構想ばかりが前に進む
ドイツ政府が「Industry 4.0」の構想を打ち出してから、すでに7年の歳月が経過し、日本政府は現在、近未来社会構想として「Society 5.0」を打ち出している。Industry 4.0は製造業を、Society 5.0は広く社会を“最適化”の対象にしているが、活用を想定するメインのテクノロジーがIoT、ビッグデータ、アナリティクス(AI)、さらにはロボティクスである点は同じだ。IoTデバイス(センサー)で実世界のあらゆるモノ・ゴトの動きをとらえて、AIで分析し、実世界を最適にコントロールしていく──。そうした考え方が、Industry 4.0とSociety 5.0の根底に流れている。
この考え方自体はシンプルだが、実践はそう簡単ではない。実際、IoTやAI活用による製造ラインの最適化にしても実現できているのは一部の先進企業や大手企業に限られている。多くの企業が、「何からやればいいのか?」、「どうすればいいのか?」という課題感を抱えている現実がある。
最初の一歩でつまずく
IoT/AIの活用を巡る課題は、結局のところ、データ活用の問題へと帰着する。
というのも、自分たちの目的を果たすために、あるいは課題を解決するために、何のデータを集めて、どう分析すればいいのかが分からなければ、IoT/AIの活用を前に進めることは不可能だからだ。
ここで、産業用ロボットが配備された工場ラインの自動化・自律制御のためにIoT/AIを活用するケースを想定してみたい。
ラインの自動化・自動制御を実現するには、センサーなどから収集したデータを基に、各工程における不具合の発生を事前に予知して、アラートを発し、安定化のための制御指示を出すようなデータドリブン型のシステムを構築しなければならない(図1)。

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この図に示すとおり、こうしたシステムを実現する上では、1.事前に収集蓄積したデータをもとに、要件に応じた予測モデルを開発しつつ、2. リアルタイムに収集されるデータにこの予測モデルを適用させ、対象とする問題の発生確率を即座に算出することで、有効なアクションを低レイテンシーで返して行くソリューションが必要になる。

SAS Institute Japan株式会社
IoT & Advanced Analyticsグループ
ソリューション統括本部
プラットフォームソリューション統括部
グループ マネージャ
松園 和久氏
1で記した予測モデルの構築に際して、最初に問題になるのは、構築する予測モデルの内容において、「目指そうとしている予測モデルに必要なデータはなにか?」という点である。この点に関しては、多くの企業が問題認識が強いものの、今集めているもので十分なのか不安に考えられているケースが非常に多い。また、データ収集期間についても、IoT活用の検討の中で、データ収集をようやくスタートした、という企業も少なくなく、まだ十分なデータ量にいたっていない、という声も非常に多く聞かれる。
上の記述を読むと、既に経験している方であれば誰もが出くわしている課題であることに気が付かれるかと思いますが、多くの企業の現在地はセンシング設備の設置が完了し今からまさにデータ活用という新しいエリアへの一歩を踏み出そうとしている、そういうステージと捉えています。
課題解決の道筋
上述したような問題の解決に向けては、データを活用して予測モデルを構築したり、業務上の意思決定に生かすための一連のプロセスを理解している必要がある。
まず、データの収集について言えば、データ分析や、予測モデルによってどのようなアウトプットを得たいかを明確にする必要がある。その上で、分析の目的に応じたデータ収集を行うことになる。ここで考慮すべきポイントは、分析対象と因果関係にあるデータの双方を収集することである。たとえば、商業施設が翌日の来店客数をAIで予測したいとしよう。この場合、過去の来店客数実績と、それと因果関係にある思われる月日や曜日、天候、気温、キャンペーン実施の有無といったデータを収集し、予測モデルを開発することになる。それと同様のことが、あらゆる予測モデルの開発には必要とされると言える。