一足飛びにクラウドネイティブな環境は実現できない
いま企業が悩むインフラの課題
ビジネス環境が激しく移り変わるようになり、システムのクラウド化を目指す企業が増えている。デジタルトランスフォーメーションを推進するためには、クラウド活用が欠かせないという見方もある。 しかし、一足飛びに“クラウドネイティブ”な環境を実現できるわけではないし、自社のすべてのシステムがパブリッククラウドに適しているというわけでもない。今後の企業システムは、オンプレミスとクラウドとをよりよく柔軟に使い分けていく真のハイブリッド化が欠かせない。
日商エレクトロニクス株式会社
エンタープライズ事業本部 マイクロソフト事業部 部長
近藤 智基氏
とはいえ、既存のオンプレミスシステムが“重荷”となっていることは否定できない。仮想化技術を活用して比較的大きなシステムを運用している組織は、非常に高い運用負荷と、新しいビジネスニーズを追うことができないという課題に悩まされている。一方で、オンプレミスシステムから離れがたいという状況もある。
国内でも非常にシェアが高いVMware製品による仮想化環境は、信頼性が高く機能も豊富で、ビジネスを支えるシステム基盤としてさまざまな場面で活躍している。ユーザー企業の多くは長い時間をかけてVMware製品のスキルを蓄積し、運用体制を整えている。特にVDI環境などは、運用が複雑になるため、VMware製品による自動化機能を活用して効率化を果たしているケースもある。既存の確立した体制を手放したくないという意見も当然だ。
OSごとIaaSに移し替えるという方法も考えられるが、IPアドレスの変更など少なからず改修が必要となり、アプリケーションの動作テストも膨大な作業量になる。ミッションクリティカルなシステムであればあるほど、修正によるトラブルは避けたい。
「既存のVMware製品による仮想化環境はそのまま、クラウドサービスとして利用できればよいのにと考える企業は多いはずです。インターネットとの親和性を高め、運用もクラウドベンダーに任せつつ、しかしVMware製品のフル機能を利用し、多様なニーズを満たしたいという思いです。その理想を実現するサービスが、マイクロソフトとヴイエムウェアによる『Azure VMware Solution』なのです」と、日商エレクトロニクス エンタープライズ事業本部 マイクロソフト事業部 部長の近藤智基氏は述べる。
最適化された既存のVMware製品による仮想化環境
運用もいっしょにAzureへ
Azure VMware Solution(AVS)は、Microsoft Azureをベースにユーザー専用のホストに構築されたVMware製品による仮想化基盤を利用できるマネージドサービスである。オンプレミスのプライベートクラウドと同等の環境を、マイクロソフトによるメンテナンス・保守サービス付きで利用できる。日々の監視、アップデートなどのメンテナンスはもちろん、増強が必要なときにもすべてを任せることが可能で、ハードウェア費用なども月額料金に含まれる。
自社に最適化されたネイティブなVMware製品による仮想化環境をそのまま利用できるため、既存のオンプレミスシステムの移行先として最適だ。VMware HCXに対応しており、IPアドレスを維持したままダウンタイムなしで移行できる。改修が不要で、開発やテストにかかる時間が大幅に削減される点を高く評価しているユーザーも多い。
VMware製品による仮想化環境をそのまま移行できるということは、もちろん運用も変更しなくてよいということである。ハードウェアを含むインフラそのものの保守から解放されるため、むしろ運用は改善、負荷も大幅に軽減される。
「VMware製品による仮想化環境を提供しているマネージドサービスはいくつかあるのですが、VMware vCenterの機能に制限があるなど、すべての機能を利用できないケースが多いのです。AVSはVMware製品による仮想化のネイティブ環境ですから、いっさい妥協する必要はありません。クラウドサービスですからアップデートも任せることができ、いつでも最新の機能を活用できる準備が整っています」(近藤氏)
AzureなどIaaSの利用を検討したものの、OSのバージョンが古くて動作が保証できないというケースも少なくない。AVSは、基本的には既存のVMware製品による仮想化基盤で稼働しているOSであれば問題なく稼働するし、ハードウェアの保守切れという問題もなくなる。Windows Server 2012やWindows Server 2008のESUが無償で提供されるという特典もあり、本格的な移行に向けてしっかり計画できる余裕が生まれるというメリットは大きい。
多様なニーズに応えるAVS
知見と経験で最適化をサポート
日商エレクトロニクスが手がけたいくつかの事例を紹介しよう。
ある小売業者では、ハードウェアやデータセンターの運用保守コストを抑制したいと考えて、統合的なクラウド化を検討していた。しかし、新しい環境で運用が大幅に変更すると、むしろ負担増になってしまうことが予想される。運用管理体制を維持しつつ、大規模な環境でもスムーズに移行できることから、AVSを選択した。
同社はまず、日商エレのアセスメントサービスで抜け漏れなく既存環境を洗い出し調査を実施した。AVSへの移行可否や必要となるリソースの試算、リスクの洗い出しを行って、移行計画を策定するためだ。ポイントとなったのが、ダイレクトに移行できない古いシステムの存在だ。そこで日商エレクトロニクスが支援して踏み台となるシステムを構築し、段階的な移行作業を行った。オンプレミスの運用体制を踏襲しつつ、複数の作業が不要になったため、運用負荷の軽減を実現できた。
ある製造企業では、ハードウェアの管理や5年ごとの更改負担からの解放を目指し、資産を持たずに利用できるクラウドサービスに注目していた。また、ネイティブなクラウドサービスを積極的に活用してDXを推進していきたいという目標もあったため、クラウド化に踏み切った。
しかし懸念していたのは、移行や運用についての負荷である。アプリ1つを取ってみても、IPアドレスが変更するだけでも大がかりな改修作業が必要で、影響範囲の調査だけでも負担すら予測できない。そこでAVSを選択した。日商エレクトロニクスの最適な提案を受けながら、IPを変更することなく短期間での移行に成功した。VMwareパッチは自動適用されるなど、VMware 製品基盤のメンテナンスもマイクロソフトに任せることができ、また仮想マシンの動作不良などは日商エレクトロニクスのクラウド運用サポートが対応してくれるという安心感が好評だった。
「商用のメインサイトをオンプレミスのVMware製品による仮想化環境に構築し、AVSのvSphere環境をサブサイトとして利用して、ピークに備えるという手法もあります。古いOSも移行できたことで、フルクラウド化を諦めずに済んだというお客さまもいます。AVSは、アイデア次第で多様なニーズに応えられるサービスなのです」(近藤氏)
AVS活用の注意点
プロフェッショナルの支援を視野に
AVSはさまざまなメリットがあるサービスであるが、もちろん注意点はある。例えば、クラウドサービスであるから常に最新の状態が保たれるが、つまり最新技術を常にキャッチアップしていなければならないということでもある。新しい機能や技術をしっかり把握して、必要・不要を判断できる運用体制を整えることが重要だ。
「AVSへの移行で注意したいのは、ふだんはあまり使わないけれども廃棄するわけにもいかない──いわゆる“塩漬け”システムです。特に5年ほど経った環境はバージョンが古く、VMware vMotionなどを利用してもそのまま移行できないケースが散見されます。この場合は、移行可能なオンプレミスシステムを構成し、踏み台として利用する必要があります。判断が困難で作業も煩雑になりがちですから、まず私たちにご相談ください。AVSを具体的に検討しているお客様は、基本技術や移行シナリオの解説に加え、実機デモによる運用方法、操作感が体感いただけるセミナーを定期開催していますので参加いただきたいですね」(近藤氏)
費用についても、しっかりと検討したい。一般的なクラウドサービスと同様に、単純な利用料金だけで比較すると長期ではオンプレミスシステムのほうが安価になることもある。ただしAVSには、運用負荷が大幅に軽減すること、資産を持たずにOPEX化できることなど、余りあるメリットが存在する。「ぜひトータルコストで考えていただきたいですね。目に見えるコストが上がったとしても価値の高いサービスを利用したいと、AVSを高く評価する声もあります」と、近藤氏は強調する。
AVSはメリットの大きいサービスであるが、利用を最適化するには相応のアセスメントが必要だ。日商エレクトロニクスは、早い段階からAVSをサポートしてきた経験とノウハウをもって、さまざまなニーズに応えられるよう専門のサポート体制も整えている。必要に応じて運用サポートも提供可能だ。まずは最適なクラウド活用の方法を相談してほしい。