コロナ禍で日本人の働き方が変わった。リモートワークの導入に伴うICT活用が加速する中で、特に重視されるのがネットワークだ。リモートワークが広がり初めた当初は、ネットワーク帯域やVPN同時接続のリソース不足、リモートワーク環境におけるセキュリティ対策などが大きな課題になったことは、まだ記憶に新しい。
そのような背景からいま注目すべきが、ネットワークに強い企業だ。リモートワークではクラウドサービスの利用も多くネットワークが必須。クラウドを扱うICTベンダーは多いが、ネットワークに強く、基盤として持つICTベンダーは貴重だ。その1つがソニービズネットワークスである。同社は、高速インターネット接続サービス「NURO(ニューロ)アクセス」を軸に、SaaSやセキュリティ対策をワンストップで提供する「NURO Biz(ニューロ・ビズ)」を展開し、特にデジタル人材が不足する中小企業のビジネス変革を支える存在として、その評価を高めている。
今回は、同社のキーパーソンである執行役員の柏原秀行氏、開発本部 本部長の平山智史氏と、デジタルトランスフォーメーション(DX)をリードしてきた青山学院大学 地球社会共生学部 教授の松永エリック・匡史氏(以下、エリック氏)に、DXを推進していくポイントや、ソニービズネットワークスのユニークな課題解決のアプローチなどをうかがった。
DXに必要な資源が足りない日本企業
コロナ禍の影響により、今までデジタル投資に消極的だった国内企業もデジタルトランスフォーメーション(DX)に向き合うようになった。ただし、企業全体の99%以上が中小規模の日本では、多くの企業がDXの取り組みに苦慮しているといわれる。
実際に、企業はDXを進める上でどのような課題を抱えているのだろうか。ソニービズネットワークスで営業を統括する柏原氏は、企業のDXがなかなか進まない現状をこう解説する。
執行役員 柏原秀行氏
「コロナ禍を契機に、お客さまの中に『何かしなければ』という危機感が醸成されました。当社の主なお客さまは中小企業ですが、一部の感度の高いお客さまから、『リモートアクセスやセキュリティ対策をどうすればいいのか』といったお問い合わせがある一方、当社からお声がけしても、なかなか難しいことも多い状況です。『DXを推進する人材が社内にいない』『何をしていいか分からない』といった声を多く聞きますし、これまで投資をしてきた既存のオンプレミスのシステムが足かせだったり、コストをかけられなかったりという声も目立ちます。それらがDXを阻む原因です」
また、技術やソリューション開発を統括する平山氏は、DX支援策などの導入に関心を持つ顧客の反応から別の側面があると指摘する。
「例えば、データ活用やAI(人工知能)ツールを希望されるお客さまに当社のサービスを提案しても、費用対効果や業績への貢献といった数字の結果にこだわるところが多い印象です。DXを進める上でツールの導入や数字の結果は確かに大切ですが、それ以上に『こんな会社になりたい』『こういうことをしたい』といった明確な目的意識が必要でしょう」
DXの目的は改善ではなく“変革”
青山学院大学 地球社会共生学部 教授
松永エリック・匡史氏
このような企業が抱える問題に対してエリック氏は、多くの企業やICTベンダーがDXについて誤解しており、DXを推進する上で誤ったやりとりをしていると、警鐘を鳴らす。
「現在は多くの企業がビジネスや業績の拡大にDXを最重要の経営課題に置いています。しかし、ほとんどのDXは単に既存業務のデジタル化。これはDXではない。本来DXは『トランスフォーメーション』、つまり、変革です。自社のビジネスをゼロベースで変革し新しい世界を作ることがDXの目的であるはず。短期的なP/L、B/Sの数字は後からついて来るもので、最初からコストや費用対効果などをベースに戦略を立てるのは根本的に間違っているのです。短期的な費用対効果といった話は、現状の改善であり、それはDXではなく『デジタライゼーション(電子化)』です」
さらにエリック氏は、コストをかけられないとする企業の経営層にデジタル投資への認識を改めるよう訴える。
「これからの投資は、従来の業務の効率化をベースにしたIT投資とは本質的に異なります。DXはビジネスを変革するための投資であって、ある意味では短期的な売り上げに目をつぶる覚悟が必要です。企業としての生き残りをかけた話ですから、ICTベンダー側もDXに対する認識を改め、『トランスフォーメーションとは?』という話をお客さまにしっかり伝えなければなりません」
“変革”のきっかけになるSaaS
企業には、存亡をかけたトランスフォーメーションが求められる――。そう考えると私たちは身構えてしまうかもしれない。だが、このコロナ禍で仕事をする場所が物理的なオフィスだけでなくオンラインのデジタル空間に広がったように、既に多くの企業がトランスフォーメーションを体験済みだ。特に象徴的なのが営業活動だろう。お客さま先に足を運ぶだけだったのが、今ではオンラインでもやりとりをするようになった。柏原氏は、働き方が変化していると話す。
「今ではWeb商談への抵抗感が低くなりました。お客さまにとっては、ささいな用件のためにわざわざ会議室を用意せずに済むメリットがあり、受け入れていただいているように感じます。営業担当者も以前は移動に充てていた時間をお客さまと接するために使えるようになりました」(柏原氏)
開発本部 本部長
平山智史氏
また、平山氏もシステムエンジニア(SE)の業務に同様の大きな変化があったと話す。
「私は元々サーバーエンジニアでしたので、変化を痛感しています。以前はお客さま先で機器導入や設定の変更といった作業をしていましたが、クラウド化が進み、リモートから作業できるようになりました。今ではSEの作業の大半がリモートです」
このように、ビジネスシーンの至る所で意識しているかどうかにかかわらず、トランスフォーメーションが進んでいる。それでもDXに戸惑う企業はあるだろう。そんな企業に対してエリック氏は、トランスフォーメーションを効果的に進める手段として、SaaSの活用を勧める。SaaSは、単に業務システムを安く使うためのサービスと思いがちだが、実はトランスフォーメーションのきっかけになる存在であるという。
「ITに詳しい人材が不足している企業がオンプレミス型で業務システムを導入しようとすると、担当者のレベルに合ったシステムしか作れません。そこでSaaSを活用すれば、システムの品質を考えたり構築したりする部分をベンダーに任せられるので、担当者に時間の余裕ができ、システム導入後に目指したいビジネスや業務の未来像を考えることができます。ここでの投資をシステムの移行費用と捉えずDXのための新しい好機だと考えれば、使える予算も大きくなるはず。そのことを実践している会社は、トランスフォーメーションがうまく進んでいます」
自らのDX体験を反映させた「NURO Biz」
またエリック氏は、SaaSの活用がトランスフォーメーションに着手するきっかけやその推進役になるだけではなく、大規模自然災害など事業の継続性を脅かすリスクに備える上でも重要になると指摘する。
「ポイントは、企業の限られた人材をITから解放することによって、ビジネスのトランスフォーメーションにアサインすることができる点にあります。例えば、営業部門の生産性をどう向上させるのかといった経営課題にSaaSを活用することによって、ビジネスの改革に集中することができる。さらにローコード開発が浸透すれば、ITのスキルがなくても改革に必要なアイデアを誰もが形にできるのです。気づけば自然とDXが進んでいましたというのがDXの理想的な形であるとも言えます。コロナ禍では急激にデジタルワークプレイスを強要される状況になり、全力で自分の環境を再考せざるを得ない厳しい事態になりました」(エリック氏)
実際にソニービズネットワークスは、2012年の設立時からSaaSを活用して業務システムを構築しており、コロナ禍の前よりWeb会議や勤怠管理、ワークフロー、顧客管理、営業などにおいてリモートワークができる体制を整備していた。「当初はコストメリットを期待してSaaSを採用しましたが、結果的にコロナ禍においても特別な投資がほとんどなく、気がつけば問題なくリモートワーク体制に移行し、多くの社員がデジタルワークプレイスで仕事をしています」(柏原氏)
ソニービズネットワークスは、自社の経験と活用してきたITツールのノウハウを生かし、法人向けにビジネスを展開している。「NURO」というソニーグループが持つ高速のネットワーク基盤を組み合わせ、昨今のビジネス環境に求められるネットワークからアプリケーション、マネージドサービスまでを一気通貫で提供する次世代ICTソリューション「NURO Biz」をはじめ、同社は企業のDXの推進を強力にサポートする存在だ。
さらにDXパートナーとしての同社が強みの源泉がどこにあるのか、同社のサポートによって具体的に企業はどのようにDXを実現していけるのか。詳しく紹介する(続く)。