Rethink Internet:インターネット再考

「結果」ではなく「過程」こそがインターネットの最大の価値 - (page 4)

高橋幸治

2017-10-07 07:30

「結果」の価値を上回る「過程」の価値を再び蘇生させる

 私たちは既存の知識を何か別のものに喩えることによってのみ、新しいイメージを生み出すことができる。逆に言うといくら想像力を逞しくしたところで、見たことも聞いたこともないものを私たちは頭に思い描くことはできない。筆者が本稿で紀伊半島の熊野古道にインターネットのイメージをなぞらえてみるのも、そこにインターネット第1四半世紀の間に脇に追いやられてしまったもの、合理性や効率性の名のもとに排除されてしまったもの、経済原理と馴染まないがために忘却/隠蔽されてしまったものを、いま一度この第2四半世紀に招来しなければならないだろうと思うからである。

 編集工学研究所所長の松岡正剛氏と情報学者のドミニク・チェン氏による刺激的な対談集『謎床 思考が発酵する編集術』(晶文社)の中には、二人の以下のようなやり取りがある。

松岡 だから、先にデスクトップメタファーの話をしましたが、このポジティブ・コンピュータの中の日本のダンジョンのコースウェアには、いろいろの「場」が入っていてほしいんですね。そこは二択的ではなくなっていってほしい。少なくともダイコトミーな黒白型や善悪的ではないものになってほしい。

 これは前にも話しましたが、「手続きがコンテンツ」であり、「手続きが意味をもつ」「方法が意味である」ということです。これらが、ぼくが日本という方法をずっと考えきたいくつかの窓ですね。

ドミニク なるほど、とても参考になります。結果よりもプロセスの意味に注目するということですよね。意味や価値が絶対座標ではなく、相対的に変化する軸のあいだを行き来するような。


松岡正剛氏とドミニク・チェン氏による対談集『謎床 思考が発酵する編集術』(晶文社)。人間と情報との関係をあらゆる角度から問い直す知的興奮に満ち溢れた一冊

 今年の6月、米国のYahoo!がベイラゾン・コミュニケーションズに買収されたというニュースが業界内では話題となったが、ほぼ同じ頃、独自に存続することになった同社の日本法人が1996年から続いてきたディレクトリー検索を終了するとの報道がひっそりとなされた。あまり人々の口の端に上らなかったニュースだが、これは案外、軽視できないトピックである。

 これまでの私たちは情報へたどり着くまでの「最短距離」だけを目指してきた帰結として、スピードを最良の「結果」として認定することにあまりにも慣れすぎてしまった。情報へのアプローチにはGoogle的な「最短距離」志向の検索だけでなく、いくつもの入り口からさまざまな経路をたどり、時に迷い、迂回し、逆戻りをしたり寄り道をするような方法があってもいいのではないか? 不要として切り捨てられたディレクトリー検索には、そうした非合理で非効率な情報への接触の「過程」が内包されていたのである。

 人工知能も人間が到底かなわないような計算能力を持つということだけでは到底「知性」とは呼べないだろう。その計算能力を生かした先に、「結果」の価値を上回る「過程」の価値を蘇生させるようなことができるようになってはじめて「Singularity」(技術的特異点)への眺望が見えてくる。人工知能と接続される第2四半世紀のインターネットも、当然のことながら、そうした人間の逡巡や逸脱、無駄、失敗などをポジティブなエレメントに転換/変性させていくことにこそ、次なるジャンプの可能性が潜んでいるように思う。高野山から熊野を巡る紀伊半島の旅で、そんなことをつらつらと考えた……。

高橋幸治
編集者/文筆家/メディアプランナー/クリエイティブディレクター。1968年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年までMacとクリエイティブカルチャーをテーマとした異色のPC誌「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに主にデジタルメディアの編集長/クリエイティブディレクター/メディアプランナーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部美術・デザイン学科にて非常勤講師もつとめる。「エディターシップの可能性」を探求するセミナー「Editors' Lounge」主宰。著書に「メディア、編集、テクノロジー」(クロスメディア・バブリッシング刊)がある。

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