最優秀賞:災害の二次避難支援システム「人類避難計画」
最優秀賞は、チーム「オーイーシー」(株式会社オーイーシー)の「人類避難計画」が受賞した。
「人類避難計画」は、災害関連死を減少させるための「二次避難支援システム」。アイデアのきっかけになったのは、災害発生後の避難生活の中で、体調悪化などで亡くなるケースが少なくないことだった。とくに2024年の能登半島地震においては災害関連死とされる方が287人にのぼり、その割合は災害死者数の56%を占めているという。チームメンバーの山野氏は、熊本地震での自身の経験を語るとともに、災害時の避難生活におけるストレスが関連死の一因になることを指摘し、二次避難の重要性を強調した。
「人類避難計画」で発表されたシステムは3つの主要機能「二次避難の意向調査管理」「二次避難対象者の優先度決定」「二次避難先の紹介」を有し、IBMのAI言語モデル「Granite」を活用。避難者の個人情報を守りながら各人の意向と健康状態をDBに蓄積し、災害情報などとともにRAGのデータソースとして利用し、避難者一人一人に対して最適な二次避難先をマッチングする。これを利用することで避難者が二次避難先を的確に見つけられ、ストレスを蓄積する前に移動を可能にするとともに、避難所を管理運営する自治体の職員の負担を軽減することも可能になるという。プレゼンではデモが実演され、今後の展望として「チューニングによる回答精度の向上」「二次避難業務すべてのシステム化」などが挙げられた。
チームの主要メンバーは入社1年目の若手であり、生成AIを活用したソリューション提案、開発も初めてだったというが、独自の視点と発想力が評価されて最優秀賞の受賞となった。また某アニメ作品のデザインに寄せたプレゼン資料の作り込みについても高い評価の声が挙がっていた。

山野氏は「上司の勧めで『watsonx.ai Dojo』に参加し、今回のイベントにも参加を決めました。アイデアの内容と資料制作、モックアップ制作については1カ月ほど前から進めてきたので、ハッカソンの2日間では発表練習が中心でした」と話す。また「今回参加して多くの学びがあったので次回も参加したいですが、成長の場として若手社員の参加を促したいです」と、このイベントが若手社員の技術向上に役立つと捉えているようだ。
優秀賞:実際の経験から生まれた「ヘルプデスク対応業務の改善」
優秀賞の1つ目は、チーム「CSS」(株式会社セントラルソフトサービス)の「ヘルプデスク対応業務の改善」が受賞した。
「ヘルプデスク対応業務の改善」は、組織におけるヘルプデスク対応業務の改善を促進するソリューションだ。プレゼンでは従業員2000人規模の組織におけるヘルプデスク対応業務について、平均対応時間が月間87.5時間にも及ぶと指摘。対応者の負荷が大きく時間外対応も求められるほか、他業務への圧迫や技術習得の障害になるとその課題を挙げた。さらに対応の質が対応者の経験によって差がでることも問題視した。
その課題解決のため、watsonxチャットボットを活用。チャットボットは対応履歴システム内の情報をナレッジとして利用してRAGを用いた回答を行い、ナレッジに存在しない質問は、AIが誤った情報を生成しないように自動エスカレーション(担当者へのメール送信など)によって対処する。さらにチャットボットの対応履歴をDBに保存し、月次レポートの自動作成を行う。一連の仕組みにより、50%程度の業務改善効果が期待できるという。プレゼンではモックアップによるデモも実演され、チャットボットの応答やエスカレーションの流れなどが説明された。

チーム・CSSの鈴木氏は「実際にヘルプデスク対応業務を担当していて、その経験から生み出されたアイデアです。1週間ほど前から打ち合わせを行いましたが、実際の課題制作はこの2日間に行いました」と話した。また「各チームの着眼点が興味深く、社会課題解決へのアプローチ、差別化のポイントなど生成AIの活用について多くの学びがありました」とwatsonx Tech Challenge参加の意義を強調した。
優秀賞:高齢化社会の課題解決に取り組む
「地方に住む両親を見守りたい! ~実家見守り隊~」
優秀賞の2つ目は、チーム「AI+Partners」(エヌアイシー・パートナーズ株式会社)の「地方に住む両親を見守りたい! ~実家見守り隊~」に贈られた。
「実家見守り隊」は、離れて暮らす地方の両親をサポートするためのソリューション。プレゼン冒頭では、2023年に認知症が原因で行方不明になった人数が1万9000人いるという数字が示された。地方に暮らす高齢者の生活を都市部に住む子どもたちがケアする必要性は高いものの実現するのは難しいという現状が紹介されたが、その問題を解決するのが同ソリューションだ。
電気やガス、水道、戸締まりなどの状態確認機能と一括操作機能、不測の事態の際のアラート通知機能、各種デバイスから取得した健康状態や光熱費のデータを収集する機能などを備え、それらのデータをIBMのAI言語モデル「Granite」が学習、分析し、チャットボットをUIにしたモバイルアプリでリアルタイムに確認できるようにする。さらに健康管理機能の追加や自治体と連携した地域コミュニティ機能など、システムのさらなる展開も考えられ、社会課題となっている高齢者の孤立防止や認知症予防へ貢献していくという。同様の既存サービスもあるが、さまざまな見守り情報を一括してAIで管理、分析するのが同ソリューションの特徴である。加えて、例えば自治体と共催イベントなどの活動を通じて、新たなビジネスモデルの創出や地域経済の発展にも繋げることを見据えている。

チームメンバーの村上氏は「2024年度から注力ソリューションとしてwatsonxに取り組んでおり、パートナーさまのご支援を実施するにあたり、私たち自身もアイデアを考え挑戦している姿を示したいと思い参加しました」と話す。また同チームの佐野氏は、「1カ月ほど前からチーム内でアイデアを検討してきて、このハッカソンの2日間で集中的に意見を出し合い、ブラッシュアップしたアイデアを発表しました。こういった短期間で新たなアイデアを作り上げる作業は初めてで、大きな経験を積めたと思います」とwatsonx Tech Challenge参加の意義を話した。
2日間にわたるハッカソンとプレゼンが終了し、盛況のうちに幕を閉じた「watsonx Tech Challenge 2024」。受賞チームのアイデアはもちろん、すべての参加チームの斬新なアイデアや発想が今後のwatsonxに関連する技術発展、社会課題解決につながることを期待したい。