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アジャイル開発を加速させるローコード技術の衝撃

第7回:「自治体向け給付管理システム」に必要なデータモデルとローコード開発 - (page 2)

渡辺幸三

2020-06-18 07:00

「10万円一律給付」のデータモデル

 話題の“特別定額給付”に関わるモデルも見ておこう。国や自治体による給付プログラムは「住民給付」「世帯給付」「事業所給付」の3種類に分けて考えると分かりやすい。特別定額給付は住民の一人ひとりに渡されるものなので「住民給付」に分類される。「世帯給付」は地震や水害などで被災した家屋に対する給付であるし、「事業所給付」は法人に対する給付で、“持続化給付金”はこれに分類される。ここでは特別定額給付が扱われる住民給付のデータモデルを示す(図2)。

図2.住民給付のデータモデル 図2.住民給付のデータモデル
※クリックすると拡大画像が見られます

 住民給付IDを主キーとする「住民給付テーブル」に、議会で決議された住民給付プログラムが自治体ごとに登録される。今回の給付プログラムは無条件に住民1人当たり10万円が支払われるので、「住民給付条件テーブル」には何も登録されない。しかし、例えば前年度世帯収入が一定以下の世帯に手厚く支給すると決議されたなら、そういった条件が「住民給付条件テーブル」に登録されることになる。ここで重要なのは、新たな給付の決議が新たなシステム開発を必要としない点だ。「住民給付テーブル」に新たな給付プログラムが登録され、規定の業務が粛々と実行されるだけなのである。

 住民から申請があれば「住民給付申請テーブル」にレコードが追加される。今回は無条件給付なので、基準日においてその自治体に住民票のある住民についてバッチ処理で自動生成可能だ。その時点で世帯主であるような住民が、世帯人数分の金額の受取人となる。世帯主がその内容をオンラインで承認すれば、ファームバンキングを介した振込処理(住民給付振込指示テーブル)の対象となる。銀行口座番号に間違いがなければ、承認から数日以内で入金可能となるだろう。

 なお、世帯主による給付金の使い込みが問題視されているが、そういった場合には事前に世帯分離して配偶者を受取人にしておくなどの対応が要る。それが不可能なのであればケースワーカーを介した問題として個別に対処するしかない。給付管理の仕組みそのものはシンプルであるべきで、そこに個別の事情を尊重すればするほど運用コストが増えるし、給付までに時間がかかってしまうことにもなる。この種のきめ細かいケースに対応するためにシステムを必要以上に複雑にしてしまうのは、日本人の「おもてなし精神」の負の側面といっていい。

データモデルをプロトタイプで検証する

 これらを眺める限り、データモデルを描き出すことはそれほど難しくないように思われるかもしれない。実際、データモデルの文法(図法)自体は単純なので、読解するのは比較的容易である。しかし、システムが直面するさまざまな状況に対応した堅牢なモデルとしてまとめ上げることは、想像以上に難しい。論理性や言語能力といった職業適性や創造性が求められるからだ。

 そして、優れたデータモデルを生み出すための物理的要素として特に欠かせないのが、システムのプロトタイプである。モデルに従ってデータベース(DB)とそれを処理するアプリ群を手早く組み立て、さまざまな現実に沿って動作させてみることで、データモデルの妥当性が分かる。また、現行データを新しいデータベースに移行できるかどうかの検証も欠かせない。つまり、プロトタイプを伴わないデータモデルは絵に描いた餅でしかないということだ。高品質なデータモデルを得るためには、プロトタイプを手早く組み立てるための実装手段がどうしても要る。

 では、プロトタイプと本番システムの違いはどこにあるのだろう。手早く組み立てられることがプロトタイプの基本的意義であるが、これがデータモデルの妥当性を検証するために組み立てられることを考えれば、具体的な違いは明白である。例えば、洗練されたユーザーインタフェース(アプリの見かけのこと)や、レスポンス(動作の速さ)については重要視されない。それらは的確なデータモデルが確立された後で検討されるべき問題である。データモデルは「骨格」のようなもので、その確立を優先しなければ、決まることも決まらなくなる。

 「ローコード開発ツール」は、企業や自治体向けの業務支援システムをプロトタイピングするのに最適な手段である。筆者が所属する「ローコード開発コミュニティ」はその種のツールを扱うベンダーの集まりである。現状の自治体システムに疑問を持ったわれわれは、給付管理を含む自治体システムの基本部分をプロトタイピングして公開することにした。7月1日にはそれを披露するためのオンラインイベントを開催する。

 ただしこのイベントは、現行システムの問題をあげつらって鬱憤(うっぷん)を晴らすためのものではない。そうではなく、標準自治体システムとして全面刷新するためのデータモデルを示し、同時にそれにもとづくアプリ群の動きを示すという建設的、そして前代未聞の試みである。ローコード開発ツールの広報活動の一環ではあるが、わが国の自治体システムを世界に誇れる仕組みとして改善していきたいと願うソフトウェア技術者たちの社会活動でもある。特に国や自治体を支える情報システムのデータモデルは、市民の問題として公示され、批判と検討にさらされるべきと考えている。モデルやシステムの動作を詳しく眺めてみたいと考える読者、また自治体システムについて問題意識のある読者は、ぜひ参加してほしい。

・参加申し込みURL(LCD窓口):https://www.x-rad.jp/contact.html

渡辺幸三(わたなべ・こうぞう)
業務システム開発を専門とするソフトウェア技術者。システム設計に関する著書多数。最新刊は『システム開発・刷新のための データモデル大全』(日本実業出版社)。技術ブログ「設計者の発言」を運営。

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