文京学院大学 オピニオンレター Vol.8
提言者:梶原 隆之 (人間学部准教授 専門:福祉教育、教育相談)
上越教育大学大学院修士課程学校教育研究科修了。
東京YMCA、中学校教諭、児童養護施設児童指導員などを経て、文京学院大学人間学部人間福祉学科准教授。
社会福祉士。応用心理学会認定応用心理士、産業カウンセラー。
■ボランティアの重要性
私は、人間学部で教鞭をとるかたわら、文京学院大学地域連携センターBICSという組織のセンター長を務めています。
BICSとは、ボランティア講座の開設やボランティア情報の提供を中心に、さまざまな理由からボランティアによる福祉サービスを必要としている地域の方と、社会への貢献に意欲的でボランティア活動に参加したい学生や地域の方々とをつなぐ役割を果たす団体です。
BICSを媒介として、学生は多様なボランティア活動に参加しています。
本レターでは、BICSに参加する学生を対象とする研究から明らかになった「ボランティアの効果」を紹介し、学生時代におけるボランティアの重要性を提言します。
■注目される正課外教育
ボランティアの重要性を詳述する前に、大学教育の視点から本提言の背景を説明しておきます。
近年の大学教育では、いわゆる「単位」に認定される授業を指す「正課教育」に加えて、課外活動、クラブ・サークル活動、ボランティア活動などを指す「正課外教育」の重要性が認識されるようになりました。
背景には、大学教育に求められる質の変化が上げられます。
従来の大学の役割である先端研究に基づく専門的な知識の習得はもちろん、いわゆる「社会人基礎力」といわれる、「社会人として活躍できる能力」の習得が強く求められるようになったためです。
「社会人基礎力」とは、詳しくは「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義され、以下3つの能力に分類されます。
(1)前に踏み出す力(アクション)
(2)考え抜く力(シンキング)
(3)チームで働く力(チームワーク)
こうした能力は従来の授業だけでは十分な育成が難しく、各大学がさまざまな正課外教育のあり方を模索している状況です。
文京学院大学では、学生ボランティア活動に対して積極的にサポートしており、BICSもその一つに位置付けられます。
■地域連携センターBICSの活動
BICSとは、Bunkyo Informal & Community Serviceの略称で、ボランティアを軸に地域の組織と連携しながら各教育プログラムを展開している機関です。
BICSは、本学教員で構成されている運営委員、学生で構成する学生委員、地域住民で構成する地域委員の三者の協働によって運営しています。学生は学部を超えた400名以上が登録し、日々活動しています。
実施する事業には大きく3つの柱があります。
1つめは、地域から単発的に依頼されるボランティアのニーズに応え、学内の全学生を対象にするボランティアコーディネート。
2つめは学生委員が地域の社会資源を活用し、ボランティア活動を行えるように運営委員がサポートしているボランティアサークル。
3つめは運営委員が地域のニーズを受けて、研修会や講演会、助言など行う地域貢献です。
具体的には、「地域のニーズに合った活動」をモットーに地域のニーズ調査を行い、高齢者にとって生活に潤いを与えるようなプログラムを実施する「バウムクーヘン」や、地域の子ども達が集う「レッツゴー!まるびぃの森」、障害者支援を行う「ピース☆」など、全11のサークルが活動しています(表1)。
■ボランティアの効果
ボランティアとは、一般に「人の役に立つこと」だと考えられています。
しかし、「情けは人のためならず」ということわざにもあるように、「ボランティアは結果として自分自身のためになる」ということも広く知られています。
私も、日々ボランティアに参加する学生の指導に関わるなかで、そのことを強く感じています。
象徴的なエピソードを一つ紹介します。
ある女子学生は、もともと人に何かを説明することが苦手で、やや自分に自信がなく、心理的に不安定なところがある学生でした。そんな彼女は、BICSに入り小学生を対象としたプログラムで活動をはじめ、グループワークリーダーとなりました。
当初はなかなかリーダーとして、小学生に理解してもらえるような説明もリードもできず、苦労していましたが、彼女なりに努力し、ミーティングでの司会を担当したり、教員による指導を受けました。BICSの活動を経て、卒業時には社会福祉士、介護福祉士、高等学校教員(福祉)の3つの資格を取得。現在は高等学校の臨時任用教員として勤務し、来年度からは本採用されることが決まっています。人への説明が苦手だった学生が、高校の先生として生徒に授業をする立場まで成長したということです。
これは少し極端なケースではありますが、こうした成長のきっかけとなる力が、ボランティア活動には秘められています。
■効果の定量実証
こうしたことは、これまでも感覚的にはいわれてきました。しかし、それを定量的に実証した先行研究は、それほど多くありません。
そこで、BICSに所属している学生のうち、約200名を対象にする定量研究を行いました。その成果は、「ボランティア援助成果と幸福感および学校適応感」という論文にまとめ、日本福祉教育・ボランティア学習学会で発表しました。
ここでは、その概略を説明します。
本研究では、まずはじめに、先行研究により示された多数の尺度を因子分析し、「援助成果※1」「主観的幸福感」「学校適応感」がそれぞれどんな因子で構成されているのかを確認しました。
次にボランティアを行った時間と、得点の関連を調べました。
すると、表2のようにボランティア活動を多く行っている人の方が「援助成果」と「学校適応感」を強く感じていることが分かりました。
また、「援助成果」の得点と、「主観的幸福感」「学校適応感」の得点の関連を分析したところ、表3の通り、「援助成果」を強く感じた方が「主観的幸福感」と「学校適応感」を強く感じていることが分かったのです。
つまり、ボランティア活動を多くするほど、自分自身に恩恵を受ける(援助成果)し、学校に適応していると感じられる、自分自身が恩恵を受ければ幸せを感じられるし、学校に適応していると感じられるということが示されています。
今回の研究では、結果自体は意外性のあるものではありません。
けれども、実際の学生へのアンケートを通じて、これまで考えられてきたような効果が統計的に証明された事に大きな意味があります。
※1 他者を援助することにより援助者自身も恩恵を受けること。
■ボランティアを教育に取り込む
最後に、私の提言をまとめます。
「人の役に立つ」ということは、将来厳しい社会で生き抜くためのエネルギーとなります。
また、ボランティアをする上で、企画、実行、評価のプロセスを実行することは、課題解決力やコンピテンシーを高めます。今時の、なかなか夢を持てず、自分に自信のない学生にとって、ボランティアは必要かつ有意義なことだと考えています。
では、私たち大学教育に関わる人間がするべきことはどういったことでしょうか。
単に「ボランティアをしましょう」と呼びかけるだけでは学生への働きかけとして不十分ですし、また教育効果としても最大化されているとはいえません。
大切なことは、大学教育の中での位置付けをより高め、授業や研究との連動をさらに深めることです。
アメリカでは、「サービス・ラーニング」と呼ばれる考え方が大学教育の中で定着しています。これは、「教室で学んだ学問的な知識・技能を、地域社会の諸問題を解決するために組織された社会的活動に生かすことを通して、市民的責任や社会的役割を感じ取ってもらうことを目的とした教育方法」と定義されます。
日本でも、この考え方は大いに参考になります。BICSも、そこで展開するボランティア活動は教育研究機関である大学が中心となって行っていますので、その活動をもっと授業と連動させていきたいと考えています。
机上で学んだことを地域で実践し、それを授業に持ち帰り評価することは有意義なことですし、社会で必要となるPDCAのセンスを体得することにもなります。
これからの「開かれた大学」の行うべきことは、地域に貢献することで学生のフィールドを創造し、教育研究に生かして、その成果を地域にフィードバックすることではないでしょうか。
<文京学院大学について>
文京学院大学は、東京都文京区、埼玉県ふじみ野市にキャンパスを置く総合大学です。 外国語学部、経営学部、人間学部、保健医療技術学部、大学院に約5,000人の学生が在籍しています。本レターでは、文京学院大学で進む最先端の研究から、社会に還元すべき情報を「文京学院大学オピニオン」として提言します。
<本件に関するお問い合わせ先>
文京学院大学(学校法人文京学園 法人事務局総合企画室) 三橋、谷川
電話番号: 03-5684-4713
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