フォーミュラE ジャガーチームに聞く、デジタルツインとITの活用 - (page 2)

國谷武史 (編集部)

2024-04-02 06:00

レースを支えるクラウドとデジタルツイン

 自動車レースでは、サーキットコースの環境、天気や気温、湿度などの気象条件、レースカーなどに関する膨大かつ多種多様なデータを駆使して、レースに勝利するためのベストな戦略の検討、立案、実行が非常に重要となる。

 Formula eでは環境負荷を低減する方針から、レース開催地に派遣できるチームスタッフの人数が厳しく制限され、現場のピットで作業するエンジニアは最大6人までとなる。Jaguar TCS Racingのスタッフは総勢100人強とのことだが、大半は本拠の英国で活動しており、レース期間中は英国と開催地をリアルタイムに接続して、英国から各地の現場をサポートする体制を敷いている。

 TCSによると、レースカーは毎秒数千ものデータポイント、1回のレースでは約5億のデータポイントを生成しており、データの種類と量は極めて大きなものとなる。F1などの自動車レースでは、走行中のレースカーかたピットへの無線によるデータのリアルタイム伝送が長年認められているが、Formula eではコスト抑制の観点から禁止されており、レースカーがピットに戻ってからでないと、データのダウンロードができない。

ピット内のレースカーの整備スペース上部にある機材。調整時はケーブルをレースカーに接続してデータをやりとりする
ピット内のレースカーの整備スペース上部にある機材。調整時はケーブルをレースカーに接続してデータをやりとりする
ピット内で作業中の様子。レースカーのデータは車両に接続されているケーブルからクラウドや英国のチーム拠点に送られる
ピット内で作業中の様子。レースカーのデータは車両に接続されているケーブルからクラウドや英国のチーム拠点に送られる

 ピット内のレースカーの整備スペースには、天井部に停車中のレースカーと通信などを行う機器が設置され、ケーブルを介してレースカーに搭載された数百のセンサーからのデータをピット内のコンピューターに転送する。だが、ピット内では限られたスタッフで車両の整備や調整を行わなくてはならず、現場でデータを解析して戦略の立案などに時間を充てること難しい。このためクラウドを活用している。

 TCSが同チームの支援で行っている施策の1つが、このクラウド環境の構築や運用だという。TCSによれば、近年までレースカーからダウンロードした膨大なデータをレース終了後に現場から英国の拠点に数時間、時には一晩を要して転送し、それから解析と次のレースに向けた戦略の検討に活用していたとのこと。レース期間中にリアルタイムなデータの分析や戦略の立案などが難しく、現場スタッフの経験や知見などで対応しなければならなかった。

 このためTCSは、Jaguar TCS Racingの英国拠点とレース開催地をつなぐクラウドを構築し、地球の裏側にある開催地であっても短い遅延でデータを送受信できる環境を整備した。これにより練習走行や予選の直後でも戦略立案に必要なデータを現場から英国に送り、英国側ですぐに解析を実施して戦略を立案し、現場にフィードバックすることができるようになった。

ピット内のスタッフ作業スペース。ここではレースカーのセットアップ責任者やレース戦略の責任者らが英国の拠点とリアルタイムにデータやシミュレーション結果などを共有して戦略を実行する
ピット内のスタッフ作業スペース。ここではレースカーのセットアップ責任者やレース戦略の責任者らが英国の拠点とリアルタイムにデータやシミュレーション結果などを共有して戦略を実行する

 データは、クラウドを介して分析基盤のVerticaにアップロードされ、英国と現場で共有する。英国側では、膨大なデータの解析結果を基に、レース中に想定されるさまざまなシナリオを組み合わせ、専用のソフトウェア「ドライバー・イン・ザ・ループシミュレーション」を用いて、仮想空間に用意したレースカー(Jaguar I-TYPE 6)に反映し、幾多のシミュレーションを実行する。ここでは、同チームのリザーブ 兼 テストドライバーを務めるTom Dillmann選手による検証も行い、ドライバーの観点からも戦略案の内容を評価する。

 それらの内容を現場へフィードバックし、Evans選手とCassidy選手がレース本番で優勝、上位入賞するためのセットアップ、戦術、エネルギーマネージメントなどに反映していく。こうした現場と本拠をつなぐクラウド、データ、シミュレーションによるデジタルツインを活用している。

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