その一環として、化粧品を使用している時にまれに感じる「ピリピリ」「ヒリヒリ」といった皮膚の不快な感覚刺激の代替評価法を開発してきました。今回、その代替評価法のキーである刺激受容体TRP(Transient Receptor Potential)チャネルが防腐剤や多価アルコールによって活性化し、その活性と皮膚上の感覚刺激に高い相関関係があることが、自然科学研究機構・岡崎統合バイオサイエンスセンター 富永真琴教授との共同研究によって明らかになりました。また、同方法が製品レベルの感覚刺激の評価に応用可能であることを見いだしました。
本技術を、これまで成し得ないと思われていた快適な使用感のさまざまな化粧品の開発に応用していきます。
なお、この研究成果について9 月20 日~23 日にアルゼンチンで開催される「第26 回 国際化粧品技術者会(IFSCC)」において発表します。
1.研究背景
(1)化粧品を使った時の「ピリピリ」「ヒリヒリ」という刺激
化粧品を使用した時に感じる「ピリピリ」、「ヒリヒリ」といった刺激は「感覚刺激」と呼ばれ、誰もが一度は経験している感覚だと思います。感覚刺激と皮膚の炎症は同様のものと捉えられがちですが、炎症を起こさない感覚刺激も多く存在します。しかし感覚刺激があれば、炎症を起こさないものであったとしても、炎症を起こすことを恐れて使用を止めてしまうでしょう。特に女性では、このような感覚刺激が原因で、これまで問題なく使用できていた化粧品が、ある日突然使用できなくなるようなケースも増えています。つまり、生活者にとって、「感覚刺激」を感じるということは、その化粧品によって得られるはずの「美しさ」や「健康」の機会を失ってしまうことである、と言っても過言ではないのです。
マンダムでは、炎症を起こさない「安全」な化粧品がまれに引き起こす不快な「感覚刺激」を少しでも軽減するために、精力的に研究に取り組んでいます。
(2)安全と安心
マンダムでは、化粧品の品質を「安全」と「安心」の段階に分けて考えています。「安全」とは、肌に負担を与えないこと、つまり、化粧品としての効果を生活者にリスクなく使っていただく「当たり前品質」として定義しています。
マンダムは、この「当たり前品質」をこれまでの80 年にわたる企業活動の中で醸成してきました。次に、「安心」とはマンダム独自に、やさしさを追求した高品質の実現と定義しています。
つまり、長年の研究成果として実現できた保湿剤「アルカンジオール」による防腐剤フリー技術や、世界に先駆けて行っている「TRP チャネル」による精度の高い感覚刺激の評価技術など、最先端の技術によって実現できた生活者のことを第一に考えたやさしさ品質を意味します。マンダムは、この「安全」の上に「安心」を加えた品質基準で製品の開発を行っています。
(3)刺激受容体(レセプター)を応用した代替評価
感覚刺激の評価は、スティンギングテストというヒトを対象とした試験が主に実施されております。ヒトによる評価には、被験者、被験部位や塗布方法の選定を工夫することによって、精度が向上するものの、それでもバラつきが大きく試験数を短期間に増やすことが困難であるという欠点があります。マンダムは、最近の研究から化学的な刺激物や温度の受容体であることが明らかになってきた「TRP チャネル」に着目して、これを用いた感覚刺激の代替評価を開発しました。
マンダムは、TRP チャネルを用いた刺激の代替評価の確立に5 年以上前から取り組んできました。その中で、これらの刺激受容体を強制的に発現させた培養細胞を用いた「カルシウムイメージング法」という方法によって、感覚刺激を的確に評価できる可能性を見いだし報告しました。この方法により、ヒトに「ピリピリ」「ヒリヒリ」といった不快な感覚を及ぼす可能性がある物質が高感度で検出することができるようになりました。
2.代替評価法と感覚刺激の関係
(1)防腐剤や多価アルコールによる感覚刺激
今回、マンダムは化粧品を皮膚に塗ったときの感覚刺激の強さとTRP チャネルの関係を、まれに刺激を引き起こすことが知られている「防腐剤」及び潤い成分である「多価アルコール」を用いて詳細に調べました。その結果、防腐剤はワサビの受容体のTRPA1 を活性化し、多価アルコールはカプサイシンの受容体のTRPA1 とTRPV1 を活性化することを見出しました。また、その活性化の度合いは皮膚上の感覚刺激を敏感な被験者を選定した精度の高いスティンギングテストと同様の傾向を示すことがわかりました。
(2)化粧品そのものへの応用
TRP チャネルを用いた感覚刺激の評価法によって化粧品原料だけでなく、化粧品そのものの感覚刺激を評価できるかどうかを調べました。刺激の強さの異なる3 つのモデル化粧水のTRPA1 及びTRPV1 に対する影響を測定した結果、感覚刺激の大きさに応じてTRP チャネルの活性が変化することがわかりました。この結果、化粧品そのものについてもTRP チャネルを用いた評価法が応用できることが示唆されました。
マンダムでは、この研究を続けていくことによって、多くの女性の悩みである「ピリピリ」「ヒリヒリ」といった不快な感覚刺激を引き起こす可能性がある成分を把握していくことで、本当に快適に使用していただける女性化粧品の実現に向けて取り組んでいます。また、本技術を用いてこれまで成し得ないと思われていた、快適な使用感の様々な化粧品を開発していきます。
マンダムは、今後も、生活者視点での「安心」品質を徹底的に向上させるため、技術のさらなる醸成を図ります。
<感覚刺激のメカニズム>
最近の生命科学の進歩により、化学物質や温度を感知して電気信号に変換する「刺激センサー」が皮膚の神経に存在し、これらが感覚刺激のキーとなっていることがわかってきました(図4)。「ピリピリ」、「ヒリヒリ」といった刺激は、どこか温度感覚にも似ています。科学的にも、私たちが、刺激感覚と温度感覚を同じセンサーで感知していることが明らかになってきました。そのセンサーが、「TRP チャネル」です。
TRP チャネルは、皮膚や感覚神経にセンサーとして存在するレセプターとして、近年注目を浴びております。カプサイシン(トウガラシの主成分)のレセプターであるTRPV1、メントール(ミントの主成分)のレセプターであるTRPM8 などが、その代表格です。化粧品に配合されている成分で、一般的に感覚刺激を引き起こすと言われているというものの多くは、TRP チャネルを活性化します。例えば、クエン酸や乳酸、アルコール、カンフルが挙げられます。
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