--SIerに頼りすぎるリスク - (page 3)

小室貴史(シグマクシス)

2016-01-18 07:00

システム構築プロジェクト、マネジメントすべき4つの領域

 翻って、ユーザー企業がシステム構築をプロジェクトマネジメント(PM)を通じて成功させるために、目を配らなければいけない領域はどこか。われわれは以下の4つだと考えている。

<1>全体管理

 スコープ(目的と範囲)、時間、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達、統合管理の9つの観点のマネジメントを行う。

<2>改革/変革推進

 プロジェクトに関連する変革(組織変革、業務改革など)、特にシステム導入と並行で実施すべき変革の推進や管理を実施する。

<3>利害関係者調整

 プロジェクトオーナー、関連する業務部門・IT部門の管理者・社員、プロジェクトメンバー、社外関連メンバーなどを適時適切に巻き込み、協力的な関係性を維持する。

<4>システム構築

 システム構築に関わる作業で関与するベンダーの選定、スコープ調整、パフォーマンス(進捗、品質)の管理などを実施する。

 通常、PMというと(4)だけをイメージしがちだが、プロジェクトの目的は「システムを構築すること」ではなく、「作ったシステムを使って事業の価値を上げること」だと考えれば、この4つの視点なしでプロジェクトの成功はありえないと考える。

 ここで先ほどの「プロジェクトの組み方」3つのパターンに戻ってこれを当てはめてみる。パターン(3)の、自ら複数のSIベンダーを管理するユーザー企業は、この4つを自社だけでマネジメントすることになる。当然、パターン(1)の「丸投げ」請負型SIベンダーも、パターン(2)のプライムベンダーも、いざプロジェクトが始まったら、ユーザー企業と並んでPMに責任を持つ。

 実際、ユーザー企業も、契約書の条項や作業範囲記述書(Statement Of Work:SOW)で、SIベンダーのPMに対するコミットメントレベルを高めようと工夫をするのが普通だ。しかし、実態としては、ユーザー企業と同等レベルの立ち位置と視点でPMに責任を持つ(持てる)SIベンダーはほとんどいない。

 なぜなら、彼らがPMにおいて責任範囲とするのは、自ずと「自社が構築を手掛けているシステムの全体管理」に限られるからだ。多少スコープを広げたとしても、自らが構築を手掛けるシステムに関わる改革/変革推進や利害関係者調整の部分まで。それも、自分の本丸である担当システムの構築にトラブルを抱えれば、当然自社にとっての優先度・重要度に合わせて資源を再配分してしまう。

 具体的に、それぞれの領域で起こり得る状況について見てみよう。

※SIベンダーの立場で見る、プロジェクトマネジメント4つの領域
SIベンダーの視点その結果、ユーザー企業が抱えるリスク
1.全体管理・自らが担当するシステム構築・導入に影響がある範囲・内容中心で管理を行う。・SIベンダー視点での優先度、重要度判断が行われるため、部分最適化が進む
2. 改革/変革推進・新業務・システムの影響がある改革/変革については、進捗確認レベルで実施。
・成果実現のために重要な改革/変革であっても、システムに関係ない内容については優先度を下げるケースも
・戦略的案改革/変革が進まない
・システム導入と改革/変革の足並みがそろわず、システム導入後の目指す成果が実現できない。もしくは、システム導入効果の刈り取りが遅れる
3. 利害関係者調整・システムの業務要件定義に影響がある範囲の利害関係者調整を優先する。・利害関係者が多岐にわたる場合に、重要な利害関係者全てを納得させられない。
・システムプロジェクト外の利害関係者とのコミュニケーションが疎かになり、事後的に決定事項を覆しに来るなど大きな課題になる可能性がある。利害関係者とベンダーが対立関係になるケースも
4. システム導入・ここで品質低下などの問題が発生した場合、全ワークロードをこの領域の問題解決に集中する。・SIベンダー作業の管理に追われ、ユーザー企業側の管理が疎かになる。
・プロジェクト全体の成果実現に集中できなくなる。トラブルの現状をユーザー企業が認識しにくくなり、アクションが遅れてプロジェクト全体の遅延につながる



 両社とも必死に取り組んでいるのに、このように互いの期待にギャップがあるままプロジェクトが進行し、気が付いた時には手がつけられない状況に陥ってしまう。こういうケースを経験した読者も少なくないだろう。

 結局、自社のスキルが十分であろうがなかろうが、SIベンダーに盲目的に頼っている状況から脱却しなければ、プロジェクトの成功を実現することはできないのだ。ではどうすればよいのか? 後編は、その具体的な解となるプログラムである、プロジェクト・マネジメント・オフィス(PMO)について解説する。

(後編に続く)

小室貴史 株式会社シグマクシス P2(Program&Project) シェルパ ディレクター
外資系コンサルティングファームを経て2012年シグマクシスに入社。経営管理、管理会計分野を中心とした戦略構想立案、プロセス変革、組織変革のコンサルティングに強みを持つ。流通業、製造業、商社、SIベンダー等に対するパッケージシステム導入のプロジェクトマネージャー、大型システムプロジェクトのPMOリーダーの経験を多数有する。

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