映画「メッセージ」に描かれる“人間とは異なる知性”との出会い
映画未見の読者もおられると思うので、物語の結末だけはネタバレしないように気を配りつつこれからの話を進めていきたいと思う。映画『メッセージ』のあらすじは以下の通りである。
「メッセージ」予告。2017年5月に公開されたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による映画『メッセージ』の予告編。間もなくDVDやBlu-Rayがリリースされるので、未見の方は是非ご覧いただきたい。
ある日、世界の各地に謎の巨大飛行体が姿を現し、目的不明のまま飛来した場所に浮遊していた。各国政府はさまざまな分野の学者の叡智と科学技術を駆使して七本脚のエイリアン=ヘプタポッド(原作中では“それら”とも呼ばれている)とのコミュニケーションを試みるが、ボード型のスクリーン越しに姿を見せるヘプタポッドたちが地球に来訪した真意は確認できない。そんな閉塞状況の中、物語の主人公である言語学者ルイーズが米軍に招聘(しょうへい)され、ヘプタポッドが使用する言語の解読に乗り出す。
当初、ヘプタポッドたちが発する音声言語の分析に力点が置かれていたが、ルイーズの発案でアルファベットとヘプタポッドが用いる文字言語の交換作業が行われることになった。ルイーズは次第にヘプタポッドたちが使う文字言語に、人間が用いる言語の特性とはまったく異なる認識の原理が存在することに気付く。それは私たちにとってはごく当たり前の時系列的/因果律的な時間認識ではなく、過去と現在と未来を一挙に把握する驚くべき認識様態であった。そして、ヘプタポッドの言語を理解し、会得し、駆使し始めたルイーズは、やがてヘプタポッドたちと同様の方法で自分の人生を認識するようになっていく……。
これ以上の説明は物語の核心に接近していってしまうので、もうこれくらいにしておこう。テッド・チャンによる原作『あなたの人生の物語』の中には以下のような記述がある。
人類の、そしてヘプタポッドの祖先がはじめて意識のきらめきを得たとき、両者は同じ物理世界を知覚したが、知覚したしたものの解析の仕方は異なっていた。最終的に生じてきた世界観の差は、その相違の究極的結果だ。人類は逐次的認識様式を発達させ、一方ヘプタポッドは同時的認識様式を発達させた。われわれは事象をある順序で経験し、因果関係としてそれを知覚する。“それら”はあらゆる事象を同時に経験し、その根源にひそむ目的を知覚する。最小化、最大化という目的を。