人間というのは、いつでも目の前で起きていることがどんな意味を持つのかは理解することができない。それが終わってしまって、しばらく経ってから、ようやくその意味を理解できるのが常だ。
天才や秀才の類ならば、起きていることの意味をリアルタイムに理解できるかもしれないが、凡人である私は、そうした天賦に恵まれていない。本企画は2009年を振り返るという趣旨だが、凡人の手にかかると、2007年から振り返らないといけなくなってしまう。なぜか? “戦争”は2007年から始まっているからだ。
大手ベンダーがこぞって買収
戦争の号砲が鳴り響いたのは、2007年3月。データベース(DB)を中核とするOracleがビジネスインテリジェンス(BI)アプリケーションベンダーのHyperion買収を発表している。ここから「BI戦争」が始まった。
それから7カ月後には、統合基幹業務システム(ERP)パッケージ最大手のSAPがやはりBIアプリケーションベンダーであるBusinessObjectsの買収を発表。そして1カ月も経たないうちに、今度はIBMがまたまたBIアプリケーションベンダーのCognosの買収を発表している。
このBI戦争には大きく分けて2つの背景があって、必然的に始まってしまったという見方ができる。ベンダー側とユーザー側という2つだ。
ユーザー企業は業務で必要とされるERPや顧客情報管理システム(CRM)、サプライチェーン管理システム(SCM)といった基幹系システムを構築し、業務の効率化を目指していた。その一方で、基幹系システムを流れるトランザクションや蓄積されるさまざまなデータから、自社にとって有効な情報を探すことはできないかという目論見があった。過去や現在のデータから、未来の戦術戦略を策定しようという動きだ。
顧客や取引先と交わされるデータから未来の戦術戦略を見つける試みは、システムでビジネスを展開する企業にとっては、自然な成り行きと言える。それを証明しているのが、企業の情報システムの導入や活用にさまざまな助言をするGartnerの調査だ。Gartnerでは毎年、企業の情報システムを先導する最高情報責任者(CIO)を対象にした意識調査を行っているが、2008年と2009年だけでもCIOの重要項目トップ10にBIがランキングされている(記憶では、それ以前にもBIは重要とCIOに認識されているはずだ)。
そうしたユーザー企業のニーズを満たすために、OracleやSAP、IBMといった総合ベンダーは、BI専業ベンダーを買収した、という見方も間違いではない。これらの3社は既存のビジネスの上にさらなる売上高と利益を求めるために、BI市場に乗り込んだという見方もできるだろう。
そして2008年、BI戦争の局面は大きく変わる。Microsoftの参入とBIの技術基盤となるデータウェアハウス(DWH)への戦線拡大だ。
MSも参入
2008年7月にMicrosoftは、DWHアプライアンスを手掛けるDATAllegroを買収している。Microsoftの狙いは、1台で最大数百テラバイトものデータを扱えるというDATAllegroの技術を取り込むことだ(その成果は翌2009年に製品という形で我々の目の前に表れる)。
そして2008年のもう一つの局面変化が、OracleのDWHアプライアンス市場参入だ。
BIがほかのシステムと大きく異なるのは、膨大なデータを高速に処理できるという点。こうした処理では、アルゴリズムなどソフトウェア面で他社製品と差別化を図ることができる。
しかし、ソフトウェア上での高速処理にはどうしても限界がある。その壁を乗り越えるためには、分析対象の膨大なデータが蓄積される、BIの基盤たるDWHというハードウェア分野での改良が必要になる。Oracleが2008年9月に自社イベント「Oracle OpenWorld」で発表したDWHアプライアンス「Exadata」は、そうしたBI戦争の戦線が拡大するという流れの表れだったのである。