Conference X in 広島 2022レポート DXの現在地を地方の視点を交えて考察、
見えてきたさまざまな可能性

 デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するINDUSTRIAL-Xが企画したカンファレンス「Conference X in 広島2022 ~デジタルや新技術の“活用(Utilization)~」が4月27日に広島市で開催された。

 カンファレンスは4つのセッションに分かれ、デジタルや新技術を活用して実績を上げている中国地方を中心とした企業が登壇。地域性と最新のデジタル技術を組み合わせたDX事例が紹介されている。先進諸国や大企業の最新事例を知るとともに、地方の事例を交えながら、デジタルをどのように活用するべきかを考える機会になった。

この記事では、各セッションのポイントを紹介する。

セッション1ビジネスを変革するデジタルや新技術活用

 セッション1は「Utilization for Business 〜ビジネスを変革するデジタルや新技術活用〜」をテーマに、「実現したい未来を考えると必然的に“変化すること”を選ぶ。業界は違っても、本質には通ずるものがある」とのメッセージが提示された。

バイタルリード・森山氏:タクシーやバスなどの地方の公共交通が成立しなくなっている。持続可能な形で何とかするにはタクシー会社に活躍してもらう方法を考えた。定額乗り合いタクシー1台で無駄なく運航できる時間とコースをAIに作らせる方法を採っている。

  • 森山 昌幸氏(株式会社バイタルリード 代表取締役)
  • 藤原 加奈氏(株式会社フジワラテクノアート 代表取締役副社長)
  • 山本 憲吾氏(株式会社山本金属製作所 代表取締役社長)
  • モデレータ・八子 知礼氏(株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役)

バイタルリード・森山氏:タクシーやバスなどの地方の公共交通が成立しなくなっている。持続可能な形で何とかするにはタクシー会社に活躍してもらう方法を考えた。定額乗り合いタクシー1台で無駄なく運航できる時間とコースをAIに作らせる方法を採っている。

フジワラテクノアート・藤原氏:醸造機械メーカーであり、主要製品である「麹造りを自動化した装置」は国内トップシェアとなったが、更なる高みを目指すため、「微生物インダストリーの共創」というビジョンを掲げた。その実現のための1つとして、製麹条件をAIに判断させるシステムを開発した。

山本金属製作所・山本氏:従来の賃加工から脱却するために、ほかの会社が断るような難しい加工を引き受けられるようになろうと思った。そこで自分の目ですべてを見てみようと思ったのがきっかけで、IoTを活用した機械加工のトータル支援サービスにつながった。

その技術やビジネスから得られた効果は?

バイタルリード・森山氏:タクシーの顧客獲得にかかるコストと収益のバランスが改善した。80歳代以上の顧客が最も多いが、外出回数を増加させたことがわかっている。メインの理由は、これまでの外出の目的のほとんどを占める「通院、買い物」から、 「外食や温泉」など楽しみのための外出増加だった。

フジワラテクノアート・藤原氏:「微生物インダストリー」になろうとする過程でDXに取り組むことによって、自発的に発想して動けるようになってきた。これまでいなかった人材が育成できた。

山本金属製作所・山本氏:大きく分けて3つある。1つ目は企業価値の向上したこと、2つ目は業界における自分たちのポジションが変わったこと、3つめは社員のモチベーションが劇的に変わったこと。

技術/ビジネスに感じている可能性や今後の挑戦

山本金属製作所・山本氏:3Dモデルによるシミュレーションを実機で実行させ、製造ラインのデータを自動収集し、微調整をしていくという工程ごとのデータがつながっていく仕組みを作る。このデータをお客さまの役に立てる形にしていく。(デジタルツインの実現)

フジワラテクノアート・藤原氏:2050年の微生物インダストリーのビジョンを実現していくということをぶれずにやっていきたい。このビジョンを発信することで、醸造業界のみならずビジネスの幅を広げていきたい。

バイタルリード・森山氏:日本全国に同じような地域はたくさんあるので、タクシー会社が地域に残るとともに、健康寿命増進という観点も踏まえた地域の皆さまの利便性を確保することを広げていきたい。将来的に自動運転になっても、1台の車をどう効率的に回すかというところで発展・展開していきたい。

オーディエンスへのメッセージ

フジワラテクノアート・藤原氏:DXで何を実現していくかということを経営陣と従業員が同じ思いでいることが大事だと考える。

バイタルリード・森山氏:DXありきではなく、その時、その場所でどうしたら人がハッピーになれるのか、最適解を見つけることが必要である。

山本金属製作所・山本氏:結局モノ作りは「人」。デジタルという道具をいかに上手に使うのか、データをどう解釈して活かせるかを考えるのは人である。モノ作りは人づくりだと感じている。

セッション2デジタルを活用した業務モデルのスマート化

 セッション2は「Utilization for Workstyle 〜デジタルを活用した業務モデルのスマート化〜」がテーマ。「生き残るために今変革が求められている。変化に対応し打ち勝つべく挑戦する。完璧な成功事例ではなくリアルな取り組み事例」が全体のメッセージとなっている。

  • 横山 巧 氏(株式会社総社カイタックファクトリー 取締役 工場長)
  • 桑原 弘明 氏(東洋電装株式会社 代表取締役)
  • 仮井 康裕 氏(広島電鉄株式会社 専務取締役)
  • モデレータ・石原 亮子 氏(株式会社Surpass 代表取締役CEO)

自社におけるワークモデルの課題

広島電鉄・仮井氏:バスや電車は、運行管理者による乗務員の健康チェックを行う必要があるが、始発から最終便までとなると運行管理者の長時間労働が発生する。この改善が課題であり、乗務員の点呼業務を遠隔診療のように離れたところからできないかと取り組んでいる。

東洋電装・桑原氏:われわれは制御盤を作っているが、100%近くカスタム品となる。カスタム品の製造は職人任せになる場合が多く、タコつぼ化しがちな点が課題だ。

総社カイタックファクトリー・横山氏:当社には高価格帯と低価格帯の商品があるが、コロナ禍で低価格帯商品の売り上げが伸び、高価格帯商品の売り上げが低迷した。この割合の変化で収益力が低下したため、生産性を上げる必要に迫られ、DX化が課題となってきている。

デジタルで働き方はどう変わったか

広島電鉄・仮井氏:先ほどの運行管理は以前と同じことを何の疑問も持たずに、ずっとやってきた。今、コロナ禍で運行回数は落ちている。どうやって公共交通機関を維持していくか考えたときに、われわれはバックヤードをDX化して働き方を改革しようと考えた。

総社カイタックファクトリー・横山氏:作業の動画を撮影し、それをもとに分析するシステムを導入した。これまでの管理者の思いや経験者の勘による目標の立て方は現実と乖離(かいり)していることが多く、チェックとアクションができていなかった面があったため、全工程における動画からデジタル作業分析システムで必達目標を立て、工程の改善を進めた。

東洋電装・桑原氏:カイタックさんと似ているが、動画による作業動作の分析によって無駄の削減を進めた。職人が工具を取りに行くとか、ごみを捨てに行くなどの単純な動作が無駄になっており、これらを改善することで35.6%の無駄を削減できた。

デジタル導入のリアルな裏話

広島電鉄・仮井氏:古い管理者などは、今までやってきたこととやり方が変わるので、デジタルツールを渡されても困難なところがある。DXをうまくやるには、デジタル的なところは若い人にやってもらって、乗務員とのコミュニケーションや車の整備などは熟練の人に任せるなどの分担が必要になってくる。

総社カイタックファクトリー・横山氏:当社では、動画による分析システムから、タブレットによる動画マニュアルを作ってどのようにすればよいか作業方法を可視化した。40代~50代女性従業員はスマホやタブレットに抵抗がないので受け入れやすかった。事実をもとにした標準手順であれば必達目標を伝えやすく、また達成しやすい。

東洋電装・桑原氏:製造現場では紙の図面を使って製造していたのが、今ではほとんどタブレットになった。導入前は反発や離職を予想していたが、導入してみると結果は正反対だった。タブレットの性能もあると思うが、今ではほとんど紙の図面を見ることはなくなっている。

今後の展望

広島電鉄・仮井氏:これから(公共交通は)業界自体の構造も変わってくることが考えられる。(このカンファレンスをお聞きの皆さまからも)ぜひ、いろんな新しい提案をいただきたい。まだ私たちの気づいてないところで変えられるところがあれば変えていきたい。

東洋電装・桑原氏:「マスカスタマイゼーション」に本気で取り組もうと思っている。職人の熱意だけで物を作っている状態から、ロボットとエキスパートスタッフでデジタルツインを実現するところまで行きたい。

総社カイタックファクトリー・横山氏:桑原さんからマスカスタマイゼーションに取り組むという話があったが、アパレル業界も同じことがいえる。大量生産、大量廃棄は持続可能ではないので、工場がデジタル化に取り組み、持続可能な産業になるように変えていかなければならない。

セッション3データを徹底的に使いこなす

 セッション3のテーマは「(対談):Utilization of the Data 〜データを徹底的に使いこなす〜」。メッセージは「デジタルはあくまで手段 では何のために使いこなすのか? ぶれない目的を持ち、今を常に“俯瞰(ふかん)”せよ」である。

  • 桜井 一宏 氏(旭酒造株式会社 代表取締役社長)
  • 西郷 彰 氏(全日本空輸株式会社(ANA) デジタル変革室 イノベーション推進部 担当部長)

航空会社におけるデータ活用

旭酒造・桜井氏:航空会社はどのようなデータ活用をしているのか。自分たちが空港でサービスを受けていてわかるが、一人一人のことをまるで全員のスタッフが覚えているようなサービスはどうやって実現しているのか。

ANA・西郷氏:お客さま情報基盤(CX基盤)を持っていて、APIによるほかのデジタルプラットフォームとの連携が行われている。桜井社長の場合はよく飛行機を利用するので、過去の利用状況、そのときどんなことが起こったかもわかっており、気の利いたホスピタリティあふれるサービスができるしくみだ。

旭酒造・桜井氏:しかし、私を理解して入力する人がいるのだとすると大変だし、このデータを使う側も大変なのではないか。

ANA・西郷氏:単にデータベースから検索しているだけではなくて、データがあるからこそそのデータを使って、従業員一人一人が工夫するみたいなところにだんだんと昇華していっているのではないかと思っていて、これもDXの一つではないかと思っている。

旭酒造・桜井氏:私たちのお酒造りもデータを使うが、データを見るのはやはり人。データを使うが、同じものを同じように造るためのものではない。今のお話を聞いてやはりそうだなあと思った。

ANA・西郷氏:デジタルリテラシーが上がってくるとデータの活用能力も上がってくると思うので、活用するための基盤はANAの中でだんだん揃ってきている。(コロナ禍で業績不振に陥る中で、デジタルを活用したお客さま満足向上や、従業員の生産性向上を図っている点を説明)

人材育成でも、現場を知っている若い人材がDX部門で勉強をし、アジャイル開発に参加するようにしており、データ・デジタル人材の育成に力を入れている。能力が身についてできることが増えるのは楽しいことだと受け止められているようだ。

お酒造りにデータを活用する、その真意は

旭酒造・桜井氏:製造業がデータを使うということは、オートメーション化のように思われることが多いが、そうではないことを説明したい。われわれは日本で一番製造にかかわる人が多い酒蔵(22年4月現在で150人)。普通オートメーション化された工場は人が減っていくが、当社は逆である。

 人が多いのはデータのおかげだと思っている。おいしい酒を造るためにデータを使おうと取り組んでいるので、生産効率ではなく、品質向上にデータを使っている。

 杜氏の勘や経験を全部データ化して見えるようにしている。酒造りのひとつひとつの作業と品質の相関関係がよくわかるようになっている。そうなると手が抜けなくなってくる。

 しかし、データによってもたらされる情報だけで造っているのではなく、直接目で見て、匂いを嗅がないと、目をつぶって歩いているようなもの。品質の追及にはデータと人間の五感の両方が必要だ。

データによってもたらされる可能性 今後期待される進化・イノベーション

旭酒造・桜井氏:獺祭と大手の酒蔵の違いは、タンクの大きさに象徴される生産効率。大手は大きなタンクで効率よく大量に生産するが、私たちは小さなタンクをたくさん所有しながら生産している。

300本のタンクを使って仕込むが、毎回味見して何が悪かったのか調べて、その日から改善するようにしている。そうすると仕込みの回数は1年で3000回に及び、さまざまなテストを繰り返せるため、高速PDCA、ある意味でアジャイル開発のようにできている。

ANA・西郷氏:酒造りでデータ活用しているという話を聞いて、オートメーション化された大量生産を連想したが、やっていることはまさにアジャイル開発だ。

旭酒造・桜井氏:父の時代に杜氏がスピンアウトしてしまって、自分たちで作らなければならない事態が発展して今の形態になった。

ANA・西郷氏:私は人材開発でアジャイル開発も教えているが、最初の小さな開発が増えていく過程は全くアジャイル開発と同じである。

旭酒造・桜井氏:小さな蔵でお客さんの反応・売れ行きを見ながらプロトタイプを作っていくことができたのが大きかったと思う。

ANA・西郷氏:(獺祭の酒造りは)「顧客の声を聴きながらリーン思考でアジャイル開発をする。」ということになると思う。

旭酒造・桜井氏:この方法だと、小規模な試みをたくさん実行して高速で修正していくので、失敗も怖くない。新しい試みもできる。

ANA・西郷氏:実は、ANAのアプリもアジャイル開発で作られている。小さい機能をリリースしてお客さんの受けが良ければ取り入れて、悪ければ取り止めるようにしている。アジャイルで人材が育ってきたらどのように活用を考えているか。

旭酒造・桜井氏:米国に酒蔵を建設中だが、米国の条件で酒を造るためのデータを集めて日本と共有できれば、すごいことができる。

ANA・西郷氏:まさに進化、レボリューションだと言える。

セッション4新技術導入をためらう人に贈る金言

セッション4のテーマは「First-step for Utilization 〜新技術導入をためらう人に贈る金言〜」。メッセージは「活用に踏み切れないあなたに、変革を突き動かすのは熱い思いと巻き込む力。あなたの中に熱を見つけられたなら、次はどうする」だった。

  • 板倉 一智 氏(株式会社ウーオ代表取締役)
  • 石原 洋介 氏(株式会社PHONE APPLI 代表取締役社長)
  • モデレータ・友岡 賢二 氏(CIO Lounge)

会社、取り組みの紹介とその背景

ウーオ・板倉氏:どうにか水産業を再生できないかと起業した。これまでの魚の流通をデジタル化して、情報の非対称性を解消し、産地消費地ともに新たな流通を実現する水産流通プラットフォーム『UUUOウーオ』を開発している。

PHONE APPLI・石原氏:「働く」を変える。「生きかた」が変わる。をキャッチフレーズとしてPHONE APPLIという会社をやっている。持続的な成長には社員の“WELL-BEING”そのためのビジネスモデル転換が必要。山口県萩市の萩明倫館にアプリケーションを作る開発センターをオープン。地元の高校生を新卒で採用してエンジニアに育成、現地で活躍させている。

取り組みにおいてぶち当たった壁と乗り越え方

CIO Lounge・友岡氏:エンジニアは即戦力。ほとんどの企業が中途採用。石原さんは真逆の作戦をとっているが、なぜか。

PHONE APPLI・石原氏:東京に一極集中していること自体が大きなリスク。これを分散させようと海外に出てみたがうまくいかなかった。PaaS(Platform as a Service)に絞れたところが成功のポイントだった。

CIO Lounge・友岡氏:今のシステムはビジネス寄りでサーバーを立てなくてもよいので、勉強する量も少なくて済む。

PHONE APPLI・石原氏:しかもこれを萩でやるので、よかった。やろうと思っているよ、というのを話すと人が助けてくれた。ITの環境が整ってきたということもある。先生の存在も重要。高卒を育成する人を見つけられたのも重要。テレビ会議も多用しているが、熱意と領域を絞るのがポイントだ。

CIO Lounge・友岡氏:大切な価値観とは?

PHONE APPLI・石原氏:幸せに働けるということ。常に成長が感じられるということ。成長が感じられない仕事はつまらない。給与面もそうだ。萩では東京と同じ給与を支給している。自分の価値や成長がITだと給与に反映されやすい。これが自信にもなっている。

ウーオ・板倉氏:いきなりアプリで鮮魚を売りませんか、では反発も強かった。彼らに合わせたコミュニケーションから始めた。まずLINEで情報交換から始めて、みんなが簡単に操作できるものを見せるところから始めた。

PHONE APPLI・石原氏:サブスクの商売に切り替えると当初は資金繰りが大変になった。初期ユーザーの数を確保して解約させないことに注力した。常に満足してもらうにはお客さんの満足度を計測する方法を持っているかが大事。あと将来必ず良くなるという“思想”をお客さんに理解してもらうことが大事だと思う。

ウーオ・板倉氏:大きなプロジェクトをやるのは大変。何もないところから始めるには、最小限の検証にとどめるのが大事だ。小さくトライアルを回してここまでこられたようなところがある。

今後見据える可能性や挑戦

ウーオ・板倉氏:挑戦はずっと続く。ゴールはない。自分たちは水産業にとって、なくてはならない会社になりたい。それには何が足りないのかを追求したい。しっかりユーザーの声に応えていく。

PHONE APPLI・石原氏:萩のセンターを50人くらいに伸ばして「産業」と呼ばれるようになりたい。住む地域に関わらず、社員の幸せと生産性向上を両立させるWELL-BEING経営を広めたい。

CIO Lounge・友岡氏:印象に残ったのは「何のために」というのがしっかりしているところ。「思想」という言葉が出てきたが、ものすごく重要だ。思想に共感してもらえて初めて課金につながる。これはたやすくはないと考えている。

 前回広島開催の際はオンラインでの実施となったが、ようやく現地での開催となった今回、オンラインはもちろん現地の熱量は凄まじいものだった。ぜひ次回の広島開催にご期待いただきたい。

提供:株式会社INDUSTRIAL-X
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