災害対策のアップデートが求められる国内のインフラ企業
日本は昔から、多くの災害に見舞われてきた。頻発する地震をはじめ、初夏から秋にかけては豪雨や台風による風水害、冬に雪害が発生するため、それを見越した災害対策も講じられてきた。しかし直近では地球温暖化の問題もあって災害のレベルが一段階上がり、災害対策の見直しが迫られている。
新たな災害対策を考える際には、社会インフラの老朽化問題もセットで検討する必要がある。現在、高度経済成長期に集中的に整備されてきた社会インフラ設備が一斉に耐用期限を迎えつつあり、補修・再整備が急務となっているが、人的リソースの不足もあり対応が追い付いていないのが実情だ。このまま応急措置的な対応に終始していては、国が掲げるスマート社会の実現に向けた基盤の整備も進まず、何より次の世代に大きな負債を残すことになる。そうならないようにするためには、災害対策と社会インフラの整備を併せて効率的に実施できる仕組みを、今から計画的に作り上げていく必要がある。
そこで現在、次世代型のGISを中心とした新たなインフラ管理というDXのアプローチが注目されている。GISに設計から保守までの一連のライフサイクルを通じた情報を集約し、デジタル地図上に様々な情報を重ねて表示させることで、情報・ナレッジの共有や業務の効率化、災害対策の高度化を実現する。それにより、インフラやネットワーク設備の導入・運用に関するコスト面での抑制効果も見込める。
この際のポイントは、“次世代型”という部分である。GIS自体は、2000年前後からインフラ構築や災害対策を目的として各インフラ企業や公共機関等で導入・運用されてきたが、当時はインターネットがまだ新しく、スマホもGoogleマップもクラウドもなかった時代である。当時のGISは、どうしても古く、多くの企業や従業員が求めている現代的な問題を解決できずにいる。設計思想や使われているアーキテクチャーが古く、モバイルにも対応していない。また、組織や利用目的に応じてスクラッチで構築されているためにシステムの改修も難しく、データの互換性もない。そのため、多くのシステムがサイロ化してしまっている。
また、システムを利用する際にも専門知識が必要とされるため、GISはあくまで社内にて限られた部署の担当者が使うものという位置付けにとどまっている。日々の業務でも、災害対応業務でも、現場作業員が、中央から作業指示書や、地図台帳や、GISから印刷した紙の地図や模式図等々を受け取って現場に赴き、さらに自らの経験をすり合わせつつ行われているケースがいまだ多いのが実情である。
通信事業者/公益事業特化のDXプラットフォーム「IQGeo Platform」の凄さ
このような旧態依然としたシステムとプロセスが、インフラ企業のフィールド業務や災害対策におけるボトルネックになっていると、次世代型GISプラットフォームの「IQGeo Platform」を提供するIQGeo Japan ジェネラル・マネージャー 鈴木千尋氏は指摘する。

IQGeo Japan株式会社
ジェネラル・マネージャー
鈴木千尋氏
「従来のGISは、設計部門を主なターゲットとした専門家向けのシステムであり、現場はまだ紙とテキストで動いています。労働人口の減少が加速する中で、通信・インフラ業界では従来のレガシーシステムを刷新し、業務の効率化と働き方改革を進めていく必要があります」(鈴木氏)
IQGeoは、インフラ向けGIS事業と工場向けのリアルタイム位置情報システム(RTLS)を開発していた英国ユビセンス社が、RTLS事業を分社化してGIS事業に専念するために、2018年に発足した新興IT企業である。その後、中小の通信事業者向けにGIS SaaS事業を行うOSPinsight社や通信網の自動設計エンジンを持つComsof社を買収し、ソリューションポートフォリオを拡大。先日も、機材の現場写真を撮って施工品質を判定するDeepomatic社の買収計画を発表するなど、M&Aと自社開発で製品のイノベーションを進め、エンタープライズからSMBまでを幅広くカバーする体制を構築している。グローバルで500組織以上の通信関連企業や公益事業者での導入実績を誇り、日本でも現在、通信・電力・公共インフラ領域でシェアを伸ばしている。
「主要プロダクトのIQGeo Platformは、GISの民主化を実現するソリューションです。インフラ企業内の既存の設備GISデータの上に、Google Mapなどの地図サービスやWebで公開されているオープンデータ、社内の基幹システム内のデータや現場で発生するセンシングデータ、監視システムのデータ等を統合します。社内や現場でそれぞれ業務を担当するユーザーすべてが、各々の業務でGISを活用できるようになります。モバイルファーストを謳ってUI/UXが開発されており、利用にあたっては、スマートフォンとGoogle Mapを扱えれば誰でも使える操作性を備えています。情報が直感的な地図として可視化されるため、各人がすぐに必要なアクションを取ることができます。IQGeoでGISデータを更新することにより、各事業者はネットワークや電線網、上下水道網等の一連のデザイン、敷設(施設)工事、点検、保守・運用のライフサイクル管理ができるようになり、災害対応時の業務も効率化できます」(鈴木氏)
IQGeoには、Platformに追加できる各業種向けのアプリケーション製品群が用意されている。例えば通信事業者向けには、構造物、機材やネットワーク論理構成を含む設備データモデルのテンプレートが準備されており、そこにデータを取り込むことで、特定設備に関連したネットワーク経路の構成要素やネットワーク回路図(スケマティック図)、さらに工事時や被災時の影響範囲を画面上でドリルダウンして確認できるようになる。その際に、ローコードツールによって、自社に合わせたデータモデルの調整や画面の設計ができ、外部データの取り込みも容易に行えるため、早期の導入・展開が可能となっている。
「現場技術者はモバイル端末で電子的な作業指示を開いて工事や点検対象の設備を確認し、一方で、地図でその場所を見て、適宜周辺の設備も調べたり、その地点に到達するためのナビゲーションもできます。作業報告もモバイル上で完結することが可能であり、直行、直帰など働き方改革の一助にもなり得ます。必要な一連の情報がアプリケーションにあり、ペーパーレスであるため、業務生産性が向上します。災害や障害発生時にも、『どこの基地局』の『どのネットワーク』の『どのデバイス・設備』が障害を起こしているのかをIQGeo上で把握できるようになり、迅速な対応が可能になります」(鈴木氏)
ユーザー、開発パートナーの双方に大きなメリットをもたらす
IQGeoのシステムを運用する際には、一般的なクラウド環境に乗せることも、セキュリティが担保された閉じたクラウド、更にはオンプレミスの環境に置くこともできる。導入企業は、セキュリティ問題やクラウドベンダーの定期メンテナンスの影響度、スケーラビリティといった要素を踏まえて柔軟に環境を選択することができる。

IQGeo Japan株式会社
テクニカルチームマネージャー
大江弘樹氏
「IQGeoの各システム要素は、全般的にスケールしやすく作られています。それを、コンテナなどAWSの現代の一般的な技術を利用して運用するので、大規模ユーザーでも、スケーラビリティの問題はまず起きません。IT部門も運用が楽になり、ユーザー部門もパフォーマンスやインフラコストを気にせずにシステムを利用することができます。例えば東京電力パワーグリッド様では、1万数千人以上が利用できる環境を構築しています」(IQGeo Japan テクニカルチームマネージャー 大江弘樹氏)
このようにIQGeoはインフラ企業向けのソリューションであるため、利用時には大規模なシステムとなるケースが多い。通信業界のシステム導入を支援するSI会社や既存GISのナレッジを持つSI会社から見ても、インテグレーションやマイグレーションのノウハウを発揮しやすいプロダクトとなっている。
「データ連携は極めて重要であるため、IQGeo製品群では、様々なシステムとの間でデータをやり取りしやすい仕組みを整えています。メジャーな各種業務システムやGIS、OSSとWebAPI等を通じて連携し、それ以外にもパートナー企業が提供する変換ツールによって様々な形式のデータを取り込めるようにもなっています。そのため現在既存のパートナーに加えて、複数の大手SI会社からアプローチが増えている状況です」(大江氏)
災害対策・次世代ネットワーク構築の最先端事例を紹介
IQGeoは、6⽉11⽇に同社の最新動向を紹介するプライベートイベントを開催し、その際に国内で先⾏導⼊をしている東京電⼒パワーグリッド等が災害対策、⽔道事業体がインフラ⽼朽化対策事例を紹介し、通信キャリア事業においては、ITからネットワーク領域まで豊富な実績をもつNEC等がGISを活用した通信キャリア向け次世代システム構築の講演を行う。
「現在注目されているエッジAIやIoT機器、自動運転システムの社会実装は、元々のインフラ網がしっかりとしていないと実現できません。我々のソリューションは大きなシステムの中のあくまで一部ですが、なくてはならないパーツであり、通信キャリアの次世代ネットワークの敷設に役立てると自負しています。実際に海外では、当社のAIで最適なFTTHの敷設ルートやコストを計算し、施設にかかる時間が10分の1になった事例もあります。災害対応についても、対策が進んでいる電力会社の取り組みは通信をはじめ他の業界でも参考になるはずです。支援をするSI会社や国・自治体の政策担当者も含めて、この機会に多くの関係者に我々の取り組みを知っていただきたいと考えています」(鈴木氏)