ガートナー ジャパンは10月15~17日にイベント「Gartner Symposium/ITxpo 2013」を開催した。その中で「デジタル化する世界におけるCIOの課題:世界と日本」と題して、ITを巡る環境が激変することで、最高情報責任者(CIO)の位置付けがどう変わるかを軸に、企業ITの近未来について解説した。
ITではなく、デジタル戦略を考えるべき
米Gartner リサーチ部門 バイスプレジデント兼フェローのDave Aron氏は「CIOにとって世界はまったく変わってしまった。世界のエンタープライズITは“第3の時代”に入った」と指摘。「2000年くらいまでが第1の時代。この頃までは、ITから多くのイノベーションが生まれ、価値が提供されたが、当時ITはまだ信頼性や予測性がそれほど高くなかった」とこれまでを振り返った。
その後、いわゆるドットコムバブルが弾け、2000年問題を経て、現在まで第2の時代が続いた。この期間は「ITが産業化し、プロセスが向上し、ITIL(ITインフラストラクチャライブラリ)やサービス管理などが付加され、雑ぱくに言えば、ERP(統合基幹業務システム)が中心で企業内部のビジネスプロセスを大きく効率化しようとの意欲を持った時代だ」(Aron氏)
米Gartner リサーチ部門 バイスプレジデント兼フェロー Dave Aron氏
それら10年余り。「それほどのイノベーションが起こらなかったと感じていたが、突如として大きな価値をもたらす技術が登場した。クラウド、モバイル、SNS、ビッグデータ、3Dプリンタなど、これらにより、第3のエンタープライズIT時代が到来した」とAron氏は解説する。
しかし問題なのは「多くの企業がいまだ第2の時代にとどまっており、デジタル化をみていないことだ。皮肉なことに、第2の時代に必要であるとされた要素が、新たな一歩を踏み出すことへの障害になっている。その一つは、企業のIT部門は企業内のほかの部門を顧客とみなしていることだ。もう一つは、ビジネスプロセスへの執着心だ。さらに企業内におけるIT部門のブランドの問題だ」
Aron氏は「これまでほとんどの企業でIT戦略を担当する部署は、ビジネスの中でITをどう活用するかを考えている。しかし、多くの企業は、デジタルのビジネス戦略を持っていない。IT戦略は、ビジネスの疑問や課題に対して技術的な解答を出すもの。デジタル戦略は、技術の質問や課題にビジネスの解答を出すものなのであって、まったく異なった議論が必要になる」と指摘し、第3の時代で必要になる発想を提示した。
Gartnerは最近、従来のITとは一線を画すものとの意味を込めて“デジタル”という言葉を使い始めている。Aron氏は「デジタルの意味するところにも誤解があるようだ」と語る。
「Gartnerでは、電子的にトラッキングができる、非常に幅広い情報や技術をデジタルと呼んでいる。多くの企業では、モバイルやSNSなどを通じたマーケティングをデジタルだととらえている傾向がある。デジタルには大きな可能性がある。最近は、企業への助言をする際、ITだけではなく、デジタル戦略も必要だと提言している」(Aron氏)
第3の時代には「CDO」が必要
企業はCIOという役職を設け、企業内の情報システム全般について指揮を執るのが任務だとされる。しかし、Gartnerではここでも、“最高デジタル責任者(Chief Digital Officer:CDO)”と呼ばれる、新しい考え方に基づいた職務を論じるようになっている。
「企業はCDOという役職を設けるようになっている。世界で500人ほど存在しているが、日本ではまだ、このような役職はほとんどない。CDOの半分はデジタルマーケティングの責任者だ。そのほかは、取締役会に助言するデジタル戦略家やオンラインなどの事業部門のトップといったところだ。Gartnerでは、CDOは5~7年程度の短期的な存在になるとみている。5~7年後、デジタルは社会のあらゆる局面に組み込まれ、各事業部門のリーダーたちがその役割を果たすので、特殊な役職は不要になるからだ」(Aron氏)