イベントリポート:HCL CTO Straight Talk 本格化するIoT、成功のコツはどこにあるのか?

IoTにおけるデータの収集と活用のあり方とは

 最後のセッションはパネルディスカッション。「これがIoT時代のデータ活用事例だ!~データをどう集め、使うのか?先行企業が取り組みを公開~」と題したセッションでは、モデレーターはZDNet Japan編集長の怒賀 新也を据えて、インテルの佐藤 有紀子氏、セールスフォース・ドットコムの関 孝則氏、富士通の須賀 高明氏、HCLテクノロジーズのSukamal Banerjee氏の4氏をパネリストにお呼びし、各社の取り組みと事例が紹介された。

佐藤 有紀子氏
インテル株式会社
エンベッデッド・セールス・グループ
ダイレクター IoT パートナーイネーブルメント
佐藤 有紀子氏
関 孝則氏
株式会社セールスフォース・ドットコム
セールスエンジニアリング本部 副本部長
関 孝則氏
須賀 高明氏
富士通株式会社
ネットワークサービス事業本部
IoTビジネス推進室長
須賀 高明氏
Sukamal Banerjee氏
HCLテクノロジーズ
Executive Vice President, Engineering & R&D Services, Head of IoT Business
Sukamal Banerjee氏

怒賀:IoTの成長の速さ、市場の拡大には驚かされているが、IoTで収益が飛躍的に向上したという話はあまり耳にしない。まずは、IoTの現状をどのように見ているかお聞きしたい。

佐藤氏:インテルでIoTの専属部署が作られたのは約2年前。主な事業対象はゲートウェイデバイスなどのエッジ部分だ。この2年でIoTの認知、期待は非常に大きくなったが、IoTで収益が上がるようになるのは5年後、10年度という予測もある。いずれにせよ、即効性がある分野ではないので、辛抱強く付き合っていく必要があるだろう。

関氏:セールスフォースはCRMから始まった会社。当然、IoTについても、顧客との接点の部分で何ができるかということを軸に考えている。例えば、デバイスの使用状況の情報が上がってくれば、デバイスの使われ方が顧客ごとに分析できるのでCRMとの接点が生まれる。実証実験を含めれば、今年だけで50種類を超えるデバイスをセールスフォースに繋げている。デバイスを持っている企業であれば、IoTに取り組むのはもはや必然と言えるだろう。データの収集・分析の次、お客様に何を返すかという部分にIoTのポイントがあると感じている。

須賀氏:富士通では、IoTを人間中心のビジネスと考えている。その背景には、商品がコモディティ化して商品単体でのビジネスが難しくなり、ビジネスがボーダレス化していつどこが競合になるかわからないという厳しい環境がある。そうした中で企業が一番大切にすべきなのは、その企業の顧客や従業員、あるいは地域の住民が何を価値としているかを正確に把握し、ビジネスに反映させること。人の活動をモニタリング、センシングした情報を価値に変えていくサイクルを実現するための技術としてIoTがあると考えている。富士通としては、IoTのサイクルをインテグレートする力をつけること、パートナーとの連携を強化してエコシステムを作っていくことを戦略の柱としている。

Banerjee氏:IoTへの取り組みは広がっているような印象があるが、IoTを活用している企業は全体の5%程度にすぎない。80%は検討中で、残りの15%は検討を始めてもいない状態だ。未着手の企業は、IoTで何を行うかを定義することが重要だ。そうした企業にとって効率の改善は、最初に取り組むべきステップとして最適なものだろう。そして次に新しいサービスの提供に繋げる。例えば、自動車メーカーがインテリジェントな自動車を作れば、そこから得られたデータは、保険販売に活用することもできるだろう。エコシステムを作って事業分野を拡大するうえで、キーとなる技術がIoTだ。

怒賀:今回のディスカッションでは、IoTにおけるデータの収集と分析にフォーカスしたい。ずばり、データ収集のポイントとは?

佐藤氏:IoTは、デバイスからアプリケーションまでがエンドツーエンドで統合されて価値を生み出すソリューション。その入り口となるのが、データ収集だ。IoT黎明期の今、重要なのは未接続だったものを接続すること。例えば、橋梁やエレベーター、ビルなど、モノに接続性をもたらすのが第一段階。橋であれば振動や騒音などのデータが対象になるだろうし、工場設備であればそれにふさわしいデータポイントがある。このように、データ収集に関しては、産業分野によって異なる垂直的な戦略が必要になる。また、ビッグデータ分析ではデータは中央に集めて分析というのが典型的なモデルだが、IoTではデバイスにリアルタイムにフィードバックを返すことが求められることが多いので、ゲートウェイ部分でのエッジコンピューティングの重要性が増すと考えている。

須賀氏:富士通では、お客様にサービスを提供すると同時に、IoTの社内実践にも努めている。その一例がノートPCを生産している島根工場で、ここでは1つのラインで多品種少量生産を実現するためにIoTを活用している。具体的には、不良が検出されてリペアラインに載せ替えた製品を管理するために、位置情報を使った生産管理を行っている。このシステムにより、不良発生によって出荷予定時刻に間に合わない機種が出た場合に、組み立ての順番を入れ替えるといったことが自動的に行えるようになった。このシステムの導入に当たり、一番注意したのは現場のオペレーションをなるべく変えないということだ。変えたのは、不良品が出たときにセンサーを貼り付けることと、生産管理システムと連携するためにバーコードを読み取らせる、この2点だけだ。結果、スムーズな出荷が可能になり、出荷遅延に伴うチャーター便の利用が減ったことなどで、出荷に係るコストが約30%削減できた。

Banerjee氏:今日のイベントでも何回も言われているが、データ収集においてもビジネスゴールを明確化しておくことが重要だ。また、既存のデータと統合していくことも重要である。そのうえで、データ収集では「どんなデータを集めるか」「どうやって集めるか」「どうやって繋げるか」「どれくらいの頻度で集めるか」「どのように格納するか」を考える必要がある。さらに、コンプライアンスに対応しながら、セキュリティにも配慮する必要がある。そしてビジネス・プロセスの変革にデータを役立てるには、「どのようにデータを使っていくか」ということも重要だ。

怒賀:データをどのように使っていくかという話が出たところで、データ活用についてお聞きしたい。

関氏:ユーザーにどんな体験を与えられるか。カスタマーの視点で考えることがデータ活用の出発点だと考えている。お客様はユーザー体験に対して対価を支払うわけで、ここを出発点として考えるのは妥当だろう。例えば、工場向けのラベルプリンターを製造する佐藤ホールディングスの場合、サポート・サービスを変えるためにIoTを活用している。工場のラベルプリンターが止まってしまうと工場のラインが止まってしまう。リモート保守、予防保守で工場の安定操業を支援したい、海外の顧客にも品質の高いサポートを提供したいという思いでIoTのプロジェクトを実施し、成果を上げている。もう1つ紹介したいのは、家電メーカー、ハイアールのコインランドリーの事例だ。もともとハイアールのコインランドリーはオーナー向けに故障や売上を報告する仕組みを10年前から実現していたが、稼働状況のデータを営業活動にも活用できるようにするためにリニューアルした。データ収集の仕組みは変えずに、そのデータをセールスフォースのクラウドで分析することで、機種を変更した場合の売上予測や出店計画の提案など、新しいサービスを立ち上げることができたのだ。中心にしっかりとしたIoTの仕組みを作っておけば、そこに新しいビジネスプロセスを接続することで、新しい価値を生み出せるという好例と言えるだろう。

須賀氏:また、社内実践の例になるが、富士通の会津若松工場では、半導体生産用の無菌室を転用して低カリウムのレタスを生産している。腎臓病を患っている方でも安心して食べられるレタスだ。この工場では、温度、湿度、照度、CO2濃度、肥料濃度のデータをすべて取っていて、レタスの収穫量を分析。カリウム含有量と深い相関関係があるパラメーターを見つけるという取り組みを行っている。ここで面白いのは、データが増えれば増えるほど精度が高くなっていくこと。最適な栽培条件を効率よく見つけることができる。

Banerjee氏:データ活用を可能にするために重要なことは、まずクオリティが高いデータを収集しておくということだ。先ほど関氏からコインランドリーの例が紹介されたように、当初の目的とは別な目的でデータが活用されることはよくあるが、転用が可能なクオリティをデータが持っていなければ、データ収集の部分から作りなおさなければならない。ここで事例として紹介したいのは、北米のアルミ製造メーカーのケースだ。この会社では、自動車メーカーに納品した製品の約半分が返品されるという事態に陥っていた。幸いだったのは、別の目的で収集されたものではあったものの、温度設定などの製造時の詳細な環境データが収集されていたことだ。そのデータと返品された製品の製造ナンバーを照らし合わせて分析することで、不良品が発生する条件を特定することに成功し、返品を大幅に削減することができた。既存のデータ収集の仕組みを活用して、わずが3週間でローカルのゲートウェイを設置して不良品の発生を未然に防ぐところまで持っていくことができた。

 もう1つの事例は、家庭用品を販売する小売業の例だ。このケースでは、スマートカートを利用することで、来客者数だけでなく、店舗内での来客者の動きを収集。そのデータと特売品などのキャンペーンのデータを組み合わせて分析することで、キャンペーンの効果測定がリアルタイムにできるようになった。

 ここで重要なポイントとしてお伝えしたいことは、データ活用には、適切なスキル、すなわち科学的な分析力を適用する必要があることだ。収集したデータをモデル化してデバイス・モデルを構築する。そうしたスキルを持つ人材を育成するのは一朝一夕にはできないので、そのスキルを提供できるパートナーと組むことが近道となる。

関氏:IoTの成功事例と呼ばれているものを見ると、最初に最小限の価値ある機能を実装し、そこから次へ次へと活用の幅を広げているケースが多い。例えば、ニューイングランド・バイオラボという研究所に酵素を冷蔵庫ごと販売している企業では、最初に使った酵素をバーコードを読み取る機能を実装し、次に使用分の請求書を発行する機能を追加、そして最終的には読み取り作業から請求書の発行までを自動化した。Webのサービスのように細かくアップデートしながら新しいユースケースを見つけ、仮説検証を繰り返していくというのが成功の秘訣だろう。

須賀氏:ビジネスの現場をどう効率化するか、ICTを活用してそれを実現するのがIoT。技術の進化によって今まであきらめていた部分にもメスが入れられるようになってきている。企業の方々にはその最新の状況を理解して一歩踏み出していただきたい。

提供:株式会社エイチシーエル・ジャパン
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