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(記事集)ニューノーマルで伸びる業界
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クレディセゾン 新しい技術を使うことを目的にしない。自社が何に価値の重きをおくかが重要

企業はクラウドをはじめとするITインフラとどう向き合うべきなのか――。IT活用に長けた先進企業のエグゼクティブに、ITと経営の視点で、自社の考えや取り組みを紹介してもらう本シリーズの最終回は、アプレッソ代表取締役社長、セゾン情報システムズ常務取締役CTOを経て、現在クレディセゾンのCTOとしてデジタルシフトへの舵取りをしている小野 和俊氏に話を聞いた。

--現在の役職に就かれるまでの経緯を簡単に教えてください

 2000年にアプレッソという会社を起業し、データ連携ミドルウェア「DataSpider」の開発を指揮しながら代表を務めていました。2013年にセゾン情報システムズがアプレッソを買収したのを契機に、セゾン情報システムズのHULFT事業やCTOも務めることになりました。HULFTは日本発のソフトウェアとして世界ベスト3まで登りつめた誇るべきプロダクトです。その後、HULFT事業以外も含めたセゾン情報システムズ全体のCTOを務めました。

 わたしは日本のソフトウェアやエンジニアリングを大事にしたいと思っています。日本のSIerの将来を悲観する声があるなかで、それを見過ごすことはできません。セゾン情報システムズでSIerのあるべき姿を実現したいと考え、活動してきました。

 そうしたなか、要請を受け2019年3月からクレディセゾンのCTOに就任しました。クレディセゾンは年間カード取扱高が5兆円ほどあり、歴史もあります。金融業界ということもあり、失敗は許されません。こういう企業がデジタルシフトすることは、日本全体にとって大きな意味があると考えたのです。

 そこでいま、エンジニアリングチームの立ち上げに注力しています。いまやITの使い方で、事業競争力そのものが決まる時代です。ITを戦略的に活かす事業領域では、ある程度自社でシステム開発できるようになっておく必要があるからです。現在は、その準備段階で、9月ごろから少しずつアウトプットしていく予定です。

株式会社クレディセゾン
CTO デジタルイノベーション事業部 担当 (兼)テクノロジーセンター長
小野 和俊 氏
株式会社クレディセゾン
CTO デジタルイノベーション事業部 担当 (兼)テクノロジーセンター長
小野 和俊 氏

--ソフトウェア開発から移ってきて、金融やクレジットカード業界をどうご覧になっていますか?

 クレディセゾンの中心はクレジットカードです。ここは顧客体験で改善の余地が多いにあると見ています。自らの体験に根ざした本質的なところで変えるべきところはたくさんあるので、きちんとやっていきたいというスタンスです。

 実はクレディセゾンに移る決断を後押ししたきっかけがありました。ダイヤモンド社の記事で、世界の時価総価額ランキング50を平成元年と平成30年で比較した表がありました。平成元年はトップのNTTをはじめとして上位5社が日本企業、50社中32社が日本企業でした。ところが平成30年になると日本企業はトヨタだけ。それもかろうじて43位です。

 かつて日本はものづくりを中心に成功し、「ジャパンアズナンバーワン」と呼ばれたのが平成元年でした。その後はITの時代となり、今ではGAFAやBATHなどIT企業がランキング上位を占めています。しかし、それも終わり、これからは情緒の時代に移ると言われています。

--時代をITに動かしたのは何が大きいと見ていますか。

 インターネットですね。西暦をキリストの前後としてBCとACで表現するように、インターネットの登場は歴史が始まるくらいのインパクトがありました。1995年をインターネット元年とするなら、今はAI(After Internet)24年です。生活レベルで大きく変えたものにスマートフォンがありますが、根源はインターネットにあると思います。行動様式も組織も変わりました。

 日本ではインターネット以前の成功体験を引きずった会社が多くあります。かつての成功は敬意をもって称えるべきですが、成功体験を引きずれば死んでしまいます。

 実際「unlearn(知識や習慣を捨て去る)」はとても難しい。成功した人や企業にとってはなおさらです。今は「時代が変わるから、自分も変わらなければならない」という漠然としたプレッシャーはあっても、どこを変えてどこを残したらいいのか、その境界線が分からなくて戸惑っているのだと思います。「不易流行」ですね。

--クレディセゾンで新しいアウトプットを生み出すまでの経緯など、差し支えない範囲で教えていただけますか?

 クレディセゾンの経営理念に「サービス先端企業」ということがあります。新しいことや斬新なことをやるのは、もともとセゾングループが持つDNAです。かつて堤清二さんが渋谷で西武百貨店を成功させたり、新しい美術館を作ったりしたように、クレディセゾンも「永久不滅ポイント」や新しいものを発明して、自社の強みとして打ち出していくことを続けてきました。こうした理念は「変えなくていい」と考えています。

 ただし、ここ数年は新しい動きがやや停滞していました。基幹システムをリニューアルしていたためです。しかし2018年11月に無事にシステムがカットオーバーできて、新しいことを始める環境が整いました。

 外に目を向けると新しい技術も出てきています。ただし、闇雲に新しい技術を使うことはしません。わたしはよく心理学用語の「ハンマーと釘」にたとえて話をします。「人間はハンマー(技術)を持つと、なんでも釘に見えてしまい、叩きたくなる(使いたくなる)」というのです。技術はあくまで手段です。ブロックチェーンも手段なのに、ブロックチェーンを使うことを目的にしてしまうと、技術の不適切利用になります。

 そうした落とし穴に注意しつつ、セゾングループが持つDNAを消すことなく、新しい時代に合う顧客体験の提案、スマホの時代にカード会社がやるべきことは何かを考えています。

 そのために、前述したしたように自社開発ができるエンジニアリングチーム(テクノロジーセンター)を作りました。良いアイデアが生まれたとしても、それを実際に開発する場所が離れていては、うまくいきません。様々な部署や外注先などが間に入ることで誤解も生じるし、実現スピードも遅くなります。「実際にやってみて反応がよくない場合には、すぐに変更する」ということを丁寧かつ高頻度でやる必要もあります。企画、エンジニアリング、デザイン、マーケティングの担当者が緊密に連携して、スマホをはじめとするデジタル時代に前提となっている技術を使いこなしたサービス企画を行っていきます。

--新しい技術の話が出ましたが、小野さん自身が重要視しているものは?

 やはりクラウドですね。自社開発する理由とクラウドを使う理由はとても似ています。要件定義して外に丸投げするというやり方だと、変化に対するキャパシティを持てません。また事前にサイジングするのも難しい。クラウドなら、うまくいかなければインスタンスを落とし、うまくいけばスケールさせることができます。予測不可能性に対してアジリティは重要で、成功の確度を高めるにはクラウドが必要になります。

--新しい取り組みを通じて、新旧異なるカルチャーが混ざり、変化や課題はありましたか?

 セゾン情報システムズでバイモーダル※1への転換を経験し、うまくいったと感じています。クラウドがあればバイモーダルに変われるというわけではありませんが、クラウドはトランスフォーメーションを進めるうえで、スキルトランスファーの入口として相性がいいと感じています。

 クラウドでは「リフト&シフト」の2段階で進めていきます。既存システムをクラウドにリフトする段階ではモード1のスキルがとても役立ちます。死活監視はどうか、待機系はどうかなどです。

 例えばインターネットへの接続が禁止されているデータセンターに勤務していて“ググる”ことすらできないエンジニアにとって、クラウドは想像できない脅威の世界です。しかしクラウドでインスタンスを立ち上げるといったことを実践すると、「こんなに簡単にできた」と自信を持ち、次第にクラウド・ネイティブなサービスも試すようになり、いつの間にか心がクラウドの住人になっていくのです。

※1 バイモーダル:安全性・正確性などを重視するSoR(モード1)と、俊敏性・スピードなどを重視するSoE(モード2)。バイモーダルは、システムごとに2つのモードを使い分け開発・管理するという考え方。調査会社ガートナー社が提唱。

--クレディセゾンにおけるクラウドへのリフト&シフトはどのように行っていますか?

 わたしが直接担当しているエンジニアリングチームはクラウドファーストやオールクラウドで考えて、顧客体験向上のための新しいサービスをクラウド・ネイティブで開発しています。また、2-3年前につくったDMP(Data Management Platform)もクラウドを利用しています。

 ただ、既存のカード部門と関係するところや基幹システムのミッションクリティカルなところはクラウドにはできませんのでAPI連携して、ハイブリッド・クラウドで利用しています。また、基幹システムのサブシステム的なものに関しては更改のタイミングで、クラウドファーストで検討し、可能なものから段階的にハイブリッド・クラウドへと移行しています。

--クラウドのように新しい技術を駆使するなかで、コンプライアンスやセキュリティ周辺で問題は起きませんでしたか?

 コンプライアンス、ガバナンス、セキュリティチェック、第三者アセスメント。これらはクラウドだろうとオンプレだろうと、やらなくてはいけないので変わるものではないと思っています。セキュリティは譲ってはいけないところですが、近年ではクラウド技術は妥協しなくてもいいレベルにまで高まっています。

 仮にDMPを使うマーケティング部門が「もっとデータを使いたい」と権限緩和を申し入れてきたとしても、それで情報流出や事故が起きたら、それこそ問題になります。モード2に行き過ぎてはいけないのです。コンプライアンスに関しては、クラウドだから少し厳しめにしないといけないというのはありますが、緩めることはありません。

 コンプライアンスは人間の免疫系に似ています。異質なものや外敵が来たら排除しようとするのは、身体や組織を安全に保つためには当然あるべきメカニズムです。しかし過敏にアレルギー反応を起こすのはコミュニケーション不足、説明能力不足です。

--モード1と2の両端を知り、本質の理解が必要ですね

 ベンチャーのなかでも葛藤はあるでしょう。新しい技術を取り入れていても、5年くらいすると古いシステムに感じられます。そこに新しいメンバーが「ベンチャーなのに、こんなに古い技術を使うなんて」と批判することがあります。毎年フレームワークを変えたら、エンジニアの満足度は高まるかもしれませんが、顧客体験を損ねてしまうことにもなりかねません。

 必要なのは、何を大事にして、価値の重きを置くかです。金融業界であれば、事故を起こさないことを守りつつ、なおかつみんながワクワクすること考えることです。新しい技術を使うことが目的になってはいけません。

--基本的なこと、本質的なことを間違えないようにするためのポイントを教えてください。

 CX(カスタマーエクスペリエンス)、DX、EX(従業員エクスペリエンス)で考えることです。例えばブロックチェーンを導入したとして、それがお客様のためではなく、エンジニアの自己満足になるとしたら本末転倒です。

 技術から着想して発展するようなものは研究開発でやればよくて、事業でやることではないと思います。エンドユーザーに視点を置き、どのような価値を提供するかを考えることが大事だと思います。

--クラウドに寄せる期待を聞かせてください。

 事業会社としては、提供される技術やサービスを必要に応じて取捨選択する立場ですので、特にこれといって実現してもらいたいものはありません。「普通にこれからも進化を続けてください。よろしく」といった感じです。

 クラウドベンダーには「これ誰が使うの?」というくらい、やんちゃなものを出してもらいたいなと思います。マーケットに媚びず、ソートリーダーシップ的なものも出してほしいですね。

--本日はありがとうございました。

提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
[PR]企画・制作 朝日インタラクティブ株式会社 営業部  掲載内容有効期限:2019年12月31日
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