いま必要なのは変化への俊敏な対応を支えるアプリケーションプラットフォーム
コロナ禍において多くの組織がデジタル変革を加速させている中、「これからの時代に適応していくためのアプリケーション基盤をどう作るか」で頭を悩ませているCIO、ITマネジャーもいるだろう。
ヴイエムウェア株式会社
マーケティング本部
チーフストラテジスト
渡辺隆氏
こうした状況の中で企業が必要としているのは、「ビジネス環境の変化に対応するためのサービスを迅速に提供し、顧客満足度の向上や企業競争力の強化に寄与するアプリケーションプラットフォーム」だと話すのは、ヴイエムウェア チーフストラテジストの渡辺隆氏だ。
「例えば、コロナ禍に機敏に対応できた企業は、それを支えるアプリケーションプラットフォームを持っていました。それにより、変化に迅速に対応しながらビジネスを拡大することができたのです」(渡辺氏)
渡辺氏が例として挙げるのが、GAPブランドで知られる米国のアパレル大手ギャップだ。米国で2020年3月よりロックダウンが始まると、同社は実店舗を閉鎖するが一方でECを強化した。また、課題となったのがオンラインで購入した商品を最寄り店舗で受け取りたい顧客への対応だった。同社は店舗外で受け渡しするためのサービスを、ロックダウン開始からわずか数週間で提供。結果としてロックダウン期間中も事業を成長させ、NPS(Net Promoter Score)※1を14%高めて業界標準を大きく上回る70点を達成した。
迅速な変化対応の秘密はコンテナ技術
一方、4,000社以上の⾦融機関に対して決済や顧客管理などのバックエンドサービスを提供している米国のFinTech企業ファイサーブは、コロナ禍に伴って米国中小企業庁が実施した中小企業向け支援策「給与保護プログラム(PPP)」の給付金申請を行うためのシステムを開発した。このシステムにはサービス提供を支える高いパフォーマンスとセキュリティ、可用性、信頼性が求められたが、同社は10万行以上のコードから成るシステムを15人の開発者で構築。28日間で436回ものリリースを行いながらシステムを完成させたという。
渡辺氏が強調するように、これらの企業がコロナ禍に俊敏に対応できた理由は、新たなサービスをスピーディに提供し、クラウドも活用しながら需要の拡大に機敏に対応できるアプリケーションプラットフォームを持っていたからだ。
「そのアプリケーションプラットフォームで使われている技術こそコンテナにほかなりません。実際にファイサーブ社は、わずか4週間で給付⾦申請システムを実現できた理由として、開発チームごとに異なるアプリケーションプラットフォームを使うのではなく、コンテナとコンテナオーケストレーションによってプラットフォームが統⼀されていたことを挙げています」(渡辺氏)
クラウドシフト、マルチクラウド化とともに本格化するKubernetes活用
現在、コンテナを用いたアプリケーションのデプロイやオートスケーリング、管理などの機能を提供するオープンソースのコンテナオーケストレーションツールとして、Kubernetesの普及が進んでいる。コンテナの活用を進める欧米やアジアパシフィックの企業約400社に対してヴイエムウェアが実施したアンケート調査によれば、「本番環境でKubernetesを利用している」と答えた企業は、2020年の59%から2021年には65%にまで増加している※2。
また、それらの企業ではもう1つ大きな変化が起きている。オンプレミスの比率の急激な低下だ。2020年は64%だったのに対し、2021年は55%にまで急減した。加えて、回答企業の36%が、ベンダー各社のクラウドサービスを必要に応じて使い分けるマルチクラウド戦略を推進していると答えたという。
渡辺氏は、こうしたKubernetes活用の波は、日本企業にも到来していると話す。
「今年3月に当社で開催したコンテナ関連のセミナーで参加者にアンケートを実施したところ、約7割がすでにKubernetesを利用していました。昨年開催した同様のセミナーでは約2、3割でしたから、状況は急激に、大きく変わりつつあります」(渡辺氏)
Kubernetesだけでは足りない。不足する機能をどう補うか?
いよいよ日本でもコンテナ活用の本格期が始まろうとしているわけだが、それに伴って多くの企業が直面する課題がある。「Kubernetesのディストリビューションをどう選ぶか」という問題だ。
「前述のアンケート調査によれば、回答企業の96%がKubernetesディストリビューションの選択に苦労していることがわかりました。その理由として、『社内の経験や専⾨知識の⽋如』『必要な専⾨家を雇⽤するのが難しい』『Kubernetes/クラウドネイティブの変化の速さ』『ソリューションの選択肢が多すぎる』といった理由が挙げられています」(渡辺氏)
また、Kubernetesディストリビューションの選定で重要な要素として最も多くの企業が挙げたのが「導⼊、運⽤、保守の容易さ」だった。
さらに、ディストリビューションの選定以上に難しいのが、「Kubernetesを用いて自社のアプリケーション基盤をどう作るか」ということだ。
「Kubernetesは、コンテナアプリケーションのオーケストレーションやスケーリング、死活監視などの基本機能を提供しますが、それ以外の部分はユーザーが選べるという柔軟さを持っています。逆に言えば、エンタープライズシステムとして利用するためには、足りない部分を自ら補う必要があるのです」(渡辺氏)
例えば、ネットワーキングやユーザー認証、バックアップ/リストア、アプリーション監視などの機能は備えていない。それらの機能は、下図に示すCloud Native Computing Foundation(CNCF)の認定プロダクトを組み合わせて、自社で環境を作らなければならない。
だが、一般のユーザー企業がCNCF認定プロダクトを組み合わせて一からコンテナアプリケーションプラットフォームを構築するのは現実的ではない。構築には非常に高いスキルが要求されるうえ、一度作った環境を各プロダクトのアップデートに追随しながら保守していくには、さらに大きな負担がかかるからである。
包括的なKubernetesディストリビューション「Tanzu for Kubernetes Operations」
ヴイエムウェアは現在、企業システムにおけるKubernetesの本格的な活用を促進すべく、業界随一の包括的なKubernetesディストリビューションを提供している。その核となるのがVMware Tanzu for Kubernetes Operationsだ。
「Tanzu for Kubernetes Operationsは、企業がアプリケーションプラットフォームでKubernetesを使う際に必要となるさまざまな機能を提供します。Kubernetesを本格的に使うためには不足している機能を補うものがTanzu for Kubernetes Operationsなのです」(渡辺氏)
Tanzu for Kubernetes Operationsは現在、次のソリューションを提供している。
【Tanzu for Kubernetes Operationsに含まれるソリューション】
- VMware Tanzu Kubernetes Grid
- VMware Tanzu Mission Control
- VMware Tanzu Observability
- VMware NSX Advanced Load Balancer
- Application Transformer for VMware Tanzu
- VMware Tanzu Activation Service (別途提供の有償サービス)
このうち、Tanzu Kubernetes Gridは基本となるKubernetesの機能を提供するコンテナ実行基盤であり、Tanzu Observabilityは複雑なコンテナ環境に対する可観測性(オブザーバビリティ)を提供するアプリケーション監視/分析サービスだ。
「また、Tanzu Mission Controlはマルチクラウド上のKubernetesクラスタを管理可能な一元的なコントロールプレーンです。 Tanzu Kubernetes Gridクラスタのプロビジョニングとライフサイクル管理を簡素化し、AKSやEKS、GKE、OpenShiftなど、主要プロバイダのクラスタをアタッチして管理可能です。また、クラスタとネームスペースのバックアップと復元やアイデンティティ/アクセス管理など、Kubernetesの運用を簡素化することを可能にします。」(渡辺氏)
NSX Advanced Load Balancerは大量のリクエストを効率的に処理するロードバランサ、Application Transformer for VMware TanzuはvSphere上で稼働するJavaアプリケーションのコンテナへの変換を支援するアプリケーションモダナイゼーションツールだ。
そして、Tanzu Activation Serviceは、コンテナを用いたアプリケーションプラットフォームの構築と活用を支援するサービスである。単にツールやサービスを提供するだけでなく、それらを使ったプラットフォーム構築まで支援している点はヴイエムウェアならではだと言える。
マルチクラウドのアプリケーションプラットフォームを実現
Tanzu for Kubernetes Operationsのもう1つの特長は、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)など、主要なクラウドをまたいだマルチクラウドのコンテナレイヤを実現することだ。
ヴイエムウェアは、VMware vSphereとVMware Cloud Foundationにより、各社のクラウドをまたいだマルチクラウドの仮想化レイヤを実現している。これを使うことで、オンプレミスのvSphere上の仮想マシンをAWSに移したり、AWS上のvSphere仮想マシンをAzureやGCPの上に移したりといったことが手軽に行えるようになる。
「この考え方と同様に、TKGで各社のクラウドをまたいだマルチクラウドのコンテナレイヤを実現します。Tanzu for Kubernetes Operationsを使うことにより、お客様はAWS上のTKGで動くコンテナアプリケーションをAzureやGCPの上に移したり、TMCを使って各社のクラウド上で動くKubernetesクラスタを一元的に管理したりすることができます。Tanzu Observabilityを利用して、AWSやAzure、GCP上のコンテナ環境を一元的に監視し、障害検知やトラブル対応を効率化することも可能です」(渡辺氏)
TKGはvSphere上でも動作することから、企業は使い慣れたvCenterによって仮想化環境とコンテナ環境を管理することができる。「マルチクラウド環境で仮想化とコンテナの環境を一元管理しながら、既存の仮想化資産をコンテナにモダナイズしていく」といったことも行える。マルチクラウド時代に既存資産も生かしながらコンテナを活用していきたい企業にとっても、Tanzu for Kubernetes Operationsは最適なKubernetesディストリビューションなのだ。
Platform as a Productでアプリ開発チームの迅速なサービス提供を支援
「次世代統合基盤」という名の下に、期間とコストと要員を投入したものの、開発チームは、パブリッククラウドサービスを自由に使ってしまい、「次世代統合基盤」を構成するソフトウェアはバージョンが古いものになってしまい、結果使われなくなってしまった…
この例えは極端ではあるものの、似たような経験をお持ちの方はいないだろうか?
ヴイエムウェアは「Platform as a Product」というコンセプトの下にTanzu for Kubernetes Operationsの活用を提唱している。これは、プラットフォームをアプリケーションと同様に「プロダクト」と位置付けるコンセプトである。具体的には、
- プロダクトには、それを使う顧客がいる。プラットフォームの顧客はアプリケーション開発チームである
- 顧客のニーズを満たすプロダクトを開発、改善を繰り返す必要がある
- また、単に基盤を提供するだけではなく、使い方のトレーニングや社内向け啓蒙活動も活動に含まれる
- そのためには、プラットフォームチームという専任のチームを構成する必要がある
というものだ。
「今やアプリケーションの開発/提供は企業にとって重要な価値創出活動です。アプリ開発チームがこの活動に注力するためには、どのクラウドでも同じ作法で使えるアプリケーションプラットフォームが必要です。Tanzu for Kubernetes Operationsを使えば、そのプラットフォームを迅速に構築し、効率的に管理していくことができます」(渡辺氏)
※1 顧客が企業やブランドに対して抱く信頼感や愛着を数値化して測る指標
※2 「2021年 Kubernetesの現状」(2021年4月発行)