どうするSAPのモダナイゼーション2020年代のビジネスを飛躍させるモダンITプラットフォーム

  • Dell Technologies
    Advanced Technology Solution 本部
    SAP スペシャリスト
    山崎 良浩 氏

  • Dell Technologies
    インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括
    ソリューション本部 プリンシパルエンジニア
    菅谷 篤志 氏

  • Dell Technologies
    インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括
    ソリューション本部 シニアビジネス開発マネージャ
    小野 誠 氏

まもなく到来する2020年代。社会のデジタルトランスフォーメーションによって引き起こされたビジネスのデジタル化はエンタープライズITに大きな変革をもたらそうとしている。特に注目されているのが、既存システムのブラックボックス化でデータ活用ができないことによって膨大な経済損失が発生すると経済産業省が警告する「2025年の崖」と、統合基幹業務システム(ERP)パッケージ「SAP ERP」サポート終了という2つの課題にどう対応していくかだ。

この2つは一見すると相互に関係がないように思えるが、根は同じである。キーワードは基幹系システムのモダナイゼーションだ。ここでは数多くの企業で稼働するSAP ERPを支えるインフラストラクチャを提供するDell Technologies 小野誠氏、山崎良浩氏、菅谷篤志氏に2020年代を勝ち抜く基幹系システムを支えるインフラストラクチャのあり方をZDNet Japan副編集長の田中好伸が聞いた。

機械学習で自動化を強化するSAP

――今日はよろしくお願いいたします。まずは自己紹介と、業務についてお教えください。

小野:Dell Technologiesのインフラストラクチャ・ソリューション事業統括ソリューション本部の小野です。SAPの検証済み構成システムを提供する「Dell EMC Ready Solutions for SAP」について、ビジネスとマーケティングを担当しています。ERP、アナリティクス、IoTの「Leonardo」などSAP全般の基盤を展開する役割を担っています。

山崎:SAPスペシャリストの山崎です。SAP導入にかかわる現場において、お客様にインフラ面を中心に技術的支援、プリセールスをしています。「SAP S/4HANA」導入にあたり、基盤となるミドルウェアであるBASIS部分のサポートをすることも多いです。

菅谷:技術的なプリセールスを担当している菅谷です。東京・三田にDell EMC SAP コンピテンスセンターがあり、ドイツのSAP本社内にあるDell EMC Global SAP Center of Excellenceとも連携しながら、お客様のPoC(概念実証)やサイジングの支援をしています。

――ありがとうございます。さてここからが本日の本題となりますが、SAPの2025年問題について、既にZDNet読者を含め多くの企業の方々が認識し、対応を進めているかと思います。多くの顧客を持っていらっしゃるDell EMCとしても既にユーザー企業と対策を進めたりはされていると思いますが、ユーザー企業側はどのような認識でいるのでしょうか。

山崎:お客様と話す中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の鍵が何かについて見えてきています。IoTは各社重み付けにばらつきがある一方、機械学習(ML)とロボティックプロセスオートメーション(RPA)が重要であるという点については一致しているのです。MLとRPAを使って定型業務をいかに効率化していくかがポイントです。S/4HANA はそのML、RPAのロードマップをはっきり示しています。S/4HANAへの切り替えはDX、さらに「2025年の崖」問題と直結しているのです。

――SAPの2025年問題と2025年の崖がここでつながるのですね。今後の新しい基幹系システムの構築は2020年代のビジネスを左右する問題ということだと思います。近年のDXの流れなどもあり基幹系システムを支えるインフラに求められている要件も変わってきているのではないでしょうか。

山崎:S/4HANAではRPAとMLに大規模な投資をしています。2025年の崖については、現状ユーザー企業が特に急いでいる雰囲気はありませんが、将来的には対応していく流れにあります。間違いなくML、RPAに焦点が当たるのです。

Dell Technologies
Advanced Technology Solution 本部
SAP スペシャリスト
山崎 良浩 氏
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SAP スペシャリスト
山崎 良浩 氏

――MLの重要性はよく分かるのですが、RPAについては、日本だけの流行りのような気もしています。そのあたりいかがでしょうか。

山崎:SAPが世界で開催しているイベントに出席していますが、従来の定型業務を機械に置き換えて、省力化していくことにSAPが力を入れているのは確かと言えます。

――日本でRPAが好まれている理由として、システムの多くがサイロ化してしまっていて、管理不能になっているという背景がある気がします。本来であれば、ETL(Extract Transform Load)などのソフトウェアで連携できるのに、サイロ化してそれができないため、サイロを手作業で整えるイメージでRPAを導入しているというようなことはないでしょうか。

山崎:日本で現在流行っているのはそういった側面がありますが、SAPは今後のS/4HANAでマニュアル操作を大幅に減らすことをRPAを使って進めようとしています。その過程で必ず必要になるのがMLなのです。MLを利用してRPAを活用するという流れです。

 例えば、モノを買ったときに支払伝票と納品書類で消し込みをしないといけません。この時に、送り先が微妙にずれていたり、為替の影響で金額が少し違っていたりというケースはよくありますが、単なるルールベースの仕組みだとこの時点で消し込みができなくなってしまいます。

 そこにMLを使えば、住所や為替などにおいて生じ得る許容誤差を学習することで、処理を完了できます。マニュアル作業をするしかないと思われていた分野を自動化できることで、ユーザー企業にとって大幅な省力化が見込めるのです。

ERPは企業の変化に合わせられるのか

――2025年の崖において、レガシーをどうするかが課題になる中で、S/4HANAに切り替えれば対応できるというのは納得できます。ただ、なぜレガシーシステムが「レガシー」なのかという問題は整理しておく必要があります。パッケージシステムをカスタマイズ、アドオンしてしまうことの問題が大きいのではないでしょうか。

菅谷:カスタマイズして構築した既存のSAP ERP6.0に機能面ではユーザーが満足しているのも実情です。そこで、さらなる投資をして、S/4HANA導入に踏み切るには、移行する価値についてもご提案していく必要があります。

Dell Technologies
インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括 
ソリューション本部 プリンシパルエンジニア
菅谷 篤志 氏
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インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括
ソリューション本部 プリンシパルエンジニア
菅谷 篤志 氏

山崎:基幹系システムには業界や会社ごとにビジネスプロセスや帳票に差異があるのが実際のところです。カスタマイズなしで利用できるケースは、基幹系システムにおいてはあまり多くありません。S/4HANAについても、SaaSのS/4HANA Cloudではなくオンプレ版のS/4HANAを使っている顧客が多いのです。ある程度のカスタマイズは避けられません。極小化をするのはいいですが、カスタマイズを悪と位置付けるのは実態にそぐわないのです。SAPはS/4HANA自体のカスタマイズは最小にして、S/4HANAの外側でアドオンを追加するようなイメージでリファレンスアーキテクチャを構成しています。

――「服に身体を合わせるべき」という議論があります。業務をシステムに合わせるのが正しいということですね。ただ、企業は成長によって身体が大きくなったり、M&Aで身長が伸びたりするなど変化していきます。その意味で、柔軟に対応するためにも業務をパッケージに合わせる方が効率的とも感じます。

山崎:M&Aで企業という身体の変化を含めて、どう柔軟に対応できるかを考えて、カスタマイズやアドオンを考えるべきでしょう。かつて、SAPを買うと世界のベストプラクティスがそのまま手には入るということで導入が進みました。でも。そのままでは使えないのでカスタマイズせざるをえないという流れでした。そのカスタマイズをアップグレードパスをあまり考えずに行ってしまった。アップグレードパスを担保したカスタマイズが重要です。

――これまでのERPはSoRの観点から、売り上げには直結しないという考え方をしていました。しかし、ITのビジネス依存度が上がってくると、そうとも言い切れなくなってきていると感じます。企業買収でプロセスが変わってくると、15年前のシステムのままでいいということにはならないのではないでしょうか。

山崎:DXの話を前提に、従来型ERPなのかS/4HANAなのかという話をしていますが、それ以前に、「今現在の売り上げが分からない」といった企業は今もあります。S/4HANAの前のERPすら導入していない日本企業は多いのです。そういう企業は今のSAP ERP 6.0を導入すれば大きなメリットを得られます。つまり、DXの壁は2つあるのです。ERPをS/4HANAにするかどうかが1つ。もう1つは、手組みのバッチ処理による基幹系システムを更新して経営を可視化するという、現状のITの標準段階に追い付くことです。

菅谷:DXの成熟度を測るとき、ERPが入っていない段階がゼロ、ERPをS/4HANAにする段階を1としましょう。次の段階へSAPは「SAP Data Hub」という製品で解決策を示しています。左がS/4HANAでリアルタイムの業務データをためていきます。右側にHadoop、SNSなどのデータがあり、それらを統合、管理する製品です。企業の外にあるデータも含めて、すべてのデータを集めてリアルタイム分析しようとするのが、現在のSAPの考えです。この世界を認識せず、コストだけ見ると、ERP更新というルーティンワークで終わってしまいます。


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ハイブリッドクラウド+マルチクラウドという現実解

――現在、SAPの稼働基盤の20%以上がDell Technologiesという話も聞いていますが、リアルタイム分析によるビジネス革新という要件が加わると、インフラ自体に求められる要件が変わってきますか。「高信頼で止まらない」だけではなくなるでしょうか。そうなるとオンプレではなくクラウドでという選択肢が出てくると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。

山崎:S/4HANAなど基幹とそれ以外のシステムで実装するものを分ける方法が今後望ましいでしょう。会計だけなら今後も安心安全が何よりも重要です。Dell Technologiesが高いシェアを持っているのも、それが実現できているからです。S/4HANAの基盤と新しい機能の基盤が同じ環境に載っている必要はありません。

 例えば、われわれDell Technologiesが社内で利用している基幹系システムはSAP ERP 6.0です。しかし、営業担当者が普段使うのはSalesforce.com(SFDC)のソフトウェアで、新規顧客の情報などはSFDCに入力します。ERPはオンプレの基盤、SFDCは当然SaaSです。SAPとSFDCの組み合わせは世界のデファクトスタンダードになってます。また、Dell Technologiesは基幹システムに向けたIaaSとして「Virtustream」を提供しており、S/4HANAなどの基幹と進化の激しい周辺システムとのすみ分けを前提にしています。

――どんなシステムともつながることが大事ですね。

山崎:オンプレミスとクラウド間でデータを統合する「Dell Boomi」があります。やみくもに必要な都度、システム間をつなぎ続けると“タコ足”になり、管理できなくなります。そこでデータのメタ情報を一元管理し、拡張してもタコ足にならないためのHub構成が必要です。今後多くのソフトウェアはSaaSで提供され、それをまとめることはできないため、必然的にマルチクラウドになります。マルチクラウドとオンプレを組み合わせたハイブリッドクラウドが今後の主流になるでしょう。

オンプレ回帰から考えるインフラの未来

――先日、AWSの障害が発生しました。海外の事例としては時々ニュースが流れることがありました。しかし、日本でも本格的な障害が起きたということで、混乱が生じました。念のため東京と大阪の両リージョンにシステムを置くべきといった議論も出ていますが、コスト面などを考慮すると難しいところがあります。

小野:クラウドも二重構成を必須とするのかという議論を投げ掛けた意味で、よい気づきを与えた出来事でした。 われわれとしては「モダナイズ=クラウド化」という図式にはしたくありません。例えば、開発環境であれば、すぐにインフラを用意し開発に入るために時間をかけずに利用できることや、利用しないときには電源を落としておくことで利用料金をかけずに安価できるため、非常にクラウドは効果的です。一方、SAPの本番環境は稼働するための準備も十分な時間もあり、すぐにオンデマンドでリソースを追加することは一般的に少ないと思います。また本番環境は稼働率も高く24時間365日を止めることはなく、コスト面で考慮してもオンプレミスはメリットがあります。私たちはオンプレミスとクラウドを適材適所にご利用いただくことをお勧めしています。オンプレミスであってもモダナイズした最新のインフラ環境を利用することにより、自動化も含めて運用の手間を最小化し最適な運用すること実現しています、ぜひ様々な観点で効率性をみてもらいたいです。

Dell Technologies
インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括 
ソリューション本部 シニアビジネス開発マネージャ
小野 誠 氏
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ソリューション本部 シニアビジネス開発マネージャ
小野 誠 氏

山崎:ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)が実施したアンケートで、次の「インフラをどうしますか」という質問をしたところ、4割くらいがオンプレ志向であることが分かりました。クラウドのメリットは、必要になったリソースがすぐに手に入る点、運用が楽な点です。デメリットは停止のタイミングを選べないことです。Windowsの緊急パッチなどでは会計の期末処理など重要な処理をしていても落ちる時は落ちます。バックアップなど運用の自由度も高くありません。

 それを克服する方法がないかを考え、オンプレミスのシステムとしてコンバージドインフラストラクチャ(CI)やハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)に力を入れています。そこで、自動運用の機能を投入しているのです。オンプレでもクラウドの運用自動化のメリットを得られるようにするのです。

――今、オンプレミス回帰の流れがきています。クラウドでの運用を5年などのスパンで見た時に、本当に投資メリットがあるのかどうか。しかも、障害対策のために2拠点で運用するとなればなおさらです。

山崎:Dell Technologiesのインテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー を搭載したHCI「Dell EMC VxRail」とクラウドサービスでの運用でコスト差を試算した結果、オンプレが安くなるのは確かという結果が出ています。「来週2倍の処理能力が必要」といった開発環境やWeb系のシステムならともかく、基幹系などのようにある程度処理負荷が安定しているシステムであれば、オンプレの方がコスト面で有利なのは間違いありません。

――具体的にDell Technologiesとしての2020年代を支えるSAP基盤はどうなっていくのでしょうか。

小野:SAPの2025年問題で、SAPの基盤更新・保守などの需要は高まっていくでしょう。CIやHCIなどの効率的に運用できるインフラや事前検証済みシステムがポイントです。Dell EMC Ready Solutions for SAPの取り組みなどを通じて、お客様のDX推進をお手伝いしていきたいと思います。


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山崎:Dell TechnologiesはSAP導入において高い実績を持っています。接続規格「NVMe」にエンドトゥエンドで対応するオールフラッシュストレージアレイの「PowerMax」では99.99999%の稼働率を実現しています。9が7つの「セブンナイン」では、ダウンタイムが年間3秒ほどの計算です。さらに運用の自動化を進めることで、安心安全でかつ自動運用できる環境を提供していきます。

小野:JSUGが 「日本企業のためのERP導入の羅針盤~ニッポンのERPを再定義する~」を発刊しました。そこに、編集メンバーの1人として、主要ハードウェアベンダーとして唯一Dell Technologiesの日本CTO(最高技術責任者)である黒田晴彦が参画しています。Dell Technologiesが持つSAPに関する専門性を示す端的な事柄です。

最新のインテル® Xeon® プロセッサー・スケーラブル・ファミリーは、新しいエンタープライズ・アプリケーション、科学技術計算、通信、ストレージ、クラウド、ビッグデータ分析など、さまざまな用途に、性能、電力効率、仮想化、セキュリティーの面で大きなメリットを提供し、IT 部門の課題解決を支援します。Intel、インテル、Intel ロゴ、Xeon、Xeon Inside は、アメリカ合衆国および / またはその他の国における Intel Corporation またはその子会社の商標です。

提供:Dell Technologies
[PR]企画・制作 朝日インタラクティブ株式会社 営業部  掲載内容有効期限:2019年12月31日
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