SoRとSoEをつなぐ“今までになかった”システム
―最初にPIMの考え方と、それがDXの過程で必要とされる理由について説明してください。商品情報管理というと、企業では当然行われているとは思いますが。
株式会社Contentserv
代表取締役
渡辺 信明 氏
企業の情報システムは、基幹系システム(SoR)と、顧客接点系システム(SoE)に大別されますが、PIMはこれら指向の異なるシステムを繋ぎ、顧客が必要とするコンテンツを提供するための仕組みで、SoC (Systems of Contents)と分類されることもあります。ERP等のSoRが整備された後に、顧客接点を強化する流れでSoEが普及しました。CRMやSFAに加えてEC、MA、CMS(ウェブコンテンツ管理システム)などに大きな投資がなされてきましたが、なかなか期待した成果が得られていないという声を多く耳にします。
その本質的な原因は、SoEが必要とする顧客指向のコンテンツと、SoRが提供できるマスターデータのギャップにあります。基幹システムが管理する対象は、サイズ・重量・原材料といった自社基幹業務に必要な情報であって、顧客接点のSoEで必要とされるお客様視点での商品情報、例えばECやCMSに載せるリッチコンテンツや画像・動画、もしくは顧客の属性に合わせてコンテンツをパーソナライズするための素材などは想定されていません。
SoRとSoEをつなぐPIM
企業ではこのようなコンテンツギャップを、営業担当者やマーケティング担当者がExcelやPowerPointで資料を作成してウェブサイトにアップロードしたり、代理店や小売店に印刷物を提供したりして何とか対処してきました。しかし、顧客接点のデジタル化が進む過程で、コンテンツ管理のマニュアルオペレーションの限界が露呈してきました。さらに、2020年に発生した新型コロナウィルス感染症の影響で、営業・マーケティング活動への人の介在が困難となり、商品の流通からコンテンツの流通までをデジタルで完結させる必要に迫られています。これが、DXという文脈においてPIMが必要とされている一番の理由です。
デジタルサプライチェーンの構築が重要に
―日本と欧米でのPIMに対するニーズの違いや、ここ最近のトレンドの変化はありますか?
2020年には多くの国々で都市封鎖 (ロックダウン) が発令されました。日本でも政府による緊急事態宣言が発令され在宅勤務が推奨される中で、製品を製造・流通させるためのモノのサプライチェーンに加えて、製品を販売するためのコンテンツのサプライチェーンが断絶するという状況が生じています。
今日、モノにせよサービスにせよ、付随する属性情報や翻訳などのデジタルコンテンツは営業・販売のための必須要件です。即ち、デジタル化されたビジネスにおいて、商品情報は商品・サービスの一部を成していると言えます。新常態に事業を継続していくためには、モノとコンテンツをバンドルしたデジタルサプライチェーンをPIMで構築する必要があるのです。
米国や欧州ではPIMマーケットが成熟しているのに対して、日本やアジア地域でのPIMに対する認知・導入率は相対的に低かったのが実情です。一方で、日本企業でも2018年頃を境にPIMの必要性が認識されつつあり、導入企業が急速に増加しています。そういう意味では、PIM市場の潜在成長率は日本が世界ナンバーワンと言うことができると思っています。
日本国内では、2017年頃までは情報システム部門が主導するマスターデータ管理(MDM)を目的とした導入が主でした。それから徐々に、マーケティングやブランディング、オムニチャネル対応を目的としたPIMの活用が進みました。そして2020年には、パンデミック状況下でPIMの捉え方にも変化が生じ、デジタルサプライチェーン基盤としてのよりミッションクリティカルなBCP対策のためのシステムとしても認識され始めています。
PIM領域におけるオンリーワン製品
―Contentservの製品について説明してください。どのような機能・モジュールで構成されていますか?
Contentservには、「PIM/ DAM(商品情報管理とデジタルアセット管理)」「MDM(マスターデータ管理)」「MxM(マーケティング体験管理)」という3つの機能の括りがあり、それらを総称して「プロダクトエクスペリエンスプラットフォーム(PxP)」と呼んでいます。
PIM/DAMは、テキスト情報から動画や画像等のデジタル資産まで商品に関わる360度の情報を一元的に管理して、様々なチャネルにコンテンツをリアルタイムに提供するためのエンジンです。これによって例えば、承認された販促コンテンツや画像をEコマースサイトに自動連携することができます。PIMとDAMを包含して1つのプラットフォーム上で提供しているのは、Contentservの強みです。
MDMは、コンテンツ管理のためのワークフローやビジネスプロセス管理(BPM)、データガバナンス・データクレンジングといった情報システム視点で求められる機能群です。これらの機能は、オムニチャネルでの優れた顧客体験を提供するというPIM/DAMの思想に対して、データの鮮度や一貫性、コンプライアンスを担保するものです。
MxMは、Contentservのユニークな機能群で、「コンテンツの文脈化」を実現します。商品情報管理では、型番やSKU(在庫管理の最小単位)という単位があり、これらの単位を起点として必要な属性を紐づけます。これに対しMxMでは、まず顧客のペルソナがあって、その下にペルソナが求める商材やコンテンツが紐づくイメージで、顧客起点で商品やコンテンツをパーソナライズしていくことができるようになります。
商品情報のすべてを組織横断的に管理できるContentserv
―Contentservはどのような業種・業界で利用されていますか?
Contentservは、消費者向け(B2C)の商材に相性が良いと思われがちですが、実は私たちの顧客の約半数は工作機械メーカーやパーツメーカーなどのB2B企業です。さらに昨今では、建設業界におけるPIMの活用も着目されています。住宅設備メーカーが建設DXへの対応に追われる中、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)と併せてContentservが活用され始めています。
このようにContentservを採用する業種は多岐に渡りますが、利用部門と言う観点でみても、マーケティングや営業企画、IT、DX推進部門等、様々な部門がオーナーシップをとって活用の幅を広げてくださっています。
様々な業界でContentservの導入が進む
―Contentservの導入企業で、公開されている事例はありますか?
ミズノ様は、2019年にはContentservによるグローバルなPIM基盤が稼働していたため、コンテンツ流通という観点では今回のパンデミックの影響を最小限にとどめることができたと伺っています。デジタルサプライチェーンにおける活用事例です。
そして工機ホールディングス様では、日立グループから独立して新たに立ち上げた電動工具ブランド「HiKOKI」を世界に発信するための武器として、Contentservを活用されています。本社に加えて、海外販社での導入も進んでおり、ブランド価値の向上にContentservを役立てて下さっています。
―最後にContentservのビジョンと、企業のDX推進に携わる方々へのメッセージをお願いします。
Contentservは、製品・サービスをいかに早く市場に届けるかを意味する「Time to Market(TTM)」、製品を投入した結果その価値をいかに早くお客様に認識してもらえるかという「Time to Value(TTV)」、そしてサブスクリプション型ビジネスで重要となる「Life Time Value(LTV)」の“3つのTIME”を支える基盤になると自負しています。そして我々の使命は、失われた20年を経験した日本企業のDXを、デジタルサプライチェーンの構築と卓越した商品体験の創出によって支えていくことです。
モノからコトへと価値基準が変化する今日、これまでのように製品の機能性をいくら謳っても、かつての日本ブランドの再建は難しいと考えます。顧客が求めるコンテンツを迅速に提供し、商品体験価値という新たな概念でブランドを構築していくことが必要です。今回の新型コロナウィルス感染症拡大という危機を変革の機会と捉え、日本企業のグローバル化や新しい働き方、ブランド価値の向上を支援していきたいと考えています。