
これからのメールマーケティングに対応すべく
次世代型クラウドサービス基盤を検討
エイジアは、メール配信やCRMなどのマーケティングコミュニケーションシステム、およびマーケティングコミュニケーション支援サービスを提供している。インターネット黎明期の1995年に設立されて以来、インターネットの発展に合わせて事業を成長させてきた。
同社の主力となっているのが、独自開発のアプリケーション「WEBCAS」シリーズだ。2001年にメール配信システムをリリースして以来、SMSやLINEメッセージ、ダイレクトメールなど多彩なチャネルでのB2C双方向コミュニケーション、さらにはCRMやマーケティングオートメーションといった、多彩な機能を提供するまでに発展している。これまでに4000社以上に採用されており、その業種はEC運営企業、メーカー、生命保険、金融機関、官公庁など実に多彩だ。
WEBCASシリーズは、ユーザー企業がオンプレミス環境で利用するパッケージのほか、ASP型/SaaS型のクラウドサービスとしても提供され、ユーザーの要件に応じて選ぶことが可能。このサービス基盤は社外データセンターに設置され、エイジアが自社で運営しているが、これまでの基盤にはいくつかの課題があったという。サービス基盤の運用を担当する、インフラ基盤マネジメント部長の影山恵邦氏は、以下のように説明している。

株式会社エイジア
インフラ基盤マネジメント部長
影山恵邦氏
「既存のシステム基盤は、オーソドックスな3ティア構成の仮想化基盤で、その上で各テナントの多数のVMが稼働しています。この基盤の最大の課題は、1Gbpsの外部接続が可能なネットワークリソースを持ちながら、ヘアピン通信の影響で実質的に半分ほどしか使えなかった点でした。また、構築してから5年以上も経過しており、部分的な増強や更新を行ったため物理ケーブルはスパゲッティ状態になっていて運用が大変でしたし、ストレージI/Oもボトルネックになっていました」
同じ仮想化基盤上のVM間通信がいったん外部に出て、ファイアウォール/UTMを経由して戻ってくる、ヘアピン通信。ファイアウォールのLAN側通信帯域や処理能力を圧迫し、その実効性能を大きく制限してしまう。影山氏はその対策として、VMwareのソリューションに着目した。
「メールマーケティングでは近年、よりリッチなコンテンツを使うケースが増えてきています。かつては1通あたり100kbytes程度だったのが、今は300~500kbytesくらいが普通になっており、いずれ3Mbytesにもなるメールも使われるようになるでしょう。今後のメールマーケティングを考えると、1Gbpsの帯域をフルに使い切れるシステム環境が望まれ、そのためにはヘアピン通信を解消することが必要でした。そのためにVMware NSXを活用し、フロントは物理ファイアウォールを使いつつ、内部は仮想ファイアウォールで構成する形にしたいと考えたのです」(影山氏)
Dell EMC PowerEdge R740xdとVMware NSX & vSANで
スループットやクラウド連携がさらに進化した基盤を構築
こうして、影山氏らインフラ基盤マネジメント部では、2017年頃からベンダーの勉強会に参加するなどして、これからのクラウドサービス基盤のあるべき姿を見極めるべく情報収集を活発化させていった。この情報収集活動がその後、次世代のサービスインフラ構築プロジェクトとして動き出すこととなった。
「私たちはクラウドサービスのセキュリティ強化を日々推進していますが、その業務の一環で、よりセキュリティレベルの高いデータセンターの使用を検討することになりました。そして、新たなデータセンターに構築する基盤は次世代型にしよう、という流れで新サービス基盤構築プロジェクトが動き出したのです」(影山氏)
検討段階では、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)アプライアンスも含め、様々な選択肢が挙がったが、最終的には今後の拡張性を最も重視して4台のPowerEdge R740xdを中心としたハードウェアに、スループット向上策としてVMware NSXとVMware vSANを活用する構成に落ち着いたとのこと。エイジアでは、VMwareのソフトウェア製品もDell EMCのOEMソフトウェアとして調達し、合わせて「vSAN・NSX設計・構築サービス」「VMwareトレーニングサービス」などのサービスも活用、全ての環境をDell EMCの協力の下で構築することにした。2018年11月に納入を完了しており、2019年4月の運用開始を目指して準備が進められている最中だ。運用開始後は、既存の基盤と合わせ運用される計画だ。
「これから検証を行おうという段階で、TCOは算定できていませんが、やはりメールサーバのスループットには注目していますね。VMware NSXでヘアピン通信をなくすことにより、回線の利用効率は既存環境の倍になるはずで、大容量メールを送りたい企業のニーズにも、今まで以上に応えられるようになります。また、ラックや電源の利用はこれまでの半分で済むようになり、電源の有効活用やデータセンター利用料削減につながるでしょう」と、影山氏は新サービス基盤への期待を語る。
新サービス基盤では他にも、パブリッククラウドとの連携も強化された。データセンター間L2延伸を活用し、一部機能をAmazon Web Services(AWS)にオフロードすることも可能になっている。
「近年では、当社の顧客企業も多くがAWSを活用しており、その顧客側システムと当社サービス基盤を連携させるため、これまでもダイレクトコネクトを使ってきましたが、新たな基盤では、よりパブリッククラウド連携が進みました。メールサーバだけはIPレピュテーションの都合もあって外に出せませんが、WebサーバやアプリケーションサーバをAWSで稼働させることが可能になっています」(影山氏)
使いこなしにコツが必要なVMware NSX
Dell EMCのトレーニングと設計・構築サービスが役立った
今回のエイジアの新サービス基盤プロジェクトでDell EMCは、ハードウェアとソフトウェア、サービス一式を提供し、設計フェーズからコンサルティングを行った。影山氏はDell EMCについて、以下のように評価している。
「Dell EMCはProSupport Plusというサービス&サポートが充実しており、求めている回答を迅速に受け取れ、ネットワーク設定なども詳しく説明してくれます。保守サービスの品質も、コストメリットも高いというのが私の評価です」(影山氏)
今回のプロジェクトでは、VMware NSXなど同社にとって初めて触れるソリューションも含まれていた。その使いこなしに習熟するために影山氏はDell EMCのVMwareトレーニングサービスを受けることにした。
また、VMware NSXによるネットワーク設計は自由度が高く、物理ファイアウォールと仮想ファイアウォールをどのように使い分けるかなど、ある程度の慣れが必要とされる。そこで役立ったのがvSAN・NSX設計・構築サービスだった。
「VMware NSXのファイアウォールポリシーには、慣れが必要です。特に当社では、IP-VPNとインターネットVPN、そしてインターネットと、3種類の接続形態を使い分けているため、それぞれにどのようなポリシーが適しているのか、考えなければならないことが数多くありました。そこで今回の構築では、物理ネットワーク部分は私たちが担当し、VMware NSXの仮想ネットワーク部分ではDell EMCに支援してもらっています。こういった設定には、Dell EMCのベストプラクティスが役に立ちました」(影山氏)
Dell EMCはVMwareソリューションに関しても、緊密で幅広い協力関係により充実したサービスを提供している。影山氏は、その関係性を垣間見たエピソードを語ってくれた。
「印象的だったのは、VMwareのライセンスに関してDell EMCに相談したとき、スピーディーな回答をくれたことです。こちらは予算を検討しているところだったので、迅速な対応が助かりました。また、VMwareソリューションに関する技術的な質問も、同じDell EMCの窓口に問い合わせできて便利です。Dell EMCの保守サービスは、質だけでなく、金額面でも当社の求める水準をクリアできて満足しています」(影山氏)
高速処理の実現で、ビジネスにも大きな効果
運用効率やセキュリティのさらなる向上を目指す
エイジアの事業にとって、今回構築した新サービス基盤の意義は大きい。
「メールサーバのスループット向上により、大量メール、大容量メールの配信を高速処理できるようになります。これまでのサービス基盤でも、大量メールを高速処理できる点を特徴としており、この性能を評価して競合サービスから乗り換えてきた顧客が少なくありませんでしたが、その特徴をより強く打ち出すことができます」
また、運用面でも統合管理による効率化が期待できる。「ゆくゆくは自動化も視野に入れ、運用へのAI活用なども考えている」と影山氏。運用が落ち着いてきた頃には、NSXのマイクロセグメンテーションによるネットワークセキュリティ強化も検討していく計画だ。
