RPAで生産性向上に挑むSMBC、3年間で約350万時間の業務量削減を実現
~成功のカギを握ったのはEYが構築した「プロジェクト標準」

前編RPAはデジタル人材育成に最適なソリューション

少子高齢化による労働人口の減少に直面している日本にとって、労働生産性の向上と業務の効率化は急務である。その有力な切り札として注目されているのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)だ。SMBCグループでは早期からRPAのポテンシャルに着眼し、2017年よりRPA導入を推進。3年間で約1,750人分相当の業務をRPAで代替し、従業員の余力捻出を実現した。その成功の背景には、EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングのサポートがある。「グローバルで培われた知見とナレッジで、対象業務の選定や品質管理の体制整備などを、トータルで支援してくれました」と語るのは、SMBCグループでRPA導入を牽引していた山本 慶氏だ。SMBCグループはいかにして生産性の向上と業務の効率化を実現したのか。EYアドバイザリー・アンド・コンサルティングの担当者である西村 文秀氏とともに、その取り組みを振り返った。

ボトムアップアプローチで計画以上の効果を実現

―― 最初にSMBCバリュークリエーションとEYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(以下、EY)のパートナーシップについて教えてください。

山本氏SMBCバリュークリエーションが三井住友銀行(以下、SMBC)の100%出資の子会社として設立されたのは、2019年2月です。(証券やカード会社などを擁する)SMBCグループは、2017年度よりスタートした中期経営計画の中で、「デジタライゼーションの推進」を掲げていました。当時私は、SMBCの経営企画部業務改革室に所属しており、RPAをトリガーとした生産性向上・効率化プロジェクトに取り組み、生産性向上ソリューションの開発・導入に携わっていました。

 2017年当時の日本には、大規模にRPAを導入している前例はほとんどない状態でしたが、わたしたちが手掛けたRPAの生産性向上ソリューションは多くの従業員から評価をいただきました。そうした背景からプロジェクトで培った生産性向上に関わる手法・知見・経験をお客様と共有して支援したいと考え、SMBCバリュークリエーションを設立した次第です。

SMBCバリュークリエーション株式会社 代表取締役社長 山本 慶氏
SMBCバリュークリエーション株式会社
代表取締役社長 山本 慶氏

西村氏われわれEYは、2017年からSMBCのRPA導入を支援しています。2017年当時は(山本氏率いるSMBC業務改革室との関係は)「クライアントとコンサルタント」という関係でしたが、SMBCバリュークリエーション設立後は、RPAで業務効率化を支援する「パートナー」として、SMBCグループのみならず、日本企業の生産性向上を支援しています。

―― SMBCグループが生産性向上・効率化プロジェクトを立ち上げた背景には何があったのでしょうか。

山本氏1つは外部環境の変化です。インターネットの普及をはじめ、情報量の増加や伝達スピードがグローバル規模で加速・拡大していました。そのような状況下、銀行に対するお客様の期待も多様化し、そのニーズも変化しています。ですから、われわれがお客様の信用を得ながら新しいニーズに対応し、サービスを提供していくためには自己変革が必要だったのです。

 一方、既存の従業員数で多様化・複雑化する顧客ニーズと商品に対応するには、業務量が増加してしまいます。限られた人的リソースでこれらを解決するには、既存の業務体制や進め方を抜本的に見直さなければなりませんでした。

 もう1つは、従業員に対する能力開発手法の限界です。これまでは人より長時間働くことで、多くの知識や経験を得て自己成長する手法が一般的でした。しかし、従業員の働き方や業務内容が多様化し、労働時間に制約がある状況では、従来の自己研鑽手法では個々の従業員が高いパフォーマンスを発揮できなくなる可能性があったのです。

 その解決策として着目したのがデジタルツールであり、RPAの活用でした。

 RPAは決められたワークフローに基づく自動化技術ですから、人間が教えた(プログラミングした)作業をミスなくこなします。これにより従業員は、これまで自分がやっていた単純作業をロボットに任せ、余剰の時間で新たなことにチャレンジができるようになりました。デジタルネイティブである中堅や若手の従業員がRPAを積極的に活用すれば、自らの能力向上に高い成果を出せるのではないかと考えました。

西村氏RPAがBPM(ビジネスプロセスマネジメント)システムやBI(ビジネスインテリジェンス)と異なるのは、短期間で費用対効果が見極められることです。これは金融業界のみならず、多くの企業にとってメリットになります。EYはグローバルに拠点を持つコンサルファームで、海外でもRPAプロジェクトを支援していますが、SMBCのように大規模な導入を迅速に展開した事例は、ほとんど前例がありません。

―― プロジェクト開始から3年が経過しました。RPA導入でどのような成果が得られたのでしょうか。

山本氏トップダウン・ボトムアップを組み合わせ、当初の計画を上回るグループ全体(3年間)で約350万時間=約1,750人分相当の業務をRPAで代替し、余力を創出することができました。

―― 当初の計画を大幅に上回る成果を得られた要因は何だと分析しますか。

山本氏明確な目標設定と効果を持続的に創出するトップダウン・ボトムアップ両輪でのアプローチが大きな成功要因だと考えています。まず、出口戦略をしっかりと定義し、経営層の合意のもと、トップダウンで開発を推進しました。これに併せて、現場の従業員が自らロボットを構築できる「内製化プログラム」 の研修トレーニングを実施しました。トップダウンだけでは次第に従業員の熱量が下がって(プロジェクトが)形骸化してしまいます。しかし、ボトムアップとして従業員が個々に取り組むと、熱量が継続し、それが新しい技術の導入や新規ビジネスの立案といった「チャレンジするカルチャー」にまで昇華します。

西村氏残念ながらRPA導入を検討している企業でもPoC(実証実験)ばかりを繰り返して本番稼働まで至らなかったり、導入後半年でシュリンクして終了したりするケースが少なくありません。

 しかし、SMBCの方々は「新たなことにチャレンジして業務改善を実現したい」という士気が高い。このモチベーションを3年以上持続させ、今はグループ全体で取り組み、それを外部の地銀含めたお客さまにも展開されている。すばらしいことだと思います。

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社 アソシエートパートナー 西村 文秀氏
EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
アソシエートパートナー 西村 文秀氏

山本氏ありがとうございます。もう一つの要因は、EYが従業員の声を十分に聞き、業務フローに合ったロボットを開発してくれたことです。現場の業務を自動化するための要件定義の整理はもちろん、抜け/漏れを防止する仕組みや、万が一RPAが停止した場合の対処方法・保守フローを体系化してくれました。このスキームがあることで、導入効果が維持できたと考えています。

RPAは従業員の“やる気”を引き出すツール

―― 3年間を振り返って当初は想定していなかったような副次的効果はありましたか?

山本氏今回のプロジェクトは、従業員に対する「生産性の改善や働き方改革の実現に取り組むことをサポートする」という大義がありました。「改善」や「改革」は余力がないと実現できません。RPAで(余力を生み出す)きっかけを得られました。私はRPAには「北風」と「南風」の効果があると考えています。

――どういうことでしょう。

山本氏「北風効果」とは「RPAによって仕事を奪われる」と考える保守的な従業員に対して行動変容を促したことです。先述したとおり、銀行業界を取り巻く環境は急速に変化し、柔軟かつ多様な対応が求められている。その中で従来の仕事のやり方に固執していれば、生き残れません。RPAはその気づきを与えてくれたのです。

 一方、「南風効果」とは自身の業務を見直して効率化を図り、クリエイティブな作業に取り組める環境を提供できたことです。自分の仕事を RPAに任せることで、やりたかったことが実現できる環境が生まれ、前進するチャンスがつかめた。こうした経験をすることは非常に重要です。

西村氏業務の見直しやアイディアを出す機会の提供ができたことは、強靱かつ柔軟な組織を構築するうえで不可欠なものです。それはSMBCのRPA導入を支援する課程で実感しました。

 例えば、SMBCグループの証券会社で外債の銘柄登録業務にRPAの導入を支援した時のことです。現状(As-Is)をヒアリングし、理想型(To-Be)を決定する際に、現場から「この作業のこの部分は廃止できる」「作業フローを根本的に変更すれば、もっとシンプルなフローになる」といった建設的な意見が次々と上がりました。その結果、同業務は年間約4,500時間といった大幅な効率化を実現できました。

 私は「RPAがデジタル人材育成に最適なソリューションである」ことを確信しています。RPAはその他のデジタルツールと比較すると、すぐに構築して動作させ、その効果を実感できます。「モチベーションの維持」という観点からも RPA は非常に適していると考えます。こうした副次的効果もRPAのアドバンテージでしょう。

図:RPA導入による業務のストレッチ 図:RPA導入による業務のストレッチ
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提供:EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
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