Kubernetesを採用し開発を進める企業は増え続けており、なかにはマルチクラウドでKubernetesを利用するという選択肢をとる企業も存在する。そこでヴイエムウェアでは、自社のKubernetesディストリビューションだけではなく、他社のKubernetesも含む「マルチKubernetes」のライフサイクル全体をサポートし、マルチクラウドにおける課題解決に寄与している。本稿では、Red Hat社のOpenShiftとの連携を例に、コンテナアプリケーションの開発やオブザーバビリティ、そしてKubernetesクラスタのライフサイクル管理といった、Kubernetesを利用するうえで重要となる作業がどのように効率化するのか解説する。
多くの企業が抱える「クラウドカオス」問題とは
企業ITの世界において「クラウドファースト」が叫ばれるようになってから早くも10年近くの歳月が経過しようとしている。そんな現在の状況を見てみれば、以前としてオンプレミス環境が多く見受けられるとともに、プライベートクラウドや複数のパブリッククラウドを併用するマルチクラウド環境が一般的となっている。また、パブリッククラウドに関しては、AzureやAWS、GCPという3大クラウドプラットフォームの間でも運用方法やアプリのあり方に違いが生じてくることになる。
このため、多くの企業ではクラウド環境が乱立しており、その運用やクラウド上で動くアプリ開発もまた複雑極まるものとなってしまっている。そして本来、運用・開発を効率化するために用いる運用ツールや開発ツールにしても、プラットフォームや部門ごとに断片化しているケースが非常に多くなっているのである。
ヴイエムウェア株式会社
モダンアプリケーションプラットフォーム事業本部
シニア マネージャー
田中 聡氏
さらには、クラウドネイティブな人材の不足が深刻化する一方にあると、ヴイエムウェア モダンアプリケーションプラットフォーム事業部 シニアマネージャーの田中聡氏は話す。
「クラウド環境の複雑化や断片化、人材不足などを理由に、かつて思い描いたようにクラウドの利活用が進んでいません。この状態を、我々は『クラウドカオス』と呼んでいます。クラウドカオスの状態では、個別のクラウド環境ごとに、個別の開発や運用が行われており、セキュリティ対策もまたそれぞれバラバラとなってしまうのです」(田中氏)
クラウドスマートを実現する「VMware Tanzu」
サイロ化したクラウドインフラに起因するクラウドカオスの課題を解決するべくヴイエムウェアが提唱しているのが「クラウドスマート」だ。
「クラウドスマートとは文字通り“賢く上手にクラウドを使いましょう”というビジョンです。分断されているクラウド環境上に一貫性を与えることで、開発を加速するとともに効率的な運用が行えるスキームを提供します」(田中氏)
クラウドスマートを実現するソリューションのひとつとしてヴイエムウェアが提供するのが、クラウドネイティブに向けた次世代アプリケーション・プラットフォーム「VMware Tanzu」である。
このうち豊富な開発者用ツールを実装する「VMware Tanzu Application Platform」は、迅速かつ安全にソフトウェアを構築するとともに、パブリッククラウドやオンプレミス上のKubernetesクラスタにデプロイするための本番環境へのパスを提供する迅速なアプリケーション開発を可能にする。また、VMware Tanzu for Kubernetes Operationsが、コンテナのデプロイ、スケーリング、管理についてシンプルかつ一貫性のあるアプローチを提供。これらのツール群により、クラウド環境の複雑化や断片化といった課題を解決するのである。
そしてもう1つの課題であるクラウドネイティブ人材の不足についても、プロフェッショナルサービスであるVMware Tanzu Labs を活用することで、効果的に解決することが期待できる。これは、人的リソースの不足に対して底上げするようなコンサルティングサービスとなっており、インフラからアプリケーションまでの支援を提供し、スキルアップやリスキリングのサポートなどにより、顧客に対して確実に価値を届ける。
「こうした数々の特性を有するVMware Tanzuであるからこそ、開発チームの生産性向上やアプリケーション開発者が快適に開発できる環境の提供をはじめとして、セキュリティガバナンスを考慮したうえでの効率的な運用、さらにはベンダーロックインから解放されKubernetes環境を実現します」(田中氏)
広範なエコシステムによりOpenShiftの力を最大限に発揮
KubernetesベースのコンテナプラットフォームであるRed Hat OpenShiftは、企業向け Kubernetes コンテナ・プラットフォームとして広く普及している。ヴイエムウェアではOpenShiftをはじめ、Amazon EKSやMicrosoft AKSといった各種パブリッククラウドのサービスと連携しており、顧客にさらなる価値を提供するスタンスを貫いている。
ヴイエムウェア株式会社
モダンアプリケーションプラットフォーム事業本部
シニア マネージャー
松原 祐樹氏
ヴイエムウェア モダンアプリケーションプラットフォーム事業部のシニアプラットフォームアーキテクト、松原祐樹氏は次のように語る。
「OpenShiftは本番環境においてサポータビリティの高いプラットフォームであり、世界的に実績も豊富なことから日本国内でも多くのユーザーがいらっしゃいます。OpenShiftを本当の意味で活用するためには、より広範なエコシステムを取り入れることが重要です。そこでVMware Tanzuのソリューション群では、エコシステム全体を含めてOpenShiftを最大限に活用できるよう注力しているのです。言い換えれば、PaaSすなわちクラウドネイティブアプリケーションを、開発者がより快適につくり続けられるような環境をVMware Tanzuは提供します」(松原氏)
OpenShift環境における開発者の非機能要件の負担を軽減
OpenShiftは、Kubernetesを使いやすくするという観点では非常に高機能である。その一方で、クラウドネイティブな環境におけるマイクロサービスでの高速な開発となってくると、開発から本番までのデリバリーをどう迅速にするかといった観点から、自動化やセキュリティが求められてくるのも事実だ。
「OpenShiftは、Jenkinsのようなテスト、ビルド、デプロイに関する継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)ツールをサポートしていますが、これらのツールは柔軟性が高いことから使用者が何でもできてしまうといった側面もあり、ワークロードのセキュリティが課題となってきます。また、スケールが大規模になってくると開発パイプラインが増えていくため、適切に管理する必要が生じてきます。さらに、開発チームや組織がパイプラインを変えたいとなった場合、どうしても属人化が進んでしまうという課題もあります」(松原氏)
CI/CDパイプラインを個々の開発者に委ねていれば開発者の負荷増加は免れない。CI/CDパイプラインのみならず、開発工程におけるチームとしての生産性向上を提供すべく登場したのが「VMware Tanzu Application Platform」である。
その主なコンセプトは大きく「インナーループ」と「アウターループ」の2つがある。インナーループは、開発が始まってからコードが出来上がるまでの作業をいかに標準化し迅速にするかを支援するものだ。アウターループでは、運用者やセキュリティ担当者などがガバナンスやセキュリティのルールに沿ったかたちのコードで構成されたコンテナアプリケーションをすばやくセキュアに本番環境へデプロイすることを可能にする。
Tanzu Application Platformのポイントとなる機能の1つが「LiveUpdate」であり、OpenShift上へのアプリ展開をIDEツール内で完結する。また「TAP GUI」は、OSSのBackstageをベースとした統合開発者ポータルを提供する。そして「Cartgrapher」により、Kubernetesを意識せずにソースのコミットからURL公開までを一気に自動化することが可能だ。
Tanzu Application Platformは、これらのコンセプトや機能により、開発者が抱える非機能要件の負担を軽減するのである。
RedHatとの連携実績からOpenShift環境のアプリ運用を最適化
ヴイエムウェア株式会社
モダンアプリケーションプラットフォーム事業本部
シニアソリューションズエンジニア
岩渕 友裕氏
OpenShift環境におけるインフラ&アプリケーション運用についても、VMware Tanzuであれば大きく効率化を図ることができる。ヴイエムウェア モダンアプリケーションプラットフォーム事業部 シニアソリューションエンジニアの岩渕友裕氏は次のように締めくくった。
「ヴイエムウェアは仮想環境の連携においてRed Hat社と長い歴史がありますので、コンテナ環境に関しても仮想化環境と統合しながらOpenShiftをサポートするさまざまな機能を提供しています。VMware製品とOpenShiftを組み合わせることで運用に必要な要素を包括的に提供し、お客様の全体の運用を最適化することを支援します」(岩渕氏)