20年で培ったデジタルカイゼンの文化
エームサービスの現場とIT部門をつなぐNotes

企業ITの世界ではこの数年、デジタルトランスフォーメーション(DX)をいかに進めていくかが話題の中心になっている。そのなかで、業務を高度化、効率化するためのアプローチとして、柔軟なアプリケーション開発を可能とするローコード/ノーコードツールを利用した現場主導のデジタル活用や、開発の内製化によるデジタルカイゼンの枠組みを取り入れる企業が増えている。

このアプローチはDX時代の新たな潮流として注目されているが、全国でフードサービス事業を展開するエームサービスでは、そのような現場のデジタルカイゼンのサイクルをIT部門の主導で20年前から取り入れている。それを支えるデジタル基盤として機能しているのが、エイチシーエル・ジャパンが提供する「HCL Notes/Domino(エイチシーエル・ノーツ・ドミノ、以降:Notes)」だ。従業員の「あったらいいな」をNotesで実現しているエームサービスのIT推進部 部長の村田泰之氏と、同部 コーポレートシステム室 チーフの小野誠氏に、デジタル活用の本質を聞いた。

1998年から利用し続ける業務IT基盤

エームサービスの業務内容とIT活用状況を教えてください。

村田氏

 エームサービスは、企業や工場、病院、福祉施設、学校、スタジアム、エンターテインメント施設などでの食事の提供をはじめ、食に関する幅広いサービスを提供しています。グループ全体で約3900カ所の事業所があり、従業員数はパートさんを含めて約4万5千人です。そのなかでPCは約6千台稼働していて、管理部門では1人1台使い、食堂を運営している各現場で1台以上稼働しているという状況です。

Notesを使い始めたのはいつ頃でしょうか。

村田氏

 テスト導入したのが1998年で、翌年から本格利用を開始しています。私がグループウェア導入プロジェクトの担当に指名され、デファクトスタンダードだったNotesを選びました。導入後は一人でNotesを担当していたのですが、途中で小野が入社し、それから2人で開発をしています。

小野氏

 私は以前の会社でもNotesを使っていて、開発の現場でNotesを渡されてから独学で覚えました。2009年に当社へ入社し、そこから村田と共にNotesアプリを開発してきました。開発のコンセプトは、「Notesだけど、Notesらしくないシステムをつくること」です。遊びの要素も入れて、「こんなものがNotesでできるんだ」と驚かせるようなことを目指してつくっています。

社内ポータルを構築してすべてのITを集約

社内におけるNotesの活用領域や使い方を教えてください。

村田氏

株式会社エイチシーエル・ジャパン IT推進部 部長の村田泰之氏
エームサービス株式会社
IT推進部 部長 村田泰之氏

 本社事業部といわれるコーポレート部門の管理部署はNotesを利用しているのですが、各現場で働いている従業員は、基本的に「参照ユーザー」という形でアクセスしています。クライアント版で使うのではなく、見るだけで使うという形です。

 そのなかで特徴的な使い方をしている部分は、Notesで社内ポータルを作っているところです。多くのNotesユーザーは、アプリのアイコンやタブを自由に配置できる「ワークスペース」画面を使いますが、当社では導入当初から社員にはワークスペースを一切触らせないで、基本的にすべてのシステムにポータルからアクセスさせるような形で運用しています。小野からNotesを意識させないという話がありましたが、ポータルからアクセスするので、行った先がNotesなのか別のシステムなのか、ユーザーは意識せずに使えるようになっています。

ユーザーには一切システムは触らせない、その代わりポータルに行けばすべて欲しい機能が使えるようになっていると。

村田氏

 そうですね。当社ではNotesをIT部門が管理していて、昔から1サーバーで動かしています。放っておくと雨後の筍のようにあちこちでサーバーが乱立してしまいますからね。その分、我々の方に負担が増えてしまうのですが。

Notesで開発したポータル画面が文字通り全てのITの入口となっている
Notesで開発したポータル画面が文字通り全てのITの入口となっている

この20年で幾度かITとビジネスの関わりの転機があったと思いますが、Notesをどのように使ってきたのでしょうか。

村田氏

 最初はメール、スケジュール、掲示板と典型的な使い方をしていました。全国に拠点があるなかでどうやって情報共有し、伝達するかが課題だったので、社内のコミュニケーションをNotesで活性化させていくところからスタートしています。それと同時に、各部署からのシステムの要望や相談が来るようになりました。最初に作ったのは本社の会議室予約システムです。テンプレートもありましたが、ユーザーの要望を反映できるように、0からつくりました。それは今も現役で使っています。

ユーザーニーズに合わせ1200個のアプリを開発

そのようなアプリ資産がたくさんある?

村田氏

 現在は約1200個のNotesアプリがあり、中には1998年作成のものもあります。それらをリバイブしつつ使っている訳ですが、バージョン4.6の時につくったアプリが、バージョン11となった今も現役で動いています。そういったアプリを色々と手掛けてきた中で、小野が入社してからパワーアップしましたね。

小野氏

 利用者からこういうものをつくって欲しいというイメージだけもらって、100%に近いものをつくることを心掛けて開発しています。

村田氏

 小野は120%でつくっていますね(笑)。ユーザーのニーズを全部汲み取った上で、更にこういうことですよね?と先回りをして開発をしています。

Notesを使っている企業が使いこなせているかどうかという境界線が、まさにそこにあるように思えます。

村田氏

 ユーザーが何をしたいかを、いかに汲み取るかですよね。私もかつて現場にいたので、ユーザーがどうしたいかということはある程度想像がつきます。システム化した際に、このように工夫したらうまく業務が回るだろうという部分に機能を上乗せしながらつくっていく感覚ですね。

小野氏

 基盤がしっかりとしているから二人でも開発できてしまうんですよね。

村田氏

 とはいえ、今後のスキル移譲や暗黙知の形式知化は課題だと思っています。人材も増えてきているので、徐々に次の世代へとノウハウの移行を進めているところです。

社内の要求を汲み取ってNotes上でアプリを開発できる体制は整っているということですが、開発するにあたって意識や工夫されているところは?

小野氏

 結局、利用者はシステムとして動けば何でもいい訳です。そのため、Notesでないと動かない形にはしないようにしています。操作性という部分では、例えば「このシステムは黒、このシステムは青」などとイメージカラーを付けて、直感的にわかってもらえるように工夫をしていますね。

現場の業務効率を高めるアプリをつくる

Notesアプリで現場の問題を解決してきた具体例としては、どのようなものがありますか?

小野氏

 プライスカードなど、現場で使うアイテムを調達する際に、以前は手書きの注文書をFAXやスキャンしてメールに添付していたのですが、発注用ショッピングサイトを開発し、PCで注文できるようにしました。その際に、我々の親世代でもわかるように、注文するときにわかりやすい写真を選んだり、文字の大きさや、なるべくボタン操作だけで済むようにしたり、工夫をしています。それもNotesでは簡単にできますので。

村田氏

 後は現場がポスターを作るときの写真や素材をストックしたダウンロードサイトですね。ユーザーが検索すると欲しい料理の画像やポスターのテンプレートが出てきて、それらを活用して簡単にイベントや販促用のポスターを作ることができます。いちいち料理の画像を撮影しなくて済み、画像の著作権問題を気にすることもありません。そういった形で業務効率を高める支援をしています。

事業所から管理部署への作業申請ページ
事業所から管理部署への作業申請ページ

現場の負担を軽減するようなシステムが多いですね。昨今はDXブームですが、以前からユーザーも含めたデジタルカイゼンのサイクルができているような印象です。

小野氏

 ユーザーの目も肥えてきて、依頼時には「こういうシステムをつくれますよね」という形のアプローチになっています。場合によってはメモ帳1枚で済まされることもありますよ。例えるなら、社内に漫画家さんがいっぱいいる状態で、スケッチは書いたからアニメ化してくれと言われているような状態ですね。

村田氏

 そういうことが当たり前という中で開発してきましたが、考えてみたら結構な資産ができていて、「これを外部に頼んだらいくらかかったのだろう」と時々考えたりもします。基幹システム以外でSIerに頼ることはほぼなくて、代わりにデジタル基盤としてNotesを置いている形ですね。

最新デジタルツールを使うために欠かせないNotes

最新テクノロジーとの融合で活用しているケースは?

小野氏

株式会社エイチシーエル・ジャパン コーポレートシステム室 チーフの小野誠氏
エームサービス株式会社
コーポレートシステム室 チーフ 小野誠氏

 関西の事業所向けに、現場でのオフライン伝票入力を省力化させるための仕組みとして、紙の伝票を画像化して取り込む「フォトロア」というデータベースをNotesで開発しました。ただ人材不足の問題があったので、RPAとNotesを使ってもっとうまくできないかと考えシステムを改変しました。

 最初の段階では現場のスタッフがPCで伝票のアップロード画面を見ながら、基幹システムに入力していました。ただこれを3-4人で同時におこなっているので、誰がどこをやっているかわからず効率が悪い。そこで運用の過程で紙に印刷するようになったのですが、その部分をRPAで印刷して頭紙まで付けるようにしたら、仕分けに時間がかからなくなり、半日かかっていた入力作業が1時間で終わるようになりました。

 そこからさらに踏み込み人による入力をやめて、AI-OCRで文字起こしさせてNotesで補正をかけ、RPAが入力しやすいレイアウトにして加工し、基幹システムに入力させるところまでシステムを進化させました。現在テスト稼働中ですが、成功率は9割を越え、人間より打つのが速く正確だと現場から評価されています。

 フォトロアを導入する以前は、関西地区の帳票を集めるのに1週間かかっていました。伝票を送る郵送費もかかります。それが最終的には当日に処理できるようになり、生産性が大幅に向上しました。

RPAのような最新テクノロジーを使いたいけど現場では使いこなせない場合、Notesを使って隙間を簡単に埋めることができる。しかも、SIerに頼まなくても今までの知見でできてしまう。デジタル活用を推進するためにNotesが役立っているわけですね。

小野氏

 ただ、PCが止まるとロボットも止まってしまいますから、RPAの部分をNotesでアップロード、ダウンロードできるツールをつくってしまおうと提案しているところです。

フォトロア(最新版)
フォトロア(最新版)
  1.   スキャン送信したものをメール受信DB受信後、スキャンデータ共有DBに保存。
  2.   スキャンデータ共有DBから画像を出力し、RPAがAI-OCRにアップロード/結果CSVをダウンロード。
  3.   CSVを変換ツールが取り込み、RPAが入力しやすいフォーマットに変更。
  4.   RPAが基幹システムに入力。
フォトロア(開発中)
フォトロア(開発中)
  1.   スキャン送信したものをメール受信DB受信後、スキャンデータ共有DBに保存。
  2.   ツールがスキャンデータをAI-OCRにアップロード/結果CSVをダウンロード。
  3.   変換ツールがCSVを取り込み、RPAが入力しやすいフォーマットに変更。なお、前のAI-OCRアップロード/CSVダウンロードツール自体に変換機能を持たせることも可能。
  4.   RPAが基幹システムに入力。

NotesはRPAをも代替できると。他には?

小野氏

 安否確認クラウドサービスのトヨクモと、基幹システムの人事情報を連携させるためにNotesを使っています。人事システムから夜間にデータを加工してもらってそれをNotesで取り込み、トヨクモ側のAPIに対して取りやすいような形に変えて、毎朝リクエストを出す仕組みです。ハブ役としてNotesが入って繋いでいます。

DXだからといって新しいツールを入れる必要はない

理想的なIT活用の姿ですね。不便を感じる部分にNotesを当てはめて、その結果便利な仕組みを実現しています。

小野氏

 何かを試すときは基本的にNotesを中心に考えて、足りない部分に他のシステムを借りる形です。

村田氏

 Notesをメールとスケジュール、掲示板だけで使っている企業は勿体ないです。現場からの要求にすぐに対応できるWebアプリ開発ツールとして、とても優れているので、DX時代だからといってわざわざ他の物を使う必要はありません。

 確かに、時代ごとにNotesでは会わない部分も出てきます。当社でもメールとスケジュール、コラボレーションはMicrosoft365を使っています。そういう部分は任せて、我々が得意な自社開発のところにNotesを当てはめていくスタンスだからこそ、長く使いこなせています。

6月にNotesの新バージョンが出ましたが、移行は?

小野氏

 どれだけ欲しい機能が詰まっているかによりますね。いい意味でNotesは古くても使えてしまうので、すぐに移行しようとは思っていませんが、バージョンアップにあたって心配もしていません。プロダクトがHCLに移管されてから、問い合わせも日本人の担当者が親身になって聞いてくれるようになりましたし、サポートも良くなったので、これからも当社ではNotesを使い続けます。

提供:株式会社エイチシーエル・ジャパン
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