経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」で、「日本企業のDX対応状況が変わらなければ、2025年には最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」という強い警告が出されてから、既に4年以上が経過している。
この、いわゆる「2025年の崖」の期限が目前に迫りつつある中、多くの企業では、ITインフラのオンプレミスからクラウドへの移行、加えて、基幹業務システムを含めた既存のレガシーシステムの刷新、モダナイゼーションに取り組みたいと考えているのではないだろうか。
オンプレミスのハードウェアライフサイクルから脱却し、現在7割以上が運用保守に費やされているIT予算を、よりビジネス価値の高い競争領域へ投資していくにあたり、クラウド活用を前提とした「クラウドファースト」が不可欠であることは、広く認識されつつある。
その一方で、クラウドで動かすべきシステムが、ビジネスへの影響が甚大なERPとなると、慎重にならざるを得ないというのが、現時点でも本格的にプロジェクトへ着手できていない企業の本音なのではないだろうか。
今回、特にSAPをベースとした製造業向けERPソリューションに強みを持ち、近年では、マイクロソフトのクラウドサービスであるMicrosoft AzureとSAPを組み合わせた「SAP on Azure」を強力に推進している、コベルコシステムの担当者に、近年の企業におけるERPのクラウドへの移行意識や、同社が提供する「SAP on Azure」ソリューションの強みを聞いた。
SAP ERP保守切れへの対応は「避けられない課題」に
コベルコシステムは、神戸製鋼所のIT部門から1983年に分社独立した神鋼コンピュータシステムを母体とするシステムインテグレーターである。神戸製鋼所で大規模システムの開発と運用で培ったノウハウを武器に、広くシステム構築、運用のソリューションを提供している。2002年には日本アイ・ビー・エムの資本参加を受け、ユーザー系SIerとしての「ものづくりと品質へのこだわり」と、グローバルITベンダーであるIBMの「イノベーションのノウハウ」との融合を通じ、製造業を中心とした一般企業に、幅広くソリューションを提供できる点を最大の強みとする。
コベルコシステム株式会社
営業本部 ERP営業部 第2グループ
係長 厚田 卓氏
特に基幹業務システムのSAPについては、製造業の業種別に開発を行った業務テンプレート「HI-KORT」シリーズを展開し、多くの導入、運用実績を誇る。近年では、SAP認定のSAP S/4HANAコンバージョンサービスである「K4C」も提供を開始しており、パートナーとして「SAP Award of Excellence 2022」(Partner Success部門「SAP Services Collaborationアワード」)も受賞するなど、その実績はSAPからも高く評価されている。
同社でSAP関連ビジネスを担当する、営業本部ERP営業部の厚田卓氏は、特に2027年(環境によっては2025年)にサポート期限を迎えるSAP ERP ECC6.0のマイグレーションについて「多くの企業で避けては通れない課題になりつつあり、検討を本格化させる企業は年々増えている」と指摘する。
「Japan SAP Users' Group(JSUG)が会員企業に行った2022年の意識調査*では、既存のSAP ERPから、SAP S/4HANAへの移行について、約55%のユーザーが既に実施済み、あるいは検討を開始していると回答しているが、その一方で、保守切れの期限が迫る中、マイグレーションプロジェクトに二の足を踏んでいるユーザーもまだまだ多いというのが、インテグレーターとしてのわれわれの印象だ」(厚田氏)
※出典:ジャパン SAP ユーザーグループ(JSUG)『JSUG 会員意識調査 2022』2022 年 11 月発行
その理由としては、基幹システムの刷新は影響範囲が広く、極めて大規模になるため、具体的な進め方がイメージできないことや、企業としての経営施策への組み入れや業務の見直しなども合わせて進める必要があるため、上申が難しいといったことなどが挙げられるという。その結果として「他社の動向を見てから取り組みたい」と考える企業が多いのではないかと厚田氏は分析する。
「基幹システムのクラウド移行」に「Azure」を推す理由
SAPマイグレーションが避けられない中、プロジェクトへ着手できていない企業も多いという現状の一方で、次期基幹システムにおいてインフラに“クラウド”を採用することに積極的な企業は明らかに増えているという。
先ほど厚田氏が引用したJSUGの意識調査*では、回答企業の「約87%」が、基幹システムのクラウド移行に「積極的」という結果が出ている。そして、移行先のクラウドとして、現在、急速に存在感を高めているのが「Microsoft Azure」だ。
※出典:ジャパン SAP ユーザーグループ(JSUG)『JSUG 会員意識調査 2022』2022 年 11 月発行
コベルコシステム株式会社
事業統括本部 事業推進部
担当部長 小田 真弓氏
「当社のお客様には、まだオンプレミスを中心としたインフラを構築されるところも多いが、クラウドを採用されるお客様では、その半分以上がAzureを選択している。特にこの2、3年におけるAzureの伸び率は高いと感じている」
そう話すのは、事業統括本部 事業推進部の小田真弓氏だ。
コベルコシステムは、サーバー系Windowsの黎明期から、主に「Exchange Server」や「Dynamics AX」といったプロダクトを中心に、マイクロソフトソリューションを提供していた。特に、2015年以降、マイクロソフトが明確なクラウドシフトを打ち出し、Azureの展開を本格化して以降は、ITインフラを構成する上で重要なクラウドサービスのひとつとして、Azureを軸としたソリューションの積極的な拡充を図ってきた。
同社の得意とするSAP関連のソリューションにおいても、インフラとしてのAzureは、重要な役割を担うという。
コベルコシステム株式会社
営業本部 ICT営業部 第2グループ
係長 福林 慎司氏
「SIerとして、お客様の置かれた状況やニーズに基づき、インフラを含めた最適なソリューションを提供するというのが基本であることは大前提だが、その上で“SAP on Azure”は自信を持って、多くのお客様に提案できるソリューションだと考えている。マイクロソフトとSAPは、1993年のパートナーシップ締結以来、緊密な関係を保っており、単に情報を共有して製品開発に生かすだけでなく、相互にユーザーとして相手の製品を業務で使い、フィードバックを行っている。こうした関係は、ソリューション連携のしやすさや相互運用性の向上につながっており、取り扱う側としても安心感がある」(小田氏)
また、コベルコシステムでインフラやプラットフォーム技術を担当する、営業本部 ICT営業部の福林慎司氏は、「SAPのインフラとしてAzureを選ぶメリット」として「4つのポイント」を挙げた。
ポイント1.Windows OS 親和性とサポート
特に、オンプレミスでWindowsを利用していたユーザーであれば、Azureを利用することで古いバージョンのWindowsに対する延長サポートが提供されるといった点でメリットが大きい。まず、アプリケーションをOSごとAzureに「リフト」し、時間を稼ぎながらクラウドシフトの取り組みを進めるといったことが可能になる。また、Windows OSとAzureの双方について、マイクロソフトによるワンストップのサポートが提供される点も魅力となる。
ポイント2.ハイブリッド特典活用によるコスト最適化
既にオンプレミスで、マイクロソフト製OSやアプリケーションのライセンスを所有している場合、そのライセンスをAzure上に持ち込んで利用できる。クラウド移行に合わせてシステムを構築する場合、ライセンスコストの削減に寄与する。
ポイント3.DR環境を低コストでシンプルに構築
Azureには「Azure Site Recovery」と呼ばれる、災害対策用のバックアップサイトを低コストで構築し、システムの可用性とビジネスの継続性を高めるための機能が用意されている。特にSAPをAzure上で稼働させる場合には、参考となるリファレンスアーキテクチャなども公開されており、最小の時間とコストで、事業継続に求められるDR環境を用意できる。
ポイント4.セキュリティ対策の充実
Azureには「Microsoft Defender for Cloud」をはじめとする、クラウド環境のセキュリティを高め、管理するための各種サービスが統合されており、必要に応じて、すぐに利用を始めることができる。また、セキュリティに限らず、Azure上で展開されているPaaSを利用し、データアナリティクスやAIなど、先端のテクノロジーを活用したソリューションを、自社の環境に組み入れたい時もスピーディーに行える。
豊富な製造業務向けプロジェクトの実績を通じ付加価値を提供
ユーザーにとってメリットが大きい「SAP on Azure」を検討する企業に対して、コベルコシステムが提供できる最大の付加価値は、過去27年間で260件以上という、豊富な製造業向けプロジェクトの実績に基づいた、業務とシステム、双方のノウハウだ。このノウハウは、製造業向けのSAP ERPテンプレート「HI-KORT」シリーズとして集約され、ユーザーに提供されている。
「製造業といっても、その業種や業態によって、ERPの使い方はさまざまだ。HI-KORTシリーズは、これまでに当社が手がけたプロジェクトで得た知見を元に開発されており、各種の生産形態に対応できる。実績に基づいた豊富なドキュメント類の提供と合わせて、実業務に近いパラメーターがあらかじめ設定されており、インストールからテスト、実業務への適用までにかかる時間とコストを大きく削減できる」(厚田氏)
独自のノウハウをもとに、コベルコシステムがSAP ERPのクラウド移行を支援した企業も増えている。大阪に本社を置き、靴下の企画・製造・卸・小売を展開する「タビオ」もそうした企業の1社だ。同社では、オンプレミスで運用していたSAP ERPをはじめとする業務アプリケーション群を、サーバーのEOLを契機にAzure上へ移行した。ハードウェアの運用保守に掛かる手間とコストから解放されると同時に、既に使い慣れたシステムを継続して利用しつつ、次期基幹システムについて戦略的な検討を行う時間も確保できたという。
参考リンク:タビオ株式会社様 導入事例
ERPのクラウド移行は「DXプロジェクト」の一環として進めよ
コベルコシステムでは、今後もSAP S/4HANAへのマイグレーション、「SAP on Azure」を軸としたERPのクラウドソリューションを積極的に拡充していく計画だという。この計画において、現在SAPビジネスの核となっている業務テンプレートの「HI-KORT」ブランドを再定義し、Azure上でユーザーが構築しているSAP周辺のシステムや「Dynamics 365」をはじめとするSaaS、PaaSとして提供されているデータベース、分析基盤などを「データ」をキーワードに有機的に統合していくための新たな仕組み作りを目指している。小田氏は「これは“HI-KORT with Microsoft Solution”とでも呼ぶべきソリューションになる」とする。
現在、ERPのシステムマイグレーションや、インフラのクラウド移行へ本格的に着手できていないことに課題を感じている企業に対し、厚田氏は「単なるバージョンアップではなく、より広範な“DXプロジェクト”の一環として、ERP環境の刷新に早急に着手することを勧めたい」とアドバイスする。
「“EOLが迫ったシステムをバージョンアップする”と捉えてしまうと、期限に追われる“ネガティブ”なイメージが拭えない。そこで視点を変えて“この機会にビジネスの根幹を支えるシステムを見直し、企業のIT基盤を強化して、競争力を高める取り組みを進める”という視点を持つことで、将来的なDXを視野に入れた、より前向きなプロジェクトとして推進することができる」(厚田氏)
コベルコシステムでは、このような方向性を目指す企業に対して「SAP振り返りサービス」と呼ばれるコンサルティングサービスも提供している。
これは、現在導入されているSAPなどの基幹システムについて、システム関係者や経営層、現場へのヒアリングを通じて、導入経緯と活用の実態を振り返り、課題と今後のビジョンを具体化していく取り組みになる。そこで共有されたビジョンを通じ、刷新後の基幹システムの最善策について、同社が持つノウハウをベースに、導入方針や方法の提案を行っていくという。
「そもそも、既存の基幹システムは、何を実現したくて作ったのか、実際にどれだけの価値が創出されたのかを改めて振り返ることで、刷新プロジェクトにおける方向性を明確にし、予算や期間の超過といったリスクを最小化できる。コベルコシステムでは、そうした意識を持って“2025年の崖”に立ち向かう組織を、全方位からサポートしたいと考えている」(厚田氏)