近年にサービス提供が開始され、企業から注目を集めているのが、マイクロソフトの「Windows 365」である。ただし、この分野では老舗であり多くの実績を持つシトリックスのサービスもある。マイクロソフトとシトリックスは長いパートナーとして知られるが、それぞれのVDIサービスに違いなどはあるのか――この点について日本マイクロソフト パートナー技術統括本部 シニアクラウドソリューションアーキテクトの高添修氏が、シトリックスのイベント「Future of Work Tour 2021 Japan - Digital」で行った講演「これで納得! "Windows 365"と"Citrix Cloud with AVD"の違い~Windows 11はどう絡んでくる?」で明かしてくれた。
日本マイクロソフトは2021年8月から、クラウドサービスとしてWindows 10やWindows 11のデスクトップ環境を利用できる「Windows 365」の提供を開始した。マイクロソフトの調査では、コロナ禍で73%の従業員がリモートワークの選択肢を求め、80%の管理職が柔軟な在宅勤務制度を期待していると分かった。 そんな中、VDIは敷居が高いと思っていた中小企業でも利用しやすいWindows 365の可能性は大きい。
だが同社では、以前からMicrosoft Azureの仮想マシンを利用した「Azure Virtual Desktop(AVD、旧Windows Virtual Desktop)」を提供している。1 つの仮想マシンを複数のユーザーで共有するマルチセッションに対応したWindows 10 Enterpriseを仮想マシンに展開し、Microsoft 365 Apps for enterpriseや業務アプリケーションをリモートから利用可能にするソリューションだ。当然ながらWindows 7 Enterpriseも選択できる。なぜ Windows 365を提供するに至ったのか。
実際のところ、通常のデスクトップ環境、オンプレミスのVDIもしくはクラウドVDI(もしくはDesktop as a Service)など、多様な場所、端末でWindowsが業務に用いられている。そのような状況に対し、働き方の柔軟性の担保、企業のガバナンスや運用コストの最適化、導入障壁の低減を鑑みれば、クラウドからWindowsを提供するというシンプルなサービスがあってもよいわけだ。
Windows 365の概要
「マイクロソフトは、VDIとは違う『クラウドPC』という新たな分類が必要だと考えている」(高添氏)という。これは、CPUやメモリー、ストレージといったコンピュートリソースをクラウドに用意し、場所を問わずに業務遂行を可能にすると同時に、煩雑なVDIの管理要素を減らしたPC環境であり、Windows 365はこのクラウドPCを体現する存在だ。
Windows 365では、ストレージも動作するアプリケーションも、作成したファイルも、そのままクラウドに格納されるため、昨今のようにローカルストレージへのデータ保存を回避する企業の運用ポリシーにも適している。クライアント配信するポリシーもMicrosoft Azureではなく、Microsoft Endpoint Managerに用意しているため、Windows端末の管理に慣れている企業であれば、さほど難しくない。加えて、iOSやAndroidの端末からも操作でき、Azure VPN Gatewayを契約すれば、既存のオンプレミス環境も生かせる。ただし、利用するデバイスによって機能差があるので注意しておいた方が良いだろう。
Windows 365には、シンプルな管理オプションを用意することにより、中小企業で利用可能なWindows 365 Businessと、事前に作成したデバイスイメージを基にクラウドPC環境を作成できるWindows 365 Enterpriseの、2つのエディションが用意されている。例えば、在宅業務でもセキュリティを担保しながら、最小限の要件でクラウド上にWindowsを用意したい企業はWindows 365 Business、Azure Virtual Network経由でオンプレミスの業務システムに閉域網で接続させたり、社内のドメインでポリシー管理をしたりと、社内のPCと同じような運用を求める企業はWindows 365 Enterpriseを選択すればよい。
実は、Windows 365はAzure Virtual Desktopがベースになっているのだが、サービスとしての立ち位置が大きく違う。高添氏は、「例えば働き方の柔軟性を求めつつもVDIに否定的だった企業はWindows 365、もともとVDIが選択肢だという企業はAzure Virtual Desktop」とそれぞれのサービスを紹介している。前者はPCをクラウドから提供するクラウドPCであり、後者は仮想デスクトップや仮想アプリケーションなどオンプレミスVDIのクラウドへの移行と最適化を促す存在だ。
高添氏は、両社の違いを明確にしつつも、最終的に得られる「ファットPCに不具合があってもWindows やOfficeをリモートで使える安心感。いつでも業務を遂行できる安心感。手元の端末の選択方法も柔軟性を帯びていく柔軟性」という共通の利点も認めている。更に、上記のクライアントデバイス毎の機能差を含め、Azure Virtual DesktopやAzure Virtual DesktopがベースになっているWindows 365ではクリアできない細かな要件がある場合に向き合ってほしい選択肢として提案したのがマイクロソフトとシトリックスのパートナーシップだ。
そもそもシトリックスは、OS/2の開発に携わっていた開発者が1989年に創業した企業である。マイクロソフトとは30年以上におよぶ協業関係を結び、Windows NT 3.51をマルチユーザー化したCitrix WinFrame、Windows NT 4.0 Terminal Server Edition への技術供与やICAをアドオンできるMetaFrameを提供してきた。高添氏は、VDIネットワークの柔軟な設計、管理者目線の高度な機能、利用者目線の高度なサービスなど、マイクロソフトからみた Citrix の強みやCitrix とAzure Virtual Desktopを一緒に使うメリットを解説しつつ、国内でも良好な関係を築いていることを強調した。
CitrixソリューションとAVDを組み合わせた運用の利点
最後に高添氏は、Windows 11の有用性についても紹介した。Windows 11は、2021年10月に一般提供を開始した最新のクライアントOSである。Fluent Designに沿って刷新したユーザーインターフェースや、アプリケーションのデスクトップ配置をワンステップで整理するスナップアシスト、音声入力の強化などWindows 10を上回るOSとして開発された。Linux環境をエンドポイントで利用できるWSL(Windows Subsystem for Linux)や今後はAndroidアプリケーションをWindows 11で実行するWSA(Windows Subsystem for Android)の実装も予定している。
今後はWindows 11が主流になっていくはずだが、高添氏によれば、クライアントで利用するアプリケーションをサーバーにインストールし、クライアントへは画面のみ転送するサーバーベースコンピューティング環境においては注意が必要とのことだ。最新サーバーOS Windows Server 2022は、登場のタイミングもありWindows 10ベースのUIのままである。
「Windows 11 Enterpriseマルチセッションを利用可能なAzure Virtual DesktopやCitrix Cloud with AVDと、サーバーベースドコンピューティングでサービス化されたクラウドサービスやオンプレミスのVDIでは、ユーザーインターフェースに違いが出てくるので気を付けてほしい」(高添氏)
既にWindows 365やAzure Virtual Desktopも正式サービス化されており、マルチセッションを含むWindows 11も利用できるようになっている。高添氏は、「選択肢を複数用意することでハイブリッドワークを推進し、一番働きやすい環境で働けるように支援したいと考えている。Windows 11の登場は物事を見直すベストなタイミング。Windows 365、Azure Virtual Desktop、そしてCitrix Cloud with AVDの存在を意識して、ハイブリッドワーク環境を整備してほしい」と述べている。