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Claris CEO ブラッド企業探訪~小田急電鉄 鉄道会社の業務DXにローコードツール、 内製だからこそ実現できたスピードアップ&コスト減、 リテラシー向上も

小田急電鉄は首都圏の輸送インフラとして知られる大手鉄道会社。1日あたり約187万人(2023年度実績)の移動を支える同社は「2025年の崖」を前にDXへの取り組みを進めてきた。2020年のコロナ禍では多くの企業が在宅勤務形態をとり、旅客数は大幅に減少したものの、鉄道の現場では医療関係者をはじめとするエッセンシャルワーカーやものづくりなど職場に行かないと勤務できない方々などを目的地に届ける役目を担い、ほぼ時刻表通りの運行を続けた。

そのような状況において、業績の落ち込みをカバーするだけでなく、将来的な鉄道事業の成長をも見据えた業務のデジタル化やDXによる効率向上、コスト減の仕組みの構築が急務となった。そこで新たなチャレンジとして選択したひとつが、ローコード開発プラットフォームによるアプリケーションの内製開発だった。

小田急電鉄は、なぜローコードツールであるFileMakerを選んだのか、また導入から2年余りたった今、社内でのアプリ活用はどこまで広がっているのか。Claris FileMaker を提供するClaris InternationalのCEOであるブラッド・フライターグ氏が小田急電鉄を訪れ、日常業務を視察するとともに、FileMaker活用のプロジェクトの中心メンバーに話を聞いた。

小田急電鉄株式会社
交通企画部 DX推進担当(FileMaker システムエンジニア)
杉山啓太氏
小田急電鉄株式会社
交通企画部 DX推進プロジェクトマネジャー
遠藤直人氏
小田急電鉄株式会社
交通企画部 課長(DX推進担当)
板垣匡俊氏
小田急電鉄株式会社
運転車両部 技術員
松村信輝氏
Claris International Inc.
CEO ブラッド・フライターグ氏

求めたのは、多岐に渡る鉄道業務に柔軟に対応できるツール

フライターグ氏

 今日は新宿からロマンスカーに乗って海老名駅にやって来たのですが、本当に美しい列車でしたね。速くて時間に正確なうえに、お客さんの乗り降りの速さにもびっくりしました(笑)。ちなみに、なぜ「ロマンスカー」という名前がつけられたのですか。

板垣氏

 実のところ、いつ、なぜ「ロマンスカー」という愛称が付いたのかという正確な記録は残っていません。ただ、戦後に映画館の「ロマンスシート」という肘掛けのない2人掛け座席が流行し、それと同じように2人用の座席がある車両のことを、ロマンスカーと呼ぶようになったと言われています。当時、小説や映画に取りあげられたほか、流行曲の歌詞などにも使われ、箱根に行く小田急の特急は、「ロマンスカー」として、広く人々に親しまれていきました。

フライターグ氏

 なるほど、そんな由来があるのですね。さて、小田急電鉄さんではどのような課題があってFileMakerの導入に至ったのでしょう。

遠藤氏

 日本では「2025年の崖」という問題が注目され、IT人材の不足が指摘されています。当社もデジタル化を進めていく必要がありましたが、2020年からの新型コロナウイルスの影響で、デジタル化は一層の急務となりました。しかし、コロナ禍の影響により乗客数が減少し、費用を抑制する必要があったため、新規システム開発への投資が困難になりました。さらに、デジタル化が必要であるとはいえ、交通サービス事業本部の各部門がそれぞれ独自にデジタルツールを導入してしまうと、システムが乱立し、運用・管理のコストが増大するという問題が生じてしまいます。

 そこで、本部全体で統一したツールを導入していくべきではないかと考えました。ただし、鉄道部門だけでも多岐に渡る業務にフレキシブルに対応できるようなものでなければならないため、ノーコードツールは機能的に限界があり、各部門の要望に対応できないと考えました。

 その点FileMakerは、日本航空様や大阪メトロ様など交通系における他社の導入実績があり、ツールとしての使いやすさだけでなく、開発の自由度の高さが強みであるため、我々にとっても最適なツールだと判断しました。さらに、当社が業務用端末として使用しているiPhoneやiPadとFileMakerが非常に相性の良いことも、選択の決め手となりました。

フライターグ氏

 我々は数十年前からシチズンデベロッパー(市民開発者)、つまり専門知識をもたない一般の従業員が問題解決を図るときの力になる、ということをポリシーにFileMakerというローコード製品を提供してきました。エンジニアではない初心者であっても、熱意のある方なら誰でも扱えることを意識したツールとなっています。

 競合するノーコード・ローコードツールと比べると、FileMakerは特に企業が抱える複雑で難しい課題を解決することにフォーカスしています。それによって他に取って代わられないプラットフォームにしたいと考えているんです。そうした我々の思いを小田急電鉄さんに届けることができたようで、とてもうれしいですね。

2年で10個以上のアプリを開発、年5000時間の業務削減

フライターグ氏

 さきほど、FileMakerで作ったアプリを職場でどのように利用しているのか拝見しましたが、改めてどういったところで活用しているのか教えていただけますか。

遠藤氏

 大きく分けて「既存システムのリプレース」と「新規システムの構築」の2つの観点からFileMakerを活用しています。前者の観点では、元々別のシステムで運用していたものを、現行機能を踏襲した上でより使いやすい形にFileMakerで再構築しました。一方、後者では、以前はアナログで行われていた業務をFileMakerでシステム化したものになります。

 まず、既存システムのリプレース事例として、鉄道運行の安全に関係する全従業員向けの通達や指示、乗務報告、現場の危険箇所などのヒヤリハット情報共有は、「安全コミュニケーションシステム」という外部ベンダー制作のものを使用していたのですが、Windows11対応のシステム更新をする時期であったことから、FileMakerによる内製化にチャレンジすることにしました。このシステムは、多岐に渡る機能を必要としたため、約18ヵ月の時間を要しました。開発を担当した杉山は、元々システムのユーザーであったため、システムの概要は理解していたことに加えて、どのような改善を施せば使い勝手が良くなるのかを試行錯誤しながらシステム開発を進め、大きな改善を実現しています。本稼働から約半年が経過しましたが、FileMakerの多彩なセキュリティ機能やパートナー会社である寿商会様のご協力のおかげで、大きなシステム障害やソフトウェアの破損などもなく安定稼働しています。

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 次に新規システムの構築の事例ですが、これまでは、乗務員に対する各種指示事項は紙に出力して掲示板に貼り出され、各自がそれを確認するのが一般的な方法でした。乗務中は個人のスマートフォンの所持が禁止されているため、掲示された紙を見てメモを取るしかなかったのですが、FileMakerを用いてポータルのような機能をアプリに実装することで、現場に出ている乗務員でも業務用iPhoneからいつでも指示事項を確認できるようになりました。

FileMakerで開発した運転情報掲出システム。以前は紙で確認していたものがリアルタイムで確認できるように
FileMakerで開発した運転情報掲出システム。以前は紙で確認していたものがリアルタイムで確認できるように

 また、当社では1日に1700本をこえる列車が運行しており、4つの乗務所に所属する運転士・車掌(1日あたり約600名)が分担しております。どの列車に誰が乗務しているかを把握する手段として、列車の運行計画を線図にした「列車運行図表(ダイヤグラム)」をはじめ、一人ひとりの行路を定めた「仕業表」など複数の資料を参照しなければならず、個人までたどりつくのに時間を要することがあります。

 特に運行異常時等では、予め定めた行路通りに乗務できないこともあるなかで手配をより素早く確実に行う必要があり、複数資料を参照することへ煩雑さも感じていました。

 そこで、列車番号を入力するだけで、どの乗務所のどの仕業番号の乗務員が担当しているのかを素早く確認できるアプリ「列車運転情報確認ツール」をFileMakerで開発しました。

列車番号を入力するだけで、どの乗務所のどの担当が担当しているのか検索が可能に
列車番号を入力するだけで、どの乗務所のどの担当が担当しているのか検索が可能に

 鉄道運行業務の効率化と改善を目指して運用を開始したFileMakerのアプリは、導入から2年程で10個以上になります。なお、開発したアプリによりアナログ業務をシステム化した効果で年間約5000時間分の業務削減につながっています。

フライターグ氏

 10個以上のアプリを開発しているのは、FileMaker がツールやプラットフォームとしてしっかり社内に定着したことの証ですよね。最初の1つのアプリを完成させることは、もちろんすばらしいことです。でもそこから2つ目、3つ目とアプリを作っていくことで、本当の意味でそれが社内でプラットフォーム化されたということになると思うんです。

遠藤氏

 本部内では、FileMakerの開発担当者が徐々に増えています。これは、各部門が直面している課題を解決するための最適ツールとして、FileMakerが選ばれた結果だと考えています。

板垣氏

 あとは2020年からのコロナ禍で、乗客が減少した際、社員みんなが危機感を共有して、「我々従業員で何かできることはないか」「自分たちのもつ能力を最大限発揮しなければ」といった機運が社内で盛り上がってきたことも、FileMakerの活用が広がった背景にあるのではないかと思います。

専門知識が必要な業務を適切に、スピーディーにデジタル化

フライターグ氏

 FileMakerは内製のしやすさも特長の一つだと考えていますが、小田急電鉄さんでは内製化がもたらすメリットについてどのように捉えてらっしゃいますか。

遠藤氏

 一番はスピーディーに開発できることですね。これまでFileMakerで開発してきたアプリは大抵3カ月程度、早ければ1カ月程度で完成しています。アジャイル開発が前提になる内製において、現場のフィードバックをすぐに取り入れられるスピード感は、大きなメリットだと感じています。

 さらに、アプリの開発者自身のデジタルリテラシーが向上するだけでなく、周囲のメンバーも「自分たちでこれだけのことができるんだ」と実感し、本部全体のデジタルリテラシー向上に寄与しています。外部のベンダーへ開発を全て委託してしまうと、社員のスキルアップが見込めず、さらにはコストや時間も余計にかかることになります。この点を考慮すると、自社での開発は非常に有益であると考えています。

松村氏

 鉄道事業は、専門的な知識を必要とする分野であり、少しの業務改善でもシステムへの反映には時間と労力が必要です。特に外部ベンダーを利用している場合、全てのプロセスを詳細に説明しなければならず、どうしても時間がかかります。そこを自分たちだけで完結できるのは、大きなメリットですね。

フライターグ氏

 「内製することでデジタルリテラシーが向上する」という話には特に共感しました。 DXを進めようとしている企業であれば、単にツールを導入するだけでなく、組織全体のデジタルリテラシーを上げていくことも意識する必要があると思います。それによって多くの社員のインスピレーションにもつながって、「私もやってみようかな」と考えるきっかけになっていくのではないでしょうか。

杉山氏

 たしかにツールに関する社内からの反響は大きなものがあります。運転士や車掌をしていた私自身の経験も踏まえて、既存システムをFileMakerでリプレースして細かな機能拡張も行ったのですが、それによって現場からは「とても使いやすくなりました」という声が届いています。

 「これほどのものが内製できるんだ」というコメントをもらうこともありますし、さらに便利なツールにするために「もっと機能拡張していきたい」という意見もありました。社内のあちこちから「便利に使える」と高く評価してもらえたのは本当にうれしいですね。

遠藤氏

 当社からの要望でFileMaker側に新たな仕組みを用意していただけたのも、社内浸透がスムーズに進んだ理由の1つだと思っています。

フライターグ氏

 こちらこそご要望いただき、ありがとうございました。FileMakerでは従来、専用の5003番ポートを介して双方向通信を実現していたのですが、小田急電鉄さんから「より一般的な443番ポートも利用できるようにしてほしい」との要望を受けて、実装しました。

 似たような要望は過去にもあったのですが、近年新たな技術が確立されたことによって実現できました。実はこの機能、実装後は世界中のお客様から感謝されたんです!

データベース化を進めることで鉄道の予防安全にも

フライターグ氏

 最後になりますが、小田急電鉄さんではFileMakerの活用をこれからどのように広げていきたいと考えてらっしゃいますか。

杉山氏

 鉄道車両の部品のメンテナンスに関する記録や交換履歴情報は、一部はデータ化が開始されているものの、まだまだその多くは紙書類で管理しています。そのため、劣化傾向の把握や劣化部品の交換頻度の分析ができておらず、予測を立てて部品を発注するのが難しい状況です。それをデータ化することで、発注のペースや個数をデータに基づいて論理的に決められることを目指して、今は車両のメンテナンス記録のアプリ開発に取り組んでいます。メンテナンスの効率化と、正確なコスト管理につながるのではないかと思います。

遠藤氏

 少子高齢化で労働人口が減っている状況のため、少ない人数で安全運行できるよう、更なるデジタル化が必要だと考えています。また、業務のデジタル化を推進するとともに、データの利活用も進めたいですね。

 また、アプリ開発をしていない他の部署にもFileMakerの良さをもっと知ってもらいたいので、社内の開発担当者をさらに増やしていきたいと考えています。将来的には、単純にシステムの内製を推進するだけでなく、AIやシステム間連携を可能にするClaris Connectなどの機能も活用し、時代に合った業務の進め方を実現していきたいですね。

フライターグ氏

 AIの活用は我々も今後も取り組んでいきます。最近、LLM(大規模言語モデル)を活用したFileMakerの最新バージョンを発表したところです。鉄道業務ではスピードが大切というお話もありましたが、我々はAIにおいてもビジネスで求められるスピードに対応できるようにします。

 LLMをローカル環境で扱えるようにしたり、あるいはAppleのCoreMLと連携して使えるようにしたりと、ニーズに応じたさまざまな使い方を可能にすることで、そのスピードを担保できるはずです。データ分析という意味でも、AIはそこに一番貢献できるものになると思っていますので、ご期待ください。

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提供      :Claris International Inc. 企画/制作   :朝日インタラクティブ株式会社 営業部 掲載内容有効期限:2024年12月31日
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