電子取引とAI活用の基盤となるデジタルトラスト
藤本国内ではコロナ禍を経て業務プロセスのデジタル化が進み、2024年の電子帳簿保存法(電帳法)改正に合わせて重要書類の電子取引も加速しました。一方で、それらの信頼性の基盤となるデジタルトラストという考え方に関しては、現状では認知度が低く、本格的な議論もあまりなされていない印象です。デジタルトラストが必要とされる根拠や、市場の背景について説明してください。
新井氏デジタルトラストの実装に関してはすでに海外は先行していて、欧州では2016年から「eIDAS」(※EU加盟国における電子識別とトラストサービスの枠組みを規定するEU規則)という形で法整備がされています。日本ではまだなじみが薄いかもしれませんが、2020年に総務省の報告書の中で、デジタル社会の有効性を担保する基盤として、送信元のなりすましやデータの改ざん等を防止する仕組みとなるトラストサービスの必要性が言及されていました。
日本でも、取引における電子化の比率がどんどん高まっていることと、生成AIの更なる普及が、デジタルトラスト導入の動機になると考えられます。特に生成AIを安全に活用していくためには、改ざんされてはならない領域がしっかりと守られていなければなりません。今後その部分の信頼性・安全性の基盤を作っていくにあたり、デジタルトラストサービスも普及していくと予測できます。
電子取引に対する信頼と確信を高める電子サービス
| 分類 | 概要 |
|---|---|
| 電子署名 | 電子文書の作成者を示す目的で行われる暗号化等の措置であり、電子署名が付されて以降、改変されていないことを確認可能とする仕組み(人の正当性を確認)。 |
| タイムスタンプ | 電子データがある時刻に存在し、その時刻以降に当該データが改ざんされていないことを証明する仕組み。 |
| eシール | 電子データを発行した組織を示す目的として行われる暗号化等の措置であり、組織の正当性を確認できる仕組み。企業の角印の電子版に相当。(組織名の電子証明書) |
| モノの正当性の認証 | IoT時代における各種センサーから送信されるデータのなりすまし防止等のため、モノの正当性を確認できる仕組み。 |
| ウェブサイト認証 | ウェブサイトが正当な企業等により開設されたものであるか確認する仕組み。 |
| eデリバリー | 送信・受信の正当性や送受信されるデータの完全性の確保を実現する仕組み。 |
※総務省 「プラットフォームサービスに関する研究会 トラストサービス検討ワーキンググループ 最終取りまとめ」 (2020年2月)
藤本なぜ今、ウイングアークがデジタルトラストの訴求を強化しているのでしょうか。 Trusteeというサービスをリリースした背景をお聞かせください。

Business Data Empowerment SBU
事業戦略本部 副本部長
新井明氏
新井氏ウイングアークでは、「デジタル帳票基盤」というコンセプトのもと、帳票を作成するところから保管、送付、受領、社内システム連携まで、帳票にかかわる業務全般をシステムで自動化し、全体最適化を図るという構想を持っています。デジタル帳票では、まず人間が業務処理を行うための視認性に加え、システムで処理可能なデータも付与された形で帳票が流通することを目指していますが、そこでは改ざんやなりすましがされていない真正性を担保する必要があります。そのため、以前からデジタル帳票はデジタルトラストの仕組みを備えた上で流通させるべきという世界観を持っていました。
その中でコロナ禍や電帳法の改正によって電子化が進み、紙よりもデジタルのやり取りが増えるようになってきて、電子帳票の信ぴょう性が問われる局面が増えてきました。一方で既存のタイムスタンプサービスでは、コストやスピード、可用性の面で課題を感じるものが多かったため、自社でタイムスタンプサービスを開発し、そこを起点として新たにデジタルトラストサービスを整備・強化することにしたのです。
受領側がタイムスタンプを付与する現行方式には穴が
藤本電帳法によって電子契約がだいぶ普及しましたが、国のガイドラインで定義されている業務フローでは、書類の真正性確保については受け取った際にタイムスタンプを付与する形になっています。Trusteeでは帳票作成時にタイムスタンプを付与する形になりますが、現状の方法では問題があるのでしょうか。
新井氏現状の方式では、発行側が帳票を作成してPDFで送付し、取引先がそれを受け取ってタイムスタンプを押すまでの間に、発行側や途中の経路、受取側でも悪意があれば改ざんができる余地が存在しています。デジタルトラストの概念で考えると、作成時に発行側でデジタルトラストを付与しないとあまり意味がありません。そのような「無防備PDF」の状況は改善すべきでしょう。
実際に海外では、生成AIを使った書類の改ざん、デジタルデータの改ざんによって被害も発生しています。日本では表立って大きな被害の報告はありませんが、生成AIの登場で改ざん行為を行う際のハードルが下がり、確実にリスクが高まっている状況です。そのため我々は、発行側がタイムスタンプを付与する「Trustee タイムスタンプ」を開始しました。
藤本生成AIを使った改ざんは人では見抜けないレベルに達しているので、これから絶対に対策が必要になるでしょう。その問題を解決するために、帳票を発行するタイミングでタイムスタンプを押せるような仕組みを用意したということですね。
新井氏有難いことにSVFは市場で大きなシェアを持っています。そこで信頼できるデジタル帳票を作成できるという意味で、サービスとしても親和性が高いと考えます。

現状方式における問題点
高速処理性能と可用性を備え、低コストで提供
藤本既存のサービスやエンジンを組み込む形ではウイングアークが描く世界観の実現が難しかったということですが、Trustee タイムスタンプは他社のサービスとどのように違うのでしょうか。
新井氏帳票作成時のタイムスタンプで一番問われるのは、スピードです。受領側でタイムスタンプを付与する場合はひと月の間で処理を完了できればよいですが、作成側で付与する場合は月末月初の数日間など時間的制限がある中での業務処理になることが多いため、帳票の発行と同時にタイムスタンプを押せる必要があります。そこでTrustee タイムスタンプでは、独自のPDF解析技術や極限までシンプルなシステム設計を行うことで、秒間1,000文書の処理が可能となっており、他社サービスと比べても圧倒的な速度で処理できるようにしました。他にも、複数拠点で冗長化する仕組みや、うるう秒対応時に、タイムスタンプを押せない時間を作らないといった可用性も備えています。また、大量の帳票にタイムスタンプを押すとどうしてもコストがかさみますが、 SVFで出力する帳票に幅広くタイムスタンプを適用いただけるよう、利用コストを抑えた形でご提供しております。

Trusteeタイムスタンプの特長
藤本処理スピードや可用性、コストメリット以外に、帳票ベンダーがサービスを提供する強みや意義とは何でしょう。
新井氏弊社ではSVFによる帳票生成の仕組みを提供していることで、帳票生成と同時にタイムスタンプ処理を走らせ、帳票作成時にはすでにタイムスタンプが押されている状態を作ることができます。また、電子帳票プラットフォームのinvoiceAgentを使って作成された帳票を送付し、取引先にて受領後、記入・捺印して返信するといった一連の流れを作ることができるため、タイムスタンプ処理をこうした取引のフローの中に自然に組み入れることが可能です。今春にはinvoiceAgentの私書箱という機能を使って、取引先に送付される帳票や、取引先から返信される帳票には、追加費用なくタイムスタンプを付与することが可能になります。また、invoiceAgentに保管された帳票については取引先含めタイムスタンプの検証(改ざんされていないことの確認)が可能となっています。結果として、取引先と改ざん防止の仕組みが実装された形でのやり取りが実現できます。
今後は重要な電子取引の帳票を選別して管理する時代に
藤本市場の反応はいかがでしょうか。理屈では理解できても、システムやプロセス変更に伴う負担や、法律やガイドラインで規定されていないという側面から、普及させるにあたっての難しさもあると思います。
新井氏Trusteeタイムスタンプは、SVFやinvoiceAgentと組み合わせる以外にも、APIやJavaクライアントライブラリを使ってシステムと連携する仕組みを備えているので、SVFやinvoiceAgentのユーザーに限らず既存の業務システムと連携して使い始めることができます。帳票を受け取る側も、ライセンスを購入したり何か特別な仕組みを入れたりする必要はないので、実装面でのハードルは低いと考えています。
また、帳票の管理や取引の電子化が進む中で、これから重要な帳票とそうでないものの選別が行われるようになります。これまで紙で運用していた帳票を電子化する際に、すべて同じセキュリティレベルのPDF、つまり無防備なPDFで送って良いのかという議論がすでに金融業界や鉄鋼業界などでは起きていますし、身近なところでも経費申請で利用する領収書の画像の改ざんなどは簡単にできるのが実情です。そこで、すべての帳票にタイムスタンプを押すのではなく、まずはお金に関わる帳票や契約に関する書類など、重要度の高い帳票を中心にデジタルトラストの活用は進んでいくと考えています。こうしたニーズに対応する製品としてTrusteeを提供し、普及啓もう活動と併せて販売展開をしていきます。実際に、既存システムからの置き換えを視野に入れた問い合わせも多くいただいています。
藤本Trusteeではこれからどのようなサービス展開をしていくのでしょうか。
新井氏デジタルトラストサービスには複数の種類がありますが、その中で我々は次にSVFと親和性の高い領域として、どの法人・組織が発行した電子帳票かを証明できる「eシール」を来年度リリースする予定です。タイムスタンプだけでは「いつ」と「改ざんの有無」しか証明できませんが、eシールを付与することで「誰が発行したか」も証明でき、発行元のなりすまし文書を見破ることができるようになります。
SVFで出力するのは取引系帳票を多く扱っていますが、我々としては取引帳票をはじめとするあらゆる重要文書に当たり前にデジタルトラストが付与され、お客様が安全・安心に電子取引を行える世界観を目指していきます。そこに必要なサービスを段階的にご用意しつつ、ITベンダー・帳票ベンダーとして、要素技術だけでなく帳票に関わる運用も含めた支援を行っていくので、今後もご期待ください。
藤本我々としても、デジタルトラストの市場動向にしっかり注目していきたいと思います。

