デジタルビジネスへの革新は少数精鋭で--重要なのは“ライトタイム”

鈴木恭子

2014-05-15 14:28

 5月14日に開催された、企業の経営者や最高情報責任者(CIO)らを対象にしたコンファレンス「IT Trend 2014」(ITR主催)。午前中の特別講演には、米国のIT調査会社であるConstellation Researchの会長兼プリンシパルアナリストであるR“Ray”Wang氏が登壇。「デジタルビジネスの将来」をテーマに、企業が取り組むべきデジタル化戦略について語った。

 Wang氏は「2000年にFortune 500に名を連ねた企業の52%はすでに存在しない。われわれはデジタルイノベーションの真っただ中におり、そのスピードは年々加速している。デジタルビジネスに対する取り組みが、企業の明暗を分けると言っても過言ではない」と述べ、デジタル化の必要性を強調した。

R“Ray”Wang氏
Constellation Research 会長兼プリンシパルアナリスト R“Ray”Wang氏

 急速に変化するデジタルビジネスの好例として同氏が挙げるのは、SNSだ。「利用者のSNS活用状況はデジタル熟練度の指標となる」とした上で「TwitterやFacebook、LinkedInなどは、単なるコミュニケーションプラットフォームではない。そのSNSにどのような利用者が集まるかでトレンドが可視化される。SNSで収集されたデータは、ビジネス革新の原動力となるビッグデータだ」と語った。

 Wang氏は、M2M(Machine to Machine)や“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”で収集されたビッグデータが、企業にもたらす価値についても言及した。

 ビッグデータ活用で大切なことは、「可視化」と「コンテクスト(内容/事情)理解」であるという。あらゆるソースからデータを収集し、分析、可視化することで“情報”としての価値を持たせる。そして、業務担当者や経営層が意思決定できるようインテリジェンスを付与し、価値のある情報に昇華させることで、ビジネス戦略を立てるための“情報資産”となる。

 「ビッグデータ活用で見落とされがちなのは、その目的だ。ビジネスが欲しいのは、経営戦略に役立てるための情報だ。(データを情報に昇華させる)ITのプロセスではない」(Wang氏)

ビッグデータを活用するプロセスとその領域
ビッグデータを活用するプロセスとその領域。“データ収集から情報整理”はITの領域であり、“分析(洞察)から決定と行動”がビジネスの領域となる

リアルタイムよりもライトタイム

 今後は「リアルタイム(Real Time)性」でなく「ライトタイム(Right Time)性」が重要になるとWang氏は指摘する。

 リアルタイムは一定の条件で、機械的に情報を提供することを指す。「ありがちなのが、ユーザーがお店の近くに行くと、デバイスに情報をプッシュ配信する方式だ。しかし、買い物をする気がないユーザーにとって、こうした情報は何の役にも立たない。それよりも、ユーザーのコンテクストを理解し、必要な時に適切な情報を確実に届けられることが競合との差異化につながる」(Wang氏)

 今後のデジタルビジネスで重要なのは、「利用者の満足度を向上させ、高品質なサービスを提供できるという“ブランド”を確立すること」であり、「ビジネスモデルをシフトさせること」だと同氏は説く。「製品を製造して販売する」から「価値(ブランド)と、その製品が提供する“体験”を販売する」ことが主流になるというのが、その主張である。

 「例えば、iPhoneを考えてほしい。(ポータブル音楽プレーヤーとしての)iPhoneの音質は悪い。しかし、聴きたい曲を1曲単位で簡単に購入できるという利便性を提供したことで、多くのユーザーから支持された。人々はiPhoneを通じて得られる(聴きたい曲をデバイスから簡単に購入できるという)体験に価値を見出している」(Wang氏)

 とはいえ、ビジネスモデルのシフトは簡単なことではない。大規模企業であれば、なおさらだ。これについてWang氏は、興味深いデータを示す。下の表は、企業のデジタル化に対する熱心度を4段階に分類したものである。

企業のデジタル化に対する熱心度
企業のデジタル化に対する熱心度。一番多いのが「慎重派(Cautious Adopter)」だ

 このうち、「マーケットリーダー」は5%、「ファストフォロワー」は15%となっている。Wang氏は「大規模企業であれば、マーケットリーダーになるとは難しいだろう。しかし、少なくともファストフォロワーを目指してほしい。そのためには、IT部門とビジネス部門が密に連携することが重要だ。変化を恐れて慎重になれば、競合に先を越されてしまう。もちろん、現状維持に固執し、乗り遅れるのは論外だ」と語る。

 講演では、質疑応答の時間も設けられた。「大企業が市場の変化に迅速に対応するために必要なことは何か」との質問に同氏は、「コストの最適化」を挙げた。

 「例えば、社内の一部システムをクラウドした場合には、どのくらいのコストを削減できるのかを試算し、クラウド化できる部分は実行する。メンテナンス費用など既存の契約を見直し、削減できる部分を浮き彫りにする。こうしたことの積み重ねが、俊敏性をもたらす」(Wang氏)

 もう1つ大切なこととして「デジタルビジネスの革新は、少数精鋭チームで行うべきだ」とアドバイスする。「残念ながら既存の組織を踏襲したチームでは、革新は起こせない」と語り、講演を締めくくった。

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