月次決算を5営業日に--グループ全体でシェアード会計システムを利用:小田急 - (page 3)

宍戸周夫(テラメディア)

2009-07-24 21:00

展開で見えてきた各社の事情

 しかしこの過程で、いくつか課題もあった。グループ各社はこれまでネットワークは顧客別管理で、PCの導入についても機種や設定がバラバラであったため、インフラやセキュリティ確保のハードルになった。さらに、すでに紹介したようにグループ各社は業種、業態もさまざまであり、同一システムで統一することは容易ではない。小田急電鉄で作成した予算管理や仕訳明細など帳票のグループ会社への適合性も課題になった。グループ会社の中には、小田急電鉄の精度の高いシステムまでは必要ないというところもあったからだ。

 グループ会社側の受け入れ体制も課題だった。業務の流れやシステムの使い勝手が大幅に変更されるため、エンドユーザーが混乱し、一時的に業務量が増加する懸念があった。また決算の早期化は理解できても、なぜ自分たちのシステムまでも変更しなければならないかなど、説明不足による戸惑いのようなものもあったという。

 こうした課題を小田急グループはどう克服していったのか。

 まずインフラやセキュリティの課題については、ひとつのグローバルなIPアドレスを複数のコンピュータで共有するNATを採用、またシステムを利用できる端末はIPレベルで管理することでセキュリティを確保。さまざまな業種業態への対応については適合性分析の実施、標準的な管理帳表の利用については小田急電鉄の予算管理、残高管理、仕訳明細、業績管理などの帳表ではなく「Oracle Discoverer」で作成した標準帳表を利用することにした。

 「またグループ会社側の受け入れについてはユーザーの立場に立ち、小田急フィナンシャルセンターでのコミュニケーションレベルを高め、協力の体制を確立することとしました。私ども小田急電鉄のIT推進部は経理業務の理解レベルが低いですので、各社の経理担当者と同じレベルで理解を高めてもらうようにしました」(工藤氏)

 このようにして、グループ会社への展開は2005年からスタートした。この時点でグループ会社が運用していた簡易パッケージをOracle EBSに統合、その後2006年には20社、そして2008年度には24社という形で順次グループ会社への展開を図っている。この間には、すでに多様な業種業態の企業に対応できる体制を整えている。

効果の一方でERPの課題も

 このOracle EBSの導入によってまず現れたメリットは効率性の向上だった。

 「従来のようにグループ会社が個別にハードウェア、ソフトウェアを導入していたことに比べ、共同利用や運用管理業務の一元化でTCO(総所有コスト)が削減されました。また物理的なスペースの問題や消費電力の観点からも、この効果はさらに大きくなっていると思っています」(工藤氏)

 また、有効性という点でも効果は現れている。まず、財務会計と管理会計が一元化され、さまざまな角度からの分析が可能になった。そして、当初の目的である決算早期化も実現され、決算の月内開示が可能となった。

 「またOracle EBSを共同利用している各社のシステム担当者とは定期的に会合を持ち、円滑なコミュニケーションが可能になったと思っています。それぞれが抱えている課題や解決策について情報を共有し、各社が個別に悩んでいるテーマを共通課題として話し合える環境ができました。これによってグループレベルでの業務効率化が実現できたと思っています」(工藤氏)

 もうひとつ、内部統制の視点からも効果が現れている。システム運用ルールを統一、IT全般統制に準拠した運用を確立したことで、共同利用しているグループ会社も内部統制への対応が実現できた。また、免震床・電源二重化などの対策が施された自社データセンターでシステムを運用することとしたため、災害リスクへの対応も実現できた。そのデータセンターは2009年3月に情報セキュリティ管理の国際規格である「ISO 27001」を取得、情報セキュリティ管理システムも確立。これによってシステムの信頼性も向上した。

 今後はOracle EBSのアップグレードなど、いくつかの展開を考えているという。現在、同社はOracle EBS 11.5.8を導入しているが、このアップグレード作業が進行中だ。これについては他社システムへの移行も検討したが、最終的に同11.5.10にアップグレードすることを決めた。ユーザーインターフェースなどでの変更点が少なかったことが理由だ。

 また今後は、サービス品質契約(SLA)の明確化、遵守にも取り組む予定という。オンライン稼働時間やグループ会社への作業依頼、夜間バッチ処理の監視、障害検知や復旧、リストアなどの項目でサービス目標値を明確化し、PDCA体制を回しながら運用体制の見直しにつなげる考えという。

 一方で工藤氏は、現在のERPパッケージに対する苦言も忘れなかった。

 「ERPパッケージは、システムライフサイクルの長期化という現在の状況に対し、税・法改正への対応や新規パッチという面ではサポートが遅れています。技術サポートなどは向上していますが、こうした面がサポートできなければ意味がありません。こうしたユーザーが直面している課題を認識していただきたいと思います」

 工藤氏は講演を「ユーザーサイドに立ったERPを望む」という言葉で終えた。

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