Rethink Internet:インターネット再考

人類独自の「知性」とAI固有の「知性」は異なる可能性がある

高橋幸治

2017-09-02 07:30

人工知能はAutomaticな機械ではなくAutonomousな知性

 7月下旬から8月上旬にかけて、衝撃的なニュースが世界中を駆け巡った。ZDNet Japanの読者ならばすでにご存知のこととは思うが、Facebookの人工知能研究所(FAIR:Facebook AI Research Lab)が開発したチャットボットの「Bob」と「Alice」が、人間には解釈不能な独自言語でコミュニケーションを行っていたことが判明したという。

 FAIRは即刻このプロジェクトを中止したとのことだが、倫理的な判断はひとまず保留して、あえて現象的な考察にとどまるなら、今回のニュースは今後の人工知能の行方、さらには人間と人工知能との関係を考える上で非常に興味深い内容を包含している。(米CNETに7月31日に掲載された記事。人工知能のチャットボット「Bob」と「Alice」は英語の語彙を独自の語順で羅列することによって、彼等にしかわからない意味を生成してコミュニケーションをとっていたという

 いまさら述べるまでもなく、人工知能はAI=Artificial Intelligenceなわけだから、これまでのAutomatic(自動的)な機械とは異なりAutonomous(自律的)な知性である。従って今回のような事態が発生したとしても、AIという言葉を字義どおりにとらえるのであれば、実はことさら驚くにはあたらない。むしろ、AIがプログラムをひたすら忠実に実行するだけの代物だとしたら、それを知能と呼ぶことなどできないのではないか?

 AI同士が独自言語で会話をするということが果たしてプログラムの不備に起因するのか、それを禁止することが容易に可能なのかどうか筆者は寡聞にして知り得ないが、今回の問題はAIがAIたるゆえんを、はからずも私たちに改めて知らしめた、もしくは突き付けたと言っていいかもしれない。知能=知性とは自らの力で不断に現在を更新してしまうものであり、AIとは本来的に人間に固有の思考フレームや認識フレームを乗り越えてしまうものではないのか?

 このFacebookの“AI暴走”事件(世間的にはそう捉えられているようだ)を聞いて筆者が真っ先に思い出したのは、今年5月に公開された映画『メッセージ』(原題は『Arrival』)である。本作はテッド・チャン原作のSF小説『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫)の映画化で、今秋公開予定の『ブレードランナー2049』の監督も務めたドゥニ・ヴィルヌーヴによる力作だ。

 映画は原作と異なる部分はあるものの、根幹となっているテーマはしっかりと継承されており、哲学的な主題が美しい映像と共に巧妙に視覚化されている。本作は10月18日にDVD等がリリース、9月20日にはデジタル先行配信が開始されるとのことである。

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