日清食品グループのDX
前編

現場が主役のDXのススメトップの強い意思で変革に弾み

経済産業省が「DXレポート」にてデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性を説いて以来、数多くの企業でDX推進がビジネスのメインテーマとして取り上げられるようになった。しかし、食品や飲料を扱う業界では、デジタル活用そのものが利益につながりにくいことから、なかなか旧態依然の体制から抜け出せない企業も少なくない。そんな中、日清食品グループは、ここ数年ITへの投資に注力し、経済産業省と東京証券取引所が選ぶ「DX銘柄2020」「DX注目企業2021」に選出されるなど、まさに食品業界のDXの好例となるような取り組みを数多く実践してきた。前編では、日清食品ホールディングス 情報企画部長の成田敏博氏に、日清食品グループならではのユニークなDXの取り組みや考え方、システム内製化などについて話を伺った。
日清食品ホールディングス 情報企画部長 成田敏博氏

日清食品ホールディングス
情報企画部長
成田敏博氏

1999年新卒でアクセンチュア株式会社に入社し、公共サービスなどに対して業務改革のコンサルティングや会計システムの導入をサポートする。2012年に株式会社ディー・エヌ・エーに移籍し、IT戦略部にて情報システム全般に携わる。2019年1月にメルカリでIT戦略室の室長を務めたのち、同年12月に日清食品ホールディングスに入社し、DX推進の取り組みをリードしている。

トップの強いコミットメントによりDX推進のマインドセットを醸成

日清食品グループと言えば、歴史のある食品メーカーですが、DXはどの程度進んでいるのでしょうか?

 日清食品ホールディングス 成田敏博氏(以下、成田氏):基幹システムにSAPを導入し、レガシーシステムを刷新するなど、これまでにさまざまなIT投資を行ってきました。

 私が入社した時点で既に最新のクラウドツールが活用され、多くのデジタル化が推進されていました。一方で、情報システム部門をはじめ、工場、営業、マーケティング、商品企画、営業など、さまざまな部門の人たちと話していくうちに、各部門間でのITリテラシーに差を感じることがありました。IT企業ではエンジニアを中心に日常的にツールを扱う場面が多く、全社的にITリテラシーが比較的高くなる傾向があります。しかし、食品業界などの非IT企業では、普段の業務でデジタルツールに触れる機会が少ない部門も多く、場合によっては全社的なデジタル化が浸透しにくいと言えます。

 この現状を打破すべく、トップがDXを強くコミットしています。その一環として、安藤徳隆COO自らが「デジタルを活用して働き方を変え、労働生産性を向上していかなければ、グローバル企業として生き残れない」といったメッセージを、社内報などを通して社内に広く伝えています。

 また、日清食品グループでは2019年を“デジタル元年”として位置づけ、デジタル技術を駆使した経営の効率化を進めており、効率化によって生まれた時間をよりクリエイティブな時間や仕事に充て、経営ビジョンである「EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)」の実現を目指しています。

日清食品グループのデジタル元年スローガン
日清食品グループのデジタル元年スローガン

 まずは2019年にペーパーレス化推進、2020年に東京オリンピックに向けたテレワーク環境の整備、2023年にルーチンワーク50%減、2025年に完全無人ラインの成立といったロードマップを設定。また、デジタル化による労働生産性200%アップなど、業務の在り方を変えていくというメッセージが危機感を持って社内に語られてきました。

トップダウンでデジタル化が推進されているようですが、現場には浸透しているのでしょうか。

成田氏経営陣はデジタル化に対する意識が強く、各業務部門に対して明確にメッセージを発信しているので、浸透度合いが非常に高いです。私自身、IT企業からデジタル化推進のために移籍してきたのですが、既にIT活用に対する考え方が強く根付いていたので、トップの強いコミットによって、デジタル化を推進していく土台ができていました。このことから、マインドセットの醸成はDX推進に欠かせない要素だと実感しました。

現場が主導し、ローコード開発ツールを用いて社内システムを自作

DX推進のために人材確保やスキルアップが課題になっている企業が多いですが、日清食品グループではどのような対策を採っていますか?

成田氏社外からの人材採用は継続しつつ、最近は社内でDX推進に適している人材を抜擢しています。現場の業務を把握し、なおかつ課題認識ができる人が中心となり、デジタルを駆使して業務を変えていこうとする取り組みが進んでいます。また、業務改善のためのシステムの開発を外部のベンダーのみに依存するのではなく、内製化できるような組織体制の構築を目指しています。

 最近では、ローコード開発ツールがありますので、IT部門でなくても容易にシステムを構築できます。従来のように外部ベンダーにシステム開発を依頼すると、ブラックボックス化してしまうリスクを避けられません。その結果、自分たちで課題を解決することが難しくなってしまいます。さらに、意思決定スピードの迅速化も求められていますので、それら条件を満たすとなると、ローコードの業務アプリ開発ツールである「kintone(キントーン)」が一番適している考え、導入に至りました。現場のメンバーにプログラミングの専門知識がなくてもアプリを作れるようになったため、DXが一段階加速したと感じています。

 現在、現場の人たちにはどんどん手を動かしてもらい、IT部門はそのシステム環境を用意したり、開発方法のアドバイスをしたり、最低限のガバナンス統制・運用ルール作成を行ったりと、それぞれで役割分担を行っています。全社規模の改革をIT部門が一手に引き受けるには無理があるので、各部門で小さなプロジェクトを積み上げて、アジャイルな形で進めていくことが最適だと考えています。

 日清食品ではこれまで毎月300件以上に及ぶ決裁書を紙で処理しており、現場から経営層まで稟議を回して承認を得るのに平均20営業日の時間を要していました。ですが、kintoneでワークフローを電子化したことで平均4.4営業日にまで短縮することができました。

 当然のことながら、紙ベースのフローから脱却したことで、年間4万1800枚使っていた紙コストの削減にも繋がっています。2021年5月末までには、100種類あった紙ベースでの申請書や決裁書のほぼ全てを電子化できる見込みです。(※)

日清食品グループにおける事業部門での、ローコード開発ツールをはじめとしたITツールの適用業務例
日清食品グループにおける事業部門での、ローコード開発ツールをはじめとしたITツールの適用業務例

外部人材との交流による社内の強化が、非IT部門のDX推進のカギを握る

現在では、どんな部門でシステムの内製化が進んでいるのでしょうか?

成田氏kintoneを2020年4月に導入し、まずはIT部門に展開しました。その後、総務や経理などのバックオフィス部門に導入し、それから順次、人事、法務、製品開発、生産などの部門でも利用できるように整備しています。ツールを使いこなす意欲がある人材がいる部門は、どんどん自分たちでシステムを作って活用し、そのような人材が少ない部門ではIT部門がサポートしています。

 ただし、IT部門はあくまでもサポートであって、主役はエンドユーザーである業務部門です。分からないところがあれば、IT部門に相談してもらい、それでも解決できない場合は外部のSIer(システムインテグレーター)のアドバイスをもらうなどの支援体制を整えています。

他の非IT企業ではDXに関してどのような課題があるとお考えですか?

成田氏私自身が社外からも情報を広く取り入れており、それを社内の意思決定などに役立てています。自社の情報を発信していると、自然に外部の方との接点が生まれます。コロナ禍の現在では、チャットやウェブミーティングを使って社外の方と情報交換を行っています。

 その中で、「人材確保」が非IT企業の大きな共通課題として持ち上がっています。どの企業でもDX推進は重要なテーマですが、それができる人材がいないと進めにくいのも事実です。もし社内に適切な人材がおらず、知見やノウハウもないのであれは、複業人材を頼るという方法もあります。私たちの部門でも何人かにリモートワークで複業を依頼していますが、高度な専門人材にリーズナブルな費用で依頼できるところにメリットを感じています。

日清食品グループによるDX推進体制のイメージ
日清食品グループによるDX推進体制のイメージ

データ連携・分析の自動化など、データの徹底活用を目指す

日清食品グループでは、今後どのようにDXを進めていく展望でしょうか?

成田氏食品製造業において、新しいビジネスモデルを生み出すのは非常にハードルが高いのですが、今後の社会状況の変化に耐えられるよう、社員全員が一丸となって変革に取り組んでいます。また、事業開発を推進するデジタル活用や生産性向上の土壌もすでに出来つつあると思っています。

 ペーパーレス化推進はその一例ですが、今後はデジタル化が完了した後のことを見据え、データ連携や分析がまだ行き届いていない部分を自動化していく必要があると考えています。これから数年で、従業員のITリテラシーを一層高めるとともに、マスターデータが更新されたら、関連システムに自動配信、そして分析されていくような、いわゆる「攻めのDX」を実現するデータドリブンな組織の構築を目指していきたいです。

各業務部門にデジタル化に取り組む文化を浸透させ、システムの内製化を実現している日清食品グループ。後編では、ローコードの業務アプリ開発ツールとして、サイボウズのkintoneを利用し、実際にシステムを構築・運用している同社社員に、その実施内容やノウハウを聞く。

※本記事の取材は4月下旬に実施。追加取材により、5月末をもって紙ベースの申請書ならびに決裁書等の社内文書の電子化についてほぼ達成したとのこと。

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後編はこちら

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