山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国で画像改ざん詐欺とそれを見破る技術がAIで高度化

山谷剛史

2024-01-15 07:00

 身分証は中国社会で生活する上で必要不可欠なものであり、日本にいる時よりも活用する場面が多い。「微信(ウィーチャット)」「支付宝(アリペイ)」には電子身分証の機能があり、デジタル化やカードレス化を促進しているが、実際のカードはまだ広く普及しており利用されている。しかし、中国では日本や他の国と同様に、身分証の偽造は法律で禁止されている。2023年も身分証偽造の事件が多く報道された。

 最も話題になったニュースは、女性が結婚相手を探すために、自分の身分証を偽造したというもの。本来の住所である広西チワン族自治区から上海や湖南省に変え、生年月日も実際よりも若くし、写真も加工した。しかし、身分証の写真があまりにも本人と違っていたため、警察に偽造と見破られた上、偽造現場も見つかって関係者20数人が逮捕された。

 偽の証明書を利用した結婚に関する事件は過去にも多く報道されてきた。例えば、2023年末には女性の結婚詐欺師が偽造した結婚証明書を相手に見せて結婚資金をだまし取り、その後姿を消して逮捕されたというものがある。また、1998年に偽の身分証で結婚した夫婦が離婚しようとしたが、証明書が偽物だったために裁判で離婚が認められないというトラブルも報じられている。

 この他にも、資金洗浄や保険金詐欺、ポイントの不正取得などさまざまな目的で偽の身分証が悪用されており、一斉摘発されたというニュースがよく報じられている。最近では、高齢の肉体労働者が就職活動に苦戦する中で、年齢を偽るために闇市場で偽の身分証を入手し、使用するケースがあった。ただ、この高齢者は実際に偽の身分証で働き始める前だったため、事情も考慮されて罪は問われなかったという。

 話がそれるが、中国人は写真の加工が好きだ。筆者も中国に住んでいた時にはビザの申請のために写真館で撮った証明写真が勝手に加工され、中国人好みの見た目となった。筆者はそれを望んでいたわけではないが、彼らにとっては普通のサービスというわけだ。自己紹介用の写真として使うと、初めて会う人から「この写真は冗談でしょう?」とよく言われ、恥ずかしくなってその写真を使わなくなった。中国では写真加工が当たり前になっているので、加工されていない写真を公的な書類に使うのは嫌だという人もいて、役所で公式に認めららた写真加工機能付きの身分証明書用撮影機も登場している。

 さて、話を戻そう。身分証をはじめとする各種証明書の偽造は昔から存在する問題だ。業者は次々に現れるし、画像加工や人工知能(AI)などの技術の進歩によって偽造を見抜くのが難しくなっている。しかし、行政側も手をこまねいているわけではなく、身分証をスキャンして偽物を検出する装置を開発し導入している。このように、中国では民と官の間に綱引きが続いているのだ。

 2023年は中国でもAIが注目され、AIを使って証明書の偽造を検出するサービスが発表された。画像加工された証明書の改ざんをピクセルレベルで瞬時に発見するというものだ。この技術を開発している企業の1社が、世界的に人気の名刺スキャンアプリ「CAMCARD」や多機能スキャンアプリ「CamScanner」を提供している上海合合信息科技(イントシグ)だ。

 10月にリリースされた同社の画像改ざん検出サービスは、ディープラーニングを用いた画像改ざん検出手法をベースしており、人間の目ではほとんど区別できないピクセルレベルの差異も識別できるという。このサービスに画像をアップロードすると、画像のどこが改ざんされたかが示される。

 画像生成AIが作った画像かどうかを見分ける技術を開発するのが、同社の次の目標だ。これも、顔の偽造による犯罪を防ぐのが目的という。中国では既にAIを使ったビデオチャットでのオレオレ詐欺が出現している。生成画像を検出する技術は、不正行為や著作権の侵害などを防ぐためにも役立ち、中国のサイバー空間上で犯罪者と警察の攻防が繰り広げられることになる。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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