「システムが経営の意志決定を加速させる」 kintoneによる内製化が与えた
アルペンの新しい開発の在り方と組織変革とは

 業務のデジタル化によってDXを進めることが、生産性や効率の向上、ひいてはコスト削減と人材の有効活用につながる可能性がある。そう頭では理解していても、社内リソースが限られ十分なIT人材もいないとなれば、一歩を踏み出すのも難しい。外部ベンダーにシステム開発を依頼するにしても、莫大なコストがかかるのであれば投資対効果の面でメリットがあまり見い出せないこともあるだろう。

 そうしたなかで近年注目されつつあるのが、システムの内製化だ。ノーコードツール、もしくはローコードツールと呼ばれる、詳しいプログラミングの知識なしに本格的なシステム開発が可能な仕組みが登場していることも、その後押しになっている。本業がエンジニアでなくとも扱える、そんなローコードツールの1つが、サイボウズのkintone(キントーン)だ。

 スポーツ用品大手のアルペンは、kintoneを全面導入することで社内システムの大部分を内製化し、大幅なコストダウンとスピードアップを果たした。数カ月前まで店舗業務に携わりITスキルを身に付けていなかった社員でも、社内ツールをkintoneで次々に作成して業務効率化を実現。さらに現在は全国の店舗で利用している大規模な受注管理システムをkintoneベースの仕組みで置き換えるべく開発を進めているという。同社がなぜ内製化に舵を切り、数あるツールの中からなぜkintoneを選んだのか、その理由を聞いた。

エンジニアではない社員でも扱える
ジャストフィットなローコードツール

 全国に約400店舗のスポーツショップを展開し、プライベートブランド商品を含む各種スポーツ用品を取り扱うアルペン。ここ1、2年はコロナ禍の影響によるキャンプやゴルフのブームが業績を牽引し過去最高の業績を更新。今年に入ってからは首都圏での存在感を高める旗艦店「Alpen TOKYO」を2022年4月に出店する一方で、ECサイトの拡充も進めており、リアルとデジタル双方で攻勢を強めているところだ。

 その影には、2019年から導入したローコードツールkintoneの存在がある。以前はIT人材がほとんど本社に在籍しておらず、社内システム開発の全てをベンダーに外注しており、ベンダーからの提案内容の良し悪しを的確に判断できる人材もいなかった状態。しかし、情報システム部長に就任した蒲山氏が中心となり、全社的なデジタル化、およびシステムの内製化を目指しkintoneの導入が始まった。

 kintoneは、日々のあらゆる業務に必要な業務アプリケーションをノーコード・ローコードで、だれでも簡単に作ることができる。多数の標準機能に加えて、データベースや外部システムとの連携、プラグインによる機能拡張などにより、さまざまなシステムを最小限のプログラミングで実現でき、データの利活用を促進するクラウドサービスだ。

 アルペンにおいて課題になっていたのは、まさにそうしたデータの利活用の部分だった。たとえば「ゴルフ5プレステージ」の顧客に関する詳しい情報が各店舗スタッフのメモにしか存在せず、担当スタッフの不在時や異動時には適切な顧客対応が困難になっていた。そこで情報をデータ化して誰でも参照できるようになっていれば、来店時に担当スタッフがいなくても的確に接客できるとして、デジタル化の検討を始めたのだという。

 通常、こうした顧客情報の管理というと本格的なCRMソリューションが真っ先に候補として挙げられるところ。しかし前職でシステムコンサルタントを務め、どのような用途にどのレベルのツールが適しているのかを熟知していた蒲山氏は、全国400店舗で数千人の社員、1万人のアルバイトが働くアルペンにおいては「kintoneのようなシンプルで分かりやすい仕組みの方がマッチするだろう」と判断した。

株式会社アルペン 執行役員 デジタル本部長 兼 情報システム部長 蒲山雅文氏株式会社アルペン 執行役員 デジタル本部長 兼 情報システム部長 蒲山雅文氏

 2019年度に策定した中期IT戦略において「内製化」というキーワードを盛り込んだこともkintoneを選択する要因になった。アルペンでは、新入社員は基本的に店舗勤務からキャリアをスタートさせ、ある程度経験を積んだ時期にその一部が本社部署へ異動する。情報システム部に参画するメンバーも例外ではなく、店舗での実務経験を持ち、店舗の実状は正確に把握してはいるものの、配属時点ではITの知見はほぼゼロに等しい。そういった人たちが扱えるかどうか、という意味では、技術を求められる本格的なCRMツールは手に余り、開発が結局ベンダー依存になってしまう恐れがある。

 そもそも内製化は「BtoBとは次元の違う、小売業の変化の速さ」に対応できるようにすることも狙いだった。「ベンダーと要件定義から話し合って、何カ月もかけてシステムを作っていては、小売業に求められる市場ニーズの変化には到底追いつけない」ことから、「いかにクイックにレスポンスを上げていくか」というところにもフォーカスしなければならない。そうしたあらゆる点から、まさに「kintoneはジャストフィットだった」わけだ。

発想の幅が広がり、社員や経営層の意識改革も進む

 kintoneの導入を決定してから、まずは先述の「ゴルフ5プレステージ」の顧客情報管理システムをベンダーの協力も得ながら作り上げた。「これならいける」という実感をもった後は、既存の社内ツールの置き換えに、あるいは新たなデータ活用のためのツールにと、次々にkintoneを採用していく。


構築されたアプリは実際の店舗でも活用されている

 たとえば2021年には全国の店舗で利用する人事システム刷新に合わせて、アルバイトの面接を受けに来た本人にスマートフォンなどから人材情報を登録してもらい、自動でkintoneに情報が集約される仕組みにしたことで、店舗や人事部門の工数削減、ペーパーレスにつなげた。また、キャンプブームの盛り上がりに合わせて中古テントの買取事業をスタートさせるときは、当初はExcelで商品情報を管理する予定だったが方針を変更。「kintoneで試しに作ってみたところ2カ月でローンチできた」ということで、スピードの速さも実証できた。「大規模なシステムではないが、1つの事業の買取・在庫管理・販売のすべてをkintoneの標準機能のなかで作れたのはいい経験だった」と蒲山氏は振り返る。

 さらには、最初に開発した「ゴルフ5プレステージ」用をベースに、通常の「ゴルフ5」約200店舗用の顧客情報管理システムも構築したが、「店舗から本社に異動して3~4カ月のスタッフがゼロから作ってローンチした」とのことで、エンジニアではないメンバーでも十分にkintoneを用いたローコード開発が可能であることを証明して見せた。他にも、同社の社史コンテンツを店舗で勤務する全社員が業務用スマートフォンでも閲覧できるようなアプリを制作するなど、そのスコープは実に多岐にわたっており、現在のアプリ数は30を数え、その多くが社内メンバーのみで作り上げたものだ。

 そして現在は、2023年夏に向け、同社の基幹の1つである「客注システム」と呼ぶ店舗用システムをkintoneベースに置き換える一大プロジェクトがスタートしている。これにより、たとえば顧客からの注文情報をPOSシステムの決済ステータスなどと連携して、店舗で会計した商品をEC用の倉庫から顧客に直送したり、ECサイトで注文した商品を店舗に取り置きして受け取ったりできるようになるという。

 このように活用してきたkintoneの効果は、ズバリ「圧倒的な低コスト」にあると蒲山氏は断言する。現在稼働している「客注システム」は、初期の開発に億単位のコストがかかっており、さらに年間のランニングコストに数千万円を費やしているとのこと。kintoneはユーザーアカウント単位の課金のため、もしkintoneに置き換えることができればはるかに低コストで構築、運用できることになる。

 これまでにkintoneで開発したものを仮に外部ベンダーなどに頼って作ったとすれば、コストは10倍にはなっていただろうと蒲山氏は見ている。また、アジャイル的なスタイルで開発できるおかげで、従来のウォーターフォール型に比べ納期も5分の1~10分の1に短縮できていると評価する。

 内製の現場を取り仕切る同社情報システム部の武田氏は、ウォーターフォール型では「要件定義を期日までに終わらせないと、その後のスケジュールが全部ずれていく納期縛りがあったが、アジャイルだと実際に作りながら詰めていける」と語る。要件を詰めるときにはしっかり時間を確保できるため「品質も担保でき、後戻りもできる」とし、開発の進め方に関して「考え方がかなり変わってきている」とも。

 加えて「発想の幅が広がった」こともkintoneによる内製化の効果の1つだ。「他のデータ連携ツールとつないでデータベース操作もできるし、RPAとの連携で他システムの画面も操作できる」という高い自由度をもつkintoneは、まさに「選択肢、発想の幅を無限に広げられる」ものだと蒲山氏。武田氏も、「何らかの課題が上がったときに、まずkintoneを使ったら何ができるだろう、と考えるところから始めるようになった」という。

 kintoneを採用したことによる効果は、社内意識の変化という形でも多方面に現れている。1つは社内からの情報システム部に対する見方だ。kintone導入前は「客注システム」の開発・運用・保守の1担当者に過ぎなかった武田氏だが、内製化の拡大をきっかけに、限定されたその業務領域に止まらず、社内の幅広い領域に自ら手を広げていけるようになった。

 それによって情報システム部の担当者1人が社内に与えられる影響力が大きくなり、蒲山氏いわく「他部署からの情報システム部に対する見方が変わった。この3年間で情報システム部に相談しやすくなったという声もあり、部としての評価も上がったのではないか」とのこと。武田氏も「他部署にも情報システム部の考え方に立って会話できる方が少しずつ増えている。互いに近いITリテラシーをもって会話する、そこに向けた一歩がkintoneで踏み出せたと感じる」と笑顔を見せる。

株式会社アルペン 情報システム部 デジタルプランニンググループ チーフ 武田誠司氏株式会社アルペン 情報システム部 デジタルプランニンググループ チーフ 武田誠司氏

 一方で経営陣の意識改革も進んでいる。「経営陣から、こういうことはできないか、こういう情報は得られないかなど、直接の相談が増えたのは大きな変化。今までITを遠い存在のように捉えていたのかもしれないが、ここ1~2年でITを身近なものと感じてきているのでは」と蒲山氏。そして、「システムができないから経営の意志決定ができない」から「システムが経営の意志決定を加速させる」という考え方への劇的な変化も実感しているようだ。

円滑な社内普及のため、経営の意図を伝えることに時間を使う

 ただし、低コストかつ短納期で開発できるkintoneだからこそ、システムを内製するときには注意しなければならないこともある、と蒲山氏は自ら釘を刺すことも忘れない。「当社のIT導入プロジェクトにおける一番の強みは、社員みんなが抵抗なく、ちゃんとツールを使ってくれること。スポーツ好きの前向きな社員が多いという社風によるところもあると思うが、それだけに使いにくい物を作ってしまっても我慢して使われてしまうリスクがあり、不満がくすぶる可能性がある。だからこそディフェンシブな思考を忘れてはいけないし、そこの責任は大きい」と打ち明ける。

 したがって、新しいツールを開発し、各店舗に導入するようなときは慎重を期して進めている。蒲山氏によると、「たとえばCRMツールを作ったので使ってほしい、と店舗に導入しても、データを入力することだけが目的化してしまう。そうではなく、お客様との関係性を強めることが重要で、CRMツールはそのための道具に過ぎない、という本質を伝えることが大事。可能な限り丁寧に、経営の意図を伝えることに時間を使っている」とのこと。そのうえで、「導入先の部署全体に伝えるためには誰から言ってもらうのがベストなのかも、あらかじめ押さえておく。最初は部長に説明して、そこから社員に話してもらったほうがいい場合もある」とし、導入先の事情も考慮することがスムーズな導入につながる秘訣だと語った。

 同社のkintone活用は、今後も一層広げていく方針だ。直近は「客注システム」の刷新を完遂することが目標となるが、それ以外にもすでにBtoC、BtoB問わず業務プロセスの効率化につながるツール開発の要望が各部署から上がってきている。これまでアプリケーション基盤として活用してきたkintoneだが、顧客情報にメモを残す機能など、kintoneができることを応用することで、コミュニケーション基盤として活用する道筋も考えている。「現場には生のあらゆる情報が貯まっている。これをいかにキャッチアップし戦略に活かすか。そこを担うのがkintone。この流れを止めることなく、活用拡大の道を探し続ける」と蒲山氏は宣言した。

提供:サイボウズ株式会社
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