漠然とした働き方改革は何も変えることはできない
「働き方改革」は、日本企業にとって、ある種の必達課題のキーワードのようになっている。しかし、ことばだけが先行し、具体的にどのような施策を採るべきか、どこから始めるべきか、戸惑っている組織も多いようだ。「働き方改革推進委員会」のような組織を設置したものの、なかなか会話が前に進まない、そんな声も聞こえてくる。
働き方改革を推進するには、まず「何を成したことを改革とすべきか」を明確にしなければならない。多くの企業が、従業員の生活を改善するために"残業を減らす"という目標を掲げている。生産性の向上を目指して、"効率性"を目標としているケースもあるだろう。あるいは、 "これまではできなかった新しい何か"の実践を目指すといったこともある。
しかし、これらはあまり具体的とは言い難い。その結果、明確な目標を定める前に、「クラウドサービスを使えば、バラ色の結果が待っているのではないか」「あのクラウドサービスは人気が高いから試してみよう」「あの機能に興味があるから検討しよう」などと、安易なソリューションの導入のみを求めるようになり、本来は目標を達成するための手段であるべきツールの導入が目的化してしまう。こういったことでは、真の働き方改革が成功する見込みは低い。
働き方改革を成功させるには、より具体的な目標を持つことが必要不可欠なのである。
具体的な目標を立てれば手法を検討できる
残業を減らしたいのであれば、1日の「勤務時間を4時間削減する」というような、明確な数値を示す必要がある。そうして初めて、この数値をどのように生み出すかを検討することができる。この、「どのように」という方法を変えることこそが、働き「方」の改革なのだ。
例えば「移動時間」を減らすという施策が挙げられる。ビデオ会議やビジネスチャットなどの技術を用いれば、会議のための出張を減らすことができ、無駄な移動時間を減らすことができる。
「(資料を)探す時間」を減らすという考え方もある。例えば、バインダーに保管されている紙の書類から、過去の資料を探すのは、膨大な時間のかかる仕事である。さらに、ファイルサーバーと検索性に優れたオンラインストレージサービスとでは、ドキュメントを探し出すスピードがまるで異なる。どこに書類があるのか、どうやって探せばよいのか、そうした "資料を探す時間"を減らすことも有効な働き方改革の一つといえよう。さらに、どのような情報を誰が保有しているのかというKnow-whoをベースに「知の共有」が簡便に出来るようになれば、時間を短縮出来るだけでなく、新たなイノベーションが生まれることもあるかもしれない。もちろん業務効率も飛躍的に上がるだろう。
「多様な働き方を実現」することも、働き方改革の1つである。より具体的な案として、場所の制約をなくすこと。"社内でも自宅でも同じように業務を遂行できる"という目標も有効ではないだろうか。テレワークの推進は、その最も分かりやすい事例となるであろう。
社内でも社外でも、場所に関係なく安全なクラウドを介して必要なコンテンツにアクセスでき、互いに情報を共有できたり、業務アプリケーションを利用できたりと、いつでもどこでも仕事ができることは、多様な働き方を実践するためには最も重要な要素と言えよう。すべての社員に対し、最適な環境を提供することで、生産性や満足度の向上が期待できる。
このような、より具体的な目標を立てることができれば、どのような施策やソリューションがより効果的か、検討を進めることが容易になるはずだ。
働き方改革推進室がITと社員とのギャップを埋める
働き方改革の失敗談としてよく聞かれるのは、IT部門が推進してツールを準備したものの、社員が使ってくれないというケースである。
ある企業では、ファイル共有システムを導入して社外との情報共有を活発化させようと試みた。ところが、外部との共有を設定するのに時間がかかり、数日も待たせてしまうということが起きたという。業務上、すぐに使いたいのに、申請から承認までのプロセスが煩雑なため、結局は個人のストレージサービスを使ってしまうという。これでは、安全性の面からも、システム導入のコスト面からも本末転倒である。
またある企業では、クラウドを積極的に活用し、メールやチャット、SNSなどのサービスを次々と導入していった。ところが気づいてみると、例えばファイル共有はいずれのサービスでも利用できるなど、似たような機能を持つサービスが乱立してしまったため、使い分けがめんどうになったり、逆にコンテンツのやり取りが煩雑になったりしてしまった。
働き方改革は、今すぐ情報を共有したい、業務を効率化したいといったビジネス部門のニーズからスタートすることも多い。一方でIT部門としては、きっちりとガバナンスを利かせ、統制を取っていく必要がある。そこにギャップが生じてしまう。そこで、働き方改革推進室のような組織の出番である。推進室には、このギャップを埋めて、両者をつなげ、文字通り最適なシステム導入と共に社員の働き方改革を推進する役割が求められている。