庄氏 EX(Employee Experience:従業員体験)という言葉が聞かれますが、アバナードでは単なるEXを超えて、技術、文化など全体からアプローチします。アプローチをリードするグループが“モダン・ワークプレース”であり、プラットフォームのモダン化を行う“プラットフォーム・モダナイゼーション”と価値を現実のものにする“バリュー・リアライゼーション”の2つのチームを持っています。ワークプレースさらに企業が抱える課題は複雑で、新しいアプローチを用いないことには課題解決の期待に応えられませんし、単に技術を入れただけでは解決できません。そこでアバナードはデザイン思考のプロセスを用いるイノベーションスタジオを世界17箇所で展開し、顧客をサポートしています。私自身はバリュー・リアライゼーションのリードを務める一方で、東京にあるデジタルイノベーションスタジオの担当も兼任しています。
庄氏 我々ワークプレースは、人事専門のソリューションではなく、Microsoft Windows、Microsoft Office、Microsoft Teamsなど従業員が日々仕事をする時に使う技術を使ってモダン・ワークプレースを実現します。マイクロソフトのソリューションを使う人は多く、大企業であれば何らかの形で入っているでしょう。
また、我々は小さく始めることが重要だと考えており、2週間である部分を変え、結果が出たら次、という小さな成功を積み重ねる形で進めます。このやり方を求める顧客は多く、有効性も高いと感じています。
違いや注意点はありますか?
庄氏 まずCXはBtoCであるのに対し、EXはBtoBであるので、EXの方が課題が複雑という点が挙げられます。
大きく2つの点で複雑ですが、1つ目がプロセスです。BtoBは企業の根幹に関わるところで、専門性がある人が業務を行っています。基本となるプロセスや業界に関する理解があるユーザーに対して作るので、BtoCのように単純化せずに、ここまではできているということを想定しながら作ります。ここは、基本となるユーザーの知識が想定できないECサイトとは異なります。
2つ目として、必ず結果を出さないといけない点があります。ビジネスに直結したゴールを達成するためにワークプレースのソリューションを使っているので、ECサイトのように離脱されることがあってはならない。営業マンのシステムならばその先にお客様がいるので、そこがうまくいかないと顧客の満足度にも影響します。重要度が高いことが難しさにつながっています。
デザイン段階でも異なります。BtoCのように、コンバージョンを上げて売り上げを増やしたい等、課題が明白ではないので、そもそもどの課題を解決するのか、というところから考えなければなりません。これが、アバナードがデザイン主導の考え方やプロセスを取り入れている理由でもあります。解決すべき課題が間違っていたら、それをどれだけ改善しても何の意味もありません。
庄氏 実際にお客様を支援するときは、最初にどの課題を解決するかをきちんと明確に定義をするところから始めます。定義にあたって、ITだけの視点ではうまくいかないでしょう。ITから現場が見えているとは限らないし、ITの考える課題が現場の課題と違うかもしれないからです。課題を掘り下げながら、従業員のジャーニーを作ります。どのように仕事をしているのか、どういうところに課題となるポイントがあるのかを考えます。
ある企業では、Microsoft Teamsを利用して、部署が変わった後の社員を支援することにしました。新しい部署に移ると、最初はどこに何があるのか、誰に聞けば良いのかもわかりません。Microsoft Teamsではファイルが管理でき、チャットもできます。全員に対して質問すれば誰かが答えてくれます。これにより、配置転換後の立ち上がりが早くなりました。これはTeamsが情報共有のためのプラットフォームがあるからできることと言えます。
このような小さい成功をたくさん作っていくことが重要で、そのためにIT部門だけではなく、可能な限りビジネス部門を巻き込む事が大事です。アバナードはITと業務部門両方の視点をもってお手伝いできます。ここは我々の重要な価値と言えます。
モダン・ワークプレースの視点から日本の働き方改革をどう見ていますか?
庄氏 働き方改革は業務時間の短縮ではなく、働き方を変えることです。日本でも在宅勤務や、サテライトオフィスで仕事をするなどの文化的変化が見られます。働き方改革本部を作って取り組む企業も増えています。
ですが、組織改革だけではなく技術、そして技術の使い方を変えることも必要です。モダン・ワークプレースとは、新しい働き方を可能にするインフラの導入、社員を信頼した上でのデバイス利用などの土台があって初めて実現するものです。例えばリモートで働いている人が本当に仕事をしているかどうかわからないのなら、いつでも連絡がつくような仕組みを入れて信頼関係のベースを作れば解消につながります。
庄氏 まず大きな変化を嫌う傾向があります。制度的にも技術面でも、海外のようにトップダウンでの変化は難しく、変化を嫌がる人が多い。大規模にシステムを変えることは現場からの反発もあるようです。
我々の提案としては、働いている人が課題と感じていることにフォーカスして少しずつ良い環境を作ることです。小さな変化を積み重ねていく企業文化をつくる事が必要とお話ししています。
もう1つが考え方です。
アバナード 庄昌子氏
どの企業も外部を巻き込んだイノベーション、コ・クリエーションをやりたいと思っていますが、ガチガチのセキュリティポリシーでは外部とのコラボレーションは容易ではないと二の足を踏みます。しかし場所が離れていたり、外部だからという理由で活用できていない人材やアイディアがあるのなら、Windows10、Office365、Microsoft Teamsといったセキュアな環境を用意すれば実現します。Microsoftのセキュアなワークプレースでは、アクセス管理によりデータにアクセスできる人・できない人の管理ができます。バーチャルな環境を活用することで、より多くの人がプロセスに参加できます。これはシャドーIT対策としても有用です。セキュアなワークプレースが用意されずコラボレーションを制限する環境では、従業員はLINEなど個人のツールを勝手に使って仕事のやり取りをするようになります。これではセキュリティ対策の意味がありません。コンシューマーとしてできることが仕事ではできないということはよくありますが、会社とはこういうもの、とあきらめてしまっているところも多い。これを少しずつでも変えていく必要があります。プライベートでしていることと同じような体験が会社でも普通にできることは、今後ますます重要になるでしょう。
投資の必要性が理解されていますか?
庄氏 最近、理解が進んできたと思います。特に、人材の確保やリテンションの文脈につなげると、どの企業・業界でも理解していただけます。ただ、それをどうやって具体的な投資や活動につなげていくのか。どこまで変わるのか、という話にもっていくには、まだハードルがあると感じています。だからこそ、小さな成功を重ねていく必要があります。
そのためにアバナードには、プロセスとして2週間で小さな成果を出すメソッドがあります。グローバルで確立した手法を日本のお客様に合うようにローカライズしたものをご提案できます。
さらに、アバナードにはデザインシンキングというメソッドがあり、それをサポートするチームがグローバルにも日本にもあることは我々の強みです。
これまでにも、例えば大規模なOffice 365導入プロジェクトではコミュケーションマップを作って、企業の中にどんなコミュニケーションがあり、どういうニーズがあるのかを整理した上で、SharePointでやるのか、SNSでやるのか、とお手伝いしていました。デザインシンキングを用いることで、さらに短いスパンでできるようになりました。
アバナードらしい工夫などありますか?
庄氏 アバナードではアジャイルな価値創造を可能にすることを意識しており、アジャイル的な進め方を体感してもらうために、LEGOを使ってアジャイル開発を学ぶといったこともやっています。スピード感を持つこと、アジリティとはどういうものかを理解していただくと、その後が違います。これは、お客様向けだけでなく、社内の勉強会でもやっています。
しかし開発手法を学ぶだけでは不十分です。スピード感を持って改革を進めるためには、ミッションを明確にしておくことも重要です。
日本での今後の展開はどのように進めていくのでしょうか?
庄氏 世界と比較し日本ではMicrosoft Teamsの利用が遅れています。ここはフォーカスエリアとなります。Microsoft Teamsのように土台として使えるプラットフォームがあれば、それを活用してより高い価値を投資から引き出すことができます。企業にとってはチャンスと言えます。ITは働いている人に役に立つものを短期間で提供できます。現在ITはコストセンターと捉えられがちですが、バリューセンターになることができます。我々はそれを作るプロセスをお手伝いしていきます。