ヒトに関する「客観的な解釈が可能な」データを集めた後は、いよいよ経済をデザインする時である。経済のデザインとは、すなわちヒトの行動プロセスを一から創造することである。
ヒトの行動は言うまでもなく、心理的要因と物理的要因の2つで変化するのでその両方をにらむ必要がある。例えば、雨が降ったときには心理的な動き(例:出かけるのが面倒に感じる)と物理的な制限(例:傘がないと濡れる)が発生するが、片方だけに着目しても無意味だ。
そして、デジタルバリューシフトを起こす最後のキーワードが「全てをつながった世界を具体的に考える」ことである。
IoEにおける都市の姿
では少しだけ具体的にIoE的な都市の姿を構想してみよう。ヒトは最大のコンテンツ供給者であり、今つながっていない部分(特にプロセス)をつなぐことで新たな経済価値ができると仮定する。題材として、2020年に控える東京オリンピックにおいて、外国人観光客を「おもてなし」する街作りを考えてみよう。
まず、外国人観光客は東京のあらゆるところでお金を使うはずだ。いちいちお財布から小銭を出させてはいけない。電車賃も、会場への入場料も、宿泊費も、お土産代も、全てタッチなどのワンアクションで済ませてしまおう。近距離非接触通信が出来る端末を持っているとは限らないって?……ならば、来日する飛行機の中で「五輪のチケットとして」貸与しよう。彼らはそれをスマートフォンのように使ってくれても良いだろう。
次に彼らは自国の選手がどの競技で戦っているかを、恐らくあまり正確に把握していない。であればその場所と行き方、および出場選手のデータを「チケット」に送信しよう。
会場近くで同じ国の人間が集まっているのであれば、それも親切に通知しよう。スタジアムに着いてもっと良い席が空いていたら、その場で「チケット」を操作して変更してもらおう。ついでに飲み物や食べ物をオーダーしてもらえば良い。
競技に満足してホテルに戻ろうとしているが、実は今最寄り駅は混雑している。であれば、彼らには少し寄り道をしてもらおう。同年代かつ同地域出身の外国人に人気なレストランのクーポンを贈らせて頂こう。
そして彼らはレストランでの食事を満喫して今度こそホテルに戻ろうとするが、クーポンで浮いた代金を消費するにおあつらえ向きな高級ハイヤーが、レストランの前に駐められているのである。自分たちのために用意されたことに感激した彼らは喜んでそれに乗ってホテルへと帰っていった。
外国人観光客向けの「おもてなし」ストーリーはいかがだっただろうか。2020年においては全く不可能な話とは感じなかったのではないかと推察するが、これを実現するためにはある前提が存在する。その前提がなければ都市のデジタルバリューシフトなど夢のまた夢だ。