生成AIをビジネスに生かせる技術者育成が狙い
「watsonx Tech Challenge 2024」は、2019年から愛徳会主催で開催されていた「DXチャレンジ」を継承するイベントで、今回は2023年度にIBMからリリースされたビジネスAIプラットフォーム「watsonx」をテーマに開催された。
本イベントは、watsonxのコンポーネントのひとつである「watsonx.ai」で実行可能な大規模言語モデル「Granite」など最新のデジタル・テクノロジーを活用して、新しいアイデアを創出しビジネス化を目指すコンテストだ。それと同時に、「watsonxを活用したビジネスを実現できる技術者の育成」も同イベントの大きな目的となっている。
イベント前の2024年8月から2025年1月までの約半年にわたり、watsonx.aiに関するスキルを獲得するための全6回の勉強会「watsonx.ai Dojo」がオンラインで開催され、アーカイブで学び直しができるといった、支援プログラムが実施された。参加者は、自身の知識のほか、勉強会で得たスキルを生かしアイデアを練り、その「集大成」としての発表の場がこのイベントだ。
アイデアのテーマとして設定されたのは「地域課題解決(人口減少、少子高齢化、労働力不足)」「環境問題対策」「わくわく社会の実現」の3つ。参加した10チームは 日本アイ・ビー・エム株式会社 箱崎事業所に集まり(チームメンバーの一部はオンライン参加)、2月12日の午後と13日の午前中の1日をかけて、グループワークによってテーマに取り組んだ。そのうえで、watsonxを活用したサービスのモックアップもしくは実装アイデアを作り上げ、そのコンセプトやユースケース、構成図、具体的なUIなどをプレゼン形式で発表する。
グループワークを終え、10チームがプレゼン
イベント2日目、午前中いっぱいかけてグループワークを終えたあと、発表会場にすべての参加チームと審査員が集結した。
プレゼンに先駆け、全国愛徳会 AI未来創造委員会 委員長の犬山 浩司氏は、「さまざまな生成AIが登場しているいま、我々はIBMのビジネスパートナーとしてwatsonxを中心にAIを世の中に広げていきたいと考えています。参加したチームが所属する各社でwatsonxを活用した生成AI技術によるビジネスモデル創出のリーダーとなり、AI以外でも企業の技術を引っ張っていく存在になっていくことを期待します」と参加チームにエールを送った。
また、イベント協賛社を代表した 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 テクノロジー事業本部 エコシステム共創本部長 村澤 賢一氏は、ドイツの生物学者・ヤーコプ・フォン・ユクスキュル氏が提唱した「ウンベルト(Umwelt)」という概念を例に、生成AIによる技術成長と人間の成長との関係性について話した。
「人間は元来変化が苦手な生き物です。1人1人の人間は外部からの刺激を受け、その刺激に対する内側から反応の積み重ねを通し、認知を拡張し成長しています。ゆえに全く新しい刺激に対してどう対処すべきか、躊躇してしまう。それが変化に対する個々人の反応の違いの背景にあるのだと考えます。今、AIによって新しい未知の刺激を受けた人間は、この刺激に対して何を受け入れ、役立てていくのか。期待と不安が入り混じった状態にあります。今回のイベントに参加された皆さんが、AIによる刺激を受け取り、その刺激に慣れて使いこなし、AIの新技術に適応してお客様に対して良いアウトプットを提供できる第一人者になられることを期待しています。そして今回のイベントをきっかけに、今後もより深く広いエリアで新しい技術をどう生かせるのか、チームの仲間と連携していってください。」(村澤氏)
そして、いよいよ各チームの発表が始まった。プレゼン時間は1チームあたり発表7分、質疑応答3分の合計約10分。この限られた時間の中で審査員から評価を受けることになる。各チームの発表内容は、以下のとおりだ。
チーム名(企業名) | タイトル・内容 |
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スカイウイル(株式会社スカイウイル) |
地域と都市をつなぐ~watsonx AIアシスタントが生み出す新たな可能性~ 企業誘致したい地方自治体とビジネスを拡大したい都市部の企業とを生成AIを活用してマッチング、両者による共創を活性化させる |
SOLPAC(株式会社ソルパック) |
watsonxを活用したベテラン保守員のノウハウ継承 工場などの設備を管理する保全員の退職に伴う保守点検ノウハウの失伝を防ぐため、生成AIを活用し情報を蓄積し、チャットボットによる事例検索を可能にする |
AI+Partners(エヌアイシー・パートナーズ株式会社) |
地方に住む両親を見守りたい!~実家見守り隊~ 地方に住む家族のケアを目的にし、AIによる電気/ガス/水道などの状態を確認して生活アラートを通知するとともにチャットボットによる操作を可能にする |
CSS(株式会社セントラルソフトサービス) |
ヘルプデスク対応業務の改善 ヘルプデスク対応による本来の業務圧迫を回避することを目的に、対応履歴管理システムからナレッジを蓄積し、RAGを用いたAIによるチャットボット対応を行う |
日本橋箱崎ツーリスト(日本アイ・ビー・エム株式会社) |
旅行代理店の業務改善で人手不足を解消 旅行代理店でのメール配信による旅行キャンペーン営業活動を生成AIによって自動化、最適化し、担当者の生産性を向上させて業務負担を軽減する |
TKF(株式会社福岡情報ビジネスセンター) |
Link MA ~事業継承問題を解決するために~ 事業継承やM&Aを行う会社に、AIチャットボットによる適切なマッチングをサポートするとともに、事業にかかわる情報についても適切に引き継ぐ |
オーイーシー(株式会社オーイーシー) |
人類避難計画 災害発生時に一時避難先での災害関連死を減らすため、安全で長期滞在可能な二次避難先の情報をAIで収集、マッチングしチャットボットで案内する |
妄想実現所チーム(株式会社オーアイエスコム) |
車両配送計画作成エージェント 自動車メーカーから販売店まで車両を輸送するキャリアカーへ効率よく車両を積載するために最適な配車計画表をAIで作成し、ノウハウの属人化を解消する |
IBM Champion中部(株式会社ナイス/株式会社システムリサーチ) |
ココサケテ ~昼間の都市部における避難支援~ 都市部で被災した場合、非住居地域のため土地勘がなく避難所への移動が困難となる。有事に備えてAIが避難情報を収集しLLMによる状況適応型の避難支援を行う |
TDK DX(田中電機工業株式会社) |
Return Hiroshima 地方へIターン、Uターン移住を考えている人にどのような補助金が適応されるかをその人の条件に応じてAIが判断してサポートを行う |
各チームの発表内容
新しい発想力が、社会・業界の課題を解決する
審査における評価項目は以下の3点だ。
1つ目は「ビジネスデザインとしての評価」。市場のポテンシャル/需要が魅力的で社会・業界の課題を解決するものであるか、「誰の何を解決する」という明確なビジネスデザインになっているか、ソリューションの発想がイノベーティブでビジネス価値が明確になっているか。
2つ目は「テクノロジーとしての評価」。技術的な新しさや実際の利用シーンでの独自性はあるか、IBMのテクノロジーを活用したソリューションとしての有用性は高いか、テクノロジーの活用における技術的なチャレンジ難易度は高いか。
3つ目は「プレゼンテーションスキルの評価」。聴衆を惹きつける創意工夫のある発表手法だったか、体験や経験談などストーリー性を交えたプレゼンテーションだったか、「使ってみたい、一緒に売ってみたい」という気持ちになれたか、という点だ。
これらの観点から審査の結果、最優秀賞は「人類避難計画」(オーイーシー)、優秀賞は「ヘルプデスク対応業務の改善」(CSS)と「地方に住む両親を見守りたい!~実家見守り隊~」(AI+Partners)が受賞した。
全国愛徳会会長であり関東·北信越地区会長の藤田 洋一郎氏は講評として、「今回のイベントで、AIに初めて触れた方も少なくないと思いますが、皆さんがこれから生み出していくソリューションにAIは欠かせない技術になっていきます。皆さんのような若手技術者が、AIを活用して、新しい発想力をもって社会課題を解決していくことに期待しています」と参加メンバーをねぎらった。
最後に犬山氏は「愛徳会は今後も積極的に技術者の育成、そして皆さんの意識改革を進めていきたいと思っています。また今回は各チームが別室で作業する環境であったため、直接触れあう機会は少なかったかもしれませんが、ぜひエンジニア同士さまざまな情報共有のできる仲間になってほしいと思います。次年度も何らかの形で同様の企画を考えますので、皆さんの参加をお待ちしています」と結んだ。
次回は、最優秀賞、優秀賞に選ばれたチームの発表内容を紹介する。