三層分離による業務効率の低下、シャドー IT の増加などに伴う現場の不満、管理コストの増大といった課題を抱えていた京都府舞鶴市。 CIO 補佐監の吉崎氏は、事業継続計画(BCP)の観点からも、ルーティンワークに依存するリスクが危ぶまれていたと語る。
2024 年に転換点を迎え、新しい市長によるトップダウンの方針のもと、意思決定から約 7 か月で全庁が Google Workspace と Chromebook へ全面移行した。これにより、従来の三層分離環境を維持しつつ、 ChromeOS の特性を活用したゼロトラスト運用を実現。 ChromeOS Enterprise Upgrade と Chrome Enterprise Premium の連携により、職員は場所を選ばず安全に働けるようになり、庁内フリーアドレスやテレワーク、避難所用に整備した Chromebook との平常時活用などが進んだ。職員 1 人あたり 1 日で 82.1 分の時間創出効果があり、データ連携によってさらなる効率化に取り組んでいきたいという。
企画総務部情報政策課の専門幹、濵氏は、徳島県が2025年 10 月に Google Workspace と Chrome Enterprise Premium を全面導入して実現した、働き方改革とコスト削減について詳説した。従来の VPN 環境は同時接続数が制限されていたが、 Chrome Enterprise Premium 導入後は全職員が場所を問わず庁内システムにアクセス可能になった。また、 Google Workspace に標準搭載のモバイル アプリケーション管理(MAM)機能により、端末全体ではなくアプリ単位でのセキュリティ管理を行い、安全で便利な BYOD 環境を整備した。
さらに、データ保護の観点でも DLP (データ損失防止)機能を活用し、機密性に応じて共有制限を制御する仕組みを 8 月から運用する計画。 URL フィルタリングも Chrome Enterprise Premium の機能で代替し、プロキシサーバーも廃止するなど、組織ごとの複雑な閲覧ルールをブラウザで統一することで快適なネットワーク環境を実現した。
京都市では、令和6年度に策定した「新京都戦略」に基づき、より創造的な政策立案や庁外に飛び出しての対話・協働を促進するため、 AI の活用をはじめ DX 推進を通じて職員の業務に「余白」を創出することを目指し、取組を進めている。総合企画局デジタル化戦略推進室の中川氏は、生成 AI ツールの Gemini Notebook for enterprise を全職員に導入した経緯や利用状況などを紹介。 AI の活用事例としては、ベテラン並みの知見を持つナレッジ共有環境の構築、議事録や答弁書の作成支援、事務連絡の見える化などを挙げた。
Google Workspace を先進的に活用している建設局からは、 DX 推進リーダーの林氏が登壇。職員自らが業務改善アプリを内製化している事例を披露した。契約直前の工事図面や書類を自動チェックするシステムや、 Google ストリートビューの画像から道路の要補修区間を判定するシステム、道路の路線ごとに雨量観測所のデータを集計し、連続雨量を一覧で監視できるシステムなどが、これまでに開発されている。職員向けのアプリ開発研修も実施し、好評を博したそうだ。
総務部 デジタル対策監の松浦氏が取り組みを発表した。宮崎市では、災害対策や市民目線のサービス迅速化、コスト パフォーマンスを重視して、 Google Workspace、 Chrome Enterprise Premium、 Chromebook を導入している。セキュリティ面では、ブラウザを新たな境界として状況に応じてアクセスを動的に制御するゼロトラスト モデルへ移行し、取り扱いに注意すべきデータも「機密ドライブ」を独自に運用することで安全に扱える環境を整備した。
Gemini の活用は多岐にわたり、会議の議事録作成の自動化、庁内マニュアルを学習させた問い合わせ対応、手書き書類のデータ化、市民へのメール回答案作成など、具体的な業務効率化の事例が示された。 AI を使って自ら問題解決する人材を育成しており、 AI で単純に業務を効率化するフェーズから、 AI エージェントが業務を実行して付加価値を創造するステージを目指すという。
情報デジタル推進課の中尾氏は、大分県中津市の DX が目指す職員の行動変容や経営改革、 Google のソリューションを選択した理由などについて説明した。 2021 年に 7 アカウントから始まった Google ツールの活用が、職員の成功体験の積み重ねによって 4 年後には全庁導入が実現。その 9 か月後に Gemini 利用率は約 70 %、 1 人あたりの 1 日の削減時間は 87.6 分を達成した。さらに中津市では、 AI 活用による内製化を軸とした人材育成に注力しており、職員向けの Nakatsu DX School や Nakatsu DX Award を実施している。
同課の和田氏は、 AI を悪用した新たなセキュリティの脅威について触れ、 AI を活用した能動的なセキュリティ対策を組み込むマインドが必要だと説いた。例として、 Chrome 拡張機能を利用する際に、 Gemini でソースコードを監査する方法と、 AI エージェント活用による監査フローの自動化を紹介した。
通知文の視覚化や業務アプリの内製を
Gemini Canvas と Gemini Notebook で実現
全員参加のミニ ワークショップでは、東京都足立区 CDO 補佐官の高橋氏がファシリテーターとして登壇。創造的な作業には Gemini 、既存情報の分析には Gemini Notebook が適していると、二つの AI ツールの特性を解説。「創造神としての Gemini 」「知の巨人である Gemini Notebook 」というユニークな表現でたとえた。
参加者は、Gemini の Canvas 機能を使い、簡単な指示だけで全庁向けの通知文を瞬時に作成。さらに、完成した文書を Gemini Notebook に読み込ませ、「インフォグラフィック」機能で内容を要約した図解画像がその場で自動生成されるプロセスを体験した。難解な文字情報が視覚的で分かりやすい一枚絵に変換される様子に、参加者らは感嘆していた。こうした視覚化アプローチを用いて、足立区では通知文に関する問い合わせを減少させる取り組みを進めている。
高橋氏は Gemini を用いて、「 PDF 分割ツール」のような業務アプリをわずか数分で内製するデモンストレーションも実施。「実装は AI に任せ、我々職員は『指示者』兼『確認者』となることが、 Google と共創するニューノーマルだ」と語った。
参加者アンケートの声
交流会では、自治体担当者同士の交流が行われた。情報交換にとどまらず、登壇者のもとに数名が集って、パソコン画面を覗きながら熱心に意見交換を交わす様子も見られた。
イベント終了後には、「オフレコのお話が聞けて良かったです」「プロキシをなくせる、という意見に感銘を受けました。ネットワークをゼロから考えられるということに驚きを感じています」「各自治体のお話から Google ツールの素晴らしさがよくわかりました。これまで意識したことがなかった製品もあり、根こそぎやった方が良いんじゃないかと思いました」など、イベント中の熱気を反映するような声が数多く寄せられた。
●まとめ
特別イベント会場は参加者同士の交流で熱気に包まれ、自治体担当者の方々の DX 推進への覚悟や、共通の悩みを解決したいという使命感が強く感じられた。
近年、自治体における Google ソリューションの採用事例は増加している傾向とのことで、今回のようなコミュニティ活動を通じた先行自治体との連携も活発な中で、これから DX に着手する自治体にとっても、安心して Google ソリューションを選択できる環境が確実に整ってきたと言えるのではないか。
ZDNET Japan では、自治体の DX 事例を共有するスペシャルサイト「自治体 DX 最前線」を開設している。ここで生まれたつながりを一過性のものとせず、継続的に情報交換を行えるプラットフォームとして、今後も大いに活用されることが期待される。
