福井県の中核病院である社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 福井県済生会病院は、2015年に仮想化基盤を導入した。基盤に採用されたのは、VMware、シスコシステムズ、EMCの事前検証済みパッケージ「VSPEX」で、ネットワンシステムズが提案から構築、運用支援まで行っている。その経緯や効果などを、医療情報課の塗茂(ぬしも)裕一課長と伊藤司氏に聞いた。
システムが複雑化し、
運用性やセキュリティの向上が課題に
社会福祉法人 恩賜財団済生会支部 福井県済生会病院は、福井市郊外に460床の病棟を構える総合病院。1941年の開設以来、戦災や震災などに遭いながらも「地域の皆様に質の高い医療を提供する」という使命を果たし続け、1977年には北陸で初となる全身CT装置を導入するなど、医療の質の向上などに向けた様々な技術の導入を積極的に行っている。
同院では、業務効率化と同時にミス低減などの効果をもたらすシステム化も、早い段階から取り組んできた。汎用機でのオーダリングシステム(医師から看護師・薬剤師などへの指示を行うシステム)に始まり、各診療部門のシステム、電子カルテやPACS(医療用画像管理システム)などを導入・運用してきている。
社会福祉法人
恩賜財団済生会支部
福井県済生会病院
医療情報課
課長 塗茂(ぬしも)裕一氏
こうした数々のシステムは、これまで個別の物理サーバ上で運用されてきた。一方、その多数のサーバやネットワークスイッチなどを管理する医療情報課は5名で、さまざまな課題を感じていたと課長の塗茂(ぬしも)裕一氏は言う。
「医療を支えるシステムですから可用性は常に意識しています。しかし10のシステムがあるとしたら、それを停止させかねない原因は10どころではなく、非常に多くの点に気を配る必要があります」
例えば、停電時に備えるためのUPSは物理サーバそれぞれ個別に設置しており、それぞれのバッテリ寿命も意識しなければならない。そもそも台数が多すぎるため、UPSを全てのサーバに設置できないという課題もあった。
サーバ自体のトラブルも、ハードウェアやOS、ミドルウェアなどさまざまな原因で発生する可能性があり、それらのアップデートも個別に行ってきた。ハードウェア更新に際しては、新サーバには新しいOSが搭載されており、それに合わせてミドルウェアやアプリケーションも更新しなければならない。
医療系システムベンダー各社が、それぞれの推奨ハードウェア構成として提案してくるのは物理サーバが基本となっている。つまり新たなシステムを導入する際にもサーバの新規導入が必須であったため、サーバ台数は増加し、運用の負担は増える一方だった。もちろんベンダーへ支払う保守費や、サーバの消費電力、空調電力などといったコストも増大し続けていくことになる。
「加えて、これまでのシステム基盤では、セキュリティ面の懸念もありました。各システムを担当するベンダーは、リモートで保守を行ってくれていますが、その一部は導入時のネットワーク構成の都合から、担当外のシステムにもアクセスできてしまう部分があったのです。こういった部分は稼働を始めてしまうと修正が困難で、そこを改善できる仕組みも欲しいと考えていました」(塗茂氏)
サーバ仮想化を検討し、
ネットワーク仮想化も合わせて導入
こうした課題に対し、福井県済生会病院 医療情報課はサーバ基盤の仮想化によって解消を図ることを検討した。まずは診療部門システム(放射線・検体検査・薬剤など)の統合を検討した。
一般企業と比べて医療機関は、仮想化の導入が進んでいない傾向にある。他の医療機関での実績を重視するためか、なかなか踏み切れないところも多い。しかし福井県済生会病院では、主に医療情報課内で使う小さなシステム群について、資産延命のため小規模ながらVMware vSphere®による仮想化をすでに導入しており、その抵抗感は少なかった。
「課内で使うデータベースなども容量が増え続けており、この小規模な仮想環境ではリソース不足が懸念されていました。さらなる延命のためには、それを移行させられる先が求められていたという事情もあります」と、医療情報課の伊藤司氏は説明する。
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恩賜財団済生会支部
福井県済生会病院
医療情報課 伊藤司氏
この医療情報課内の仮想化基盤の統合も、前述したUPSの統合と並んで、新たな基盤に求める要件として加えられた。それらの要件を示した上で入札を実施し、電子カルテを提供する大手IT企業を含めた3社が参加。落札したのがネットワンシステムズだった。その提案は、VMware、シスコシステムズ、EMCの3社の製品による事前検証済みパッケージ「VSPEX」によるものだった。
「ネットワンシステムズからは、落札後にもさまざまな提案をもらいました。その一つが、ネットワーク仮想化のVMware NSXを使ってマイクロセグメンテーションを行うことです。これにより、人事系など他の基盤で稼働していたシステムもセキュリティを担保しながら統合できることになりました。提案内容に関しては他の部分でも詳しい説明をしてもらっており、これまで付き合いのあったベンダーに比べて緻密だったと感じています」(塗茂氏)