日本IBM 執行役員 渡邉氏インタビュー

現在、多くの企業においてITに求められる役割が、「守り」のコスト削減から「攻め」のビジネス貢献へとシフトしつつある。こうした中、ビジネスの成長を支えるIT基盤の理想像として、IBMは「Enterprise Hybrid IT」という新たなビジョンを提唱している。このEnterprise Hybrid ITが意味するものとは何か、日本IBM 執行役員の渡邉 宗行氏にお話を伺った。
――IBMが新たなビジョン「Enterprise Hybrid IT」を提示するに至った背景についてご説明ください

日本IBM
グローバル・テクノロジー・サービス事業本部
サービスライン
執行役員
渡邉 宗行氏
渡邉氏:昔は企業のITと言うと、主に基幹系システムを中心とする業務システムを示していましたが、昨今はITの範囲が拡大し、あらゆる企業活動にITが関係しています。さらに、XaaSから始まるクラウド・サービスやモバイル・デバイスの普及を受けて、エンドユーザー部門主導で導入される"Shadow IT"の割合が増えてきました。利用者からすると、ITがより手軽でより身近になってきたわけですが、それを支える裏側ではさまざまな部分でほころびが出てきています。例えば、社外のITサービスの利用が増えた結果、ネットワーク帯域は不足し、セキュリティーは担保できないといった問題が生じており、企業活動の存続にも影響を与えかねない問題につながる可能性もあります。またこれらの新たな技術の普及により、データの爆発的な増加と負荷の集中が進み、負荷のピークに合わせて柔軟に対応する手法は不可能になりつつあります。そうした課題を解決するには、しっかりした戦略的な統制の下で従来型のITシステムを堅持しつつ、新たなITも柔軟に取り入れることができるIT基盤が必要になるわけですが、それを示したビジョンが「Enterprise Hybrid IT」です。
――Enterprise Hybrid ITが示す理想的なIT基盤は、どのような要素で構成されるのでしょうか

Enterprise Hybrid ITを構成するSystems of Recorde、Systems of Engagement、Systems of Insight
渡邉氏:Enterprise Hybrid ITは、「Systems of Record(SoR)」、「Systems of Engagement(SoE)」、「Systems of Insight(SoI)」の3つの円で表される3種類のシステムで構成されます。SoRは、レコード処理型のITシステム、すなわち基幹系システムなどの定型的な業務プロセスを扱うシステムです。一方、SoEとは、モバイル、アナリティクス、ソーシャルなど、新たな技術を取り入れつつ、ビジネス環境や顧客ニースの変化に応じてアジャイル型で作られるシステムで、新規ビジネスの創出や顧客との関係強化などを主な目的とするシステムです。そして、SoIは、SoRとSoEの双方から得られるざまざまな定型/非定型のデータを分析して、新たな洞察を生み出すシステムです。SoIで得られた洞察をSoRやSoEにフィードバックすることで、業務プロセスの最適化や新たなビジネスに活かすという、継続的な企業の成長が可能になるのです。
ただし、Enterprise Hybrid ITに求められる要件は非常に高度で複雑です。まず、基幹系システムで求められる堅牢性と、ビジネスのスピード展開に求められる柔軟性を満たす必要があります。また、スマートフォンから決済の承認などを行えるにようにするには、インターネット経由で業務システムにアクセスできる必要がある。つまり、セキュアでありながらオープンである必要があります。さらに、たとえば国際企業でもIT基盤の集約が進められていますが、同時に従業員の生産性を高めるためには、ポータル画面等で一人ひとりの従業員にその人に関係する情報だけを個々の言語や利用環境に応じて見やすく提示する仕組みも必要です。グローバルでありながらパーソナルである必要もあるわけです。
――Enterprise Hybrid ITはどのようにしたら実現できるのでしょう。また、IBMはEnterprise Hybrid ITを実現のためにどのようなサービスを提供しているのでしょうか

Enterprise Hybrid ITを支える6つのIT基盤実装技術
渡邉氏:Enterprise Hybrid ITは、企業のITインフラのあるべき姿を示したものですから、「この製品を導入すればすぐ手に入る」というものではありません。そこでIBMでは、Enterprise Hybrid ITを実現するIT基盤として、6つの領域の実装技術をご提供しています。
まず「システムズ・サービス」は、サーバーやストレージなどのインフラを構築する技術です。ここには「IBM z13」のようなエンタープライズ・サーバーも含まれますし、プライベート・クラウド構築技術やパブリック・クラウドと連携するためのハイブリッド・クラウド技術も含まれます。新規事業の立ち上げでは、パブリック・クラウドで迅速に構築して軌道に乗ったらオンプレミスのプラベート・クラウドに移す、といったことが行われますが、そうしたノウハウも提供しています。IBMでは、このハイブリッド・クラウド技術を非常に重視しており、OpenStackの開発に参画して得られた知見なども蓄積しています。
次に「モビリティー・サービス」には、アプリケーションのモバイル対応技術やモバイル・デバイス・マネジメントなどが含まれます。
また、「クラウド」の領域では主にパブリック・クラウドの「IBM SoftLayer」を始め、各種のPaaS、SaaSのサービスを提供しています。
「レジリエンシー・サービス」は、事業継続を担保するための技術領域で、IBMではデータセンター全体を完全二重化するような大規模なものから、メールだけは止めたくないといった局所的な要望に適したクラウド型の事業継続システムも提供しています。
「ネットワーキング・サービス」はネットワークの構成技術ですが、従来型のネットワーク機器のインテリジェンスでは、クラウドなどで複雑化したネットワーク要件に対応できなくなっており、SDNの普及が本格化してきています。IBMはOpenFlowの開発に積極的に参加しており、SDNを主導するベンダーの1つになっています。
最後の「セキュリティー」では、ID管理やネットワーク・セキュリティー、データ・セキュリティーなど広範囲なセキュリティー分野を扱っており、ますます高度化するサイバー攻撃に対応するため、365日24時間対応の監視サービスなども提供しています。
重要なのは、これら6つの技術領域は独立したものではなく、それぞれが密接に関連していることです。例えば、ネットワークは、ITトピックとしてはクラウドやモバイルの影に隠れがちですが、IT基盤の土台を支える最も重要な技術であり、ここの技術的バックボーンがしっかりしていないと他の領域にも影響が出てきてしまいます。また、モバイルからの接続はインターネット経由になるので、アプリケーションはクラウド上に置いたほうが効率がよい場合もあります。モバイルとクラウドにも強い関係があるわけです。
IBMには、これらすべての領域において、技術開発だけでなく、長年コンサルティング、インテグレーションと通じてお客様のサポートを通じて培ってきた知見が蓄積されています。現在のIT課題を解決するだけでなく、ビジネスの成長に貢献できるIT基盤について末永くつきあえるパートナーとして、まずはIBMにご相談いただければ幸いです。