日本アイ・ビー・エム株式会社
クライアント・エンジニアリング本部 部長
テクニカルリーダー(CTO)
IBM認定上級ITスペシャリスト
上野 憲一郎氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
クライアント・エンジニアリング本部
データ・エンジニア
細野 友基氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
クラウド・アーキテクト
片岡 美穂氏
日本マイクロソフト株式会社
パートナー事業本部
パートナー技術統括本部
第二アーキテクト本部
クラウドソリューションアーキテクト
森 康治氏
データ活用に立ちはだかる人材不足とサイロ化の問題
──データ活用における市場のトレンドや現状について教えてください。
上野氏:ビジネスにおいてビッグデータ活用が叫ばれるようになってからかなり経ちますが、依然として重要なビジネストレンドとなっています。いかにしてビッグデータを分析し、その後の市場や事業を予測して、その時々で最適な意思決定へとつなげていくというのは、あらゆる企業にとってより大きな課題となっているのです。
また、そうしたデータ活用をより高度化するべく、AIや機械学習の活用もまた、ますます活発になっています。さらには、AIを利用してデータ活用を行うためのプラットフォームについても、自前で用意するのではなく、他のIT領域と同様にクラウド活用へとシフトする流れが加速している状況です。
これを受けて、データ活用のためのプラットフォームとしてふさわしいマネージド・サービスが、Microsoft Azure(以下Azure)などで続々と登場しています。データ・セキュリティの問題が高まっていることも、データ活用のためのクラウド・プラットフォームの重要性を多くの企業が感じる要因となっていますね。
──企業がデータ活用を推進するにあたっての課題とはどのようなものでしょうか。
上野氏:実際にAIを使ったデータ解析を行う場合には、データ・サイエンティストが中心となるわけですが、その前段階として企業内のさまざまなシステム/データベースに散在している大量のデータを整理するためのデータ・エンジニアも非常に重要な存在となってきます。ところがIT人材不足が叫ばれるなか、とりわけデータ活用に関するスキルを有する人材は需要が非常に高いことから、こうしたデータ・サイエンティストやデータ・エンジニアを自社で確保することが非常に困難となっているのです。
森氏:それに加えてデータのサイロ化もまた効率的なデータ活用を妨げている要因となっています。例えば、いくつかの部署では自分たちが集められる範囲でデータ分析を行っていたとしても、それぞれ用いるシステムが異なっており、データの所在もバラバラなため全社的に統一した環境でのデータ活用が困難といったケースが多々見受けられますね。
これらの課題もあって、少数ながらなんとかデータ・サイエンティストは確保できたものの、社内に散らばるデータを集めてきて分析しやすいかたちに整えることのできるデータ・エンジニアが存在しないという悩みをよく耳にします。そしてそれ以上に、データ活用をしたくてもなかなか踏み出せずに、その前段階で止まってしまっている企業が非常に多いのが実状です。
多くの企業が、データ分析前の「探索・加工」により多くの時間を割いている状況だ
より高い価値を提供するデータ活用プラットフォームの条件
──これらの課題も踏まえて、企業にとってより高い価値を生み出すデータ・プラットフォームを構築するための条件とは何でしょうか。
上野氏:あらゆるビジネスに有益なデータ活用を実現するには、データそのものの品質の高さや信頼性の高さが求められますので、プラットフォーム上でそれらが担保されたデータをうまく収集できることがまず重要になります。
これに加えて、解析する際に必要なデータ量が増え続けるため、スケーラビリティーもまた欠かせない要素になります。あとは、誰もが簡単に使いこなせるようなユーザビリティーやセキュリティーの担保も優れたデータ活用プラットフォームの条件と言えるでしょう。
──マイクロソフトでは、Azureのユーザーにおけるデータ活用に対してどのようなスタンスなのでしょうか。
森氏:マイクロソフトとしては、基本的にクラウド、とりわけAzureを前提にすると同時に、お客様の環境はクラウドだけでなくオンプレミスのシステムにもさまざまなデータが存在していますので、“データを貯める”“データを活用する”“データ活用を促進する”といった3つのフェーズでお客様の環境全体を考えねばならないとしています。そうしたデータ活用に役立つさまざまなツールの開発にも当社としては積極的に取り組んでいます。
また、当社のみならずサードパーティによる製品も非常に数多く多岐にわたることから、容易にデータを蓄積できるのもAzureのメリットであると考えています。たとえば、あらゆるコネクターが用意されているので、さまざまな基幹システムからのデータの取り込みも簡単に行えますし、IoT等のデータとの連携もスムーズです。もちろん、Microsoft365をはじめとしたマイクロソフトの各種ビジネスソリューションとの親和性も高く、それらのデータも合わせた分析を容易に実現できます。
全社的なデータ活用を実現する「IBM Cloud Pak for Data」
──「IBM Cloud Pak for Data」(以下、CP4D)について、その機能や特徴をご紹介ください。
細野氏:CP4D の大きな特徴の1つが、データの収集から統合、管理、解析、活用までの一連の流れを1つのプラットフォーム上で完結できることにあります。また、データの収集から解析にかけての流れでは、さまざまなデータソースから、物理的ではなく仮想的にデータを持ってくることができ、そのデータを最適なかたちで統合・管理しながら分析が行える点もCP4Dならではのメリットだと言えるでしょう。
分析についても、Pythonを用いてコードを書くような上級者向けのアプローチから、GUIによるノンプラグラミングでの分析まで、さまざまなレベルに対応しています。このため、技術部門からビジネス部門まで全社規模での幅広いデータ活用を実現できます。
これらの特徴から、人材不足が深刻なデータ・エンジニアやデータ・サイエンティストの負荷を大幅に軽減し、より本来的な業務へと注力できることも、CP4Dならではの優位性ではないでしょうか。
CP4DとAzureの組み合わせイメージ
検証で明らかになった“CP4D×Azure”の効果
──CP4DとAzureの組み合わせによるアプローチによって、ユーザー企業にはどのようなメリットが得られるのでしょうか。
細野氏:端的に言えば、CP4DとAzureを組み合わせることにより、CP4Dがもたらすデータ収集の簡便さと、Azureならではのコンピューティングの強みといった双方の強みからお客様は大きなメリットが得られることになります。その効果は実際にIBM社内をフィールドとして検証しており、CP4DとAzureそれぞれのメリットが相乗効果を発揮することが判明しています。
具体的には、CP4Dであれば散財する膨大なデータであっても、わずか数分たらずで集めることができるので、一般的には“データ収集に8割”と言われるデータ活用にかかるコストを大幅に削減することができます。
それと同時に、Azure上であれば大量のデータ分析など負荷のかかるコンピューティング処理であってもスムーズに行えるため、例えば大量データの短時間での処理が必要な分析の定型化などに大きな強みを発揮するはずです。
──“CP4D on Azure”においてどのような検証を実施し、どういった効果がもたらされたのか教えてください。
細野氏:参考までにData Fabric編として行った検証内容をお話しすると、IBM Watson Knowledge CatalogとData VirtualizationによるData Fabricの実現を見据えて模擬的な環境をIBMの社内に構築しました。前述したようなデータ収集の困難さを想定課題として、CP4D on Azureによりデータ収集がいかに簡略化でき、またいかに安全かつ迅速にデータを活用できるのか検証しました。
その結果、散在するデータであっても誰でも使えるGUIから数分で収集が可能であり、ビジネス部門でも使いこなせることからデータ活用のハードルが下がり、利用者の幅が広がりました。さらに、データを単一プラットフォーム上に統合するためガバナンスも利かせることができ、従来のように部署間での細かい調整も不要となりました。
IBMとマイクロソフトの協業がもたらすメリット
──マイクロソフトとIBMのパートナーシップにより、顧客にどのような価値を届けられると考えますか。
片岡氏:お客様からAzureを使いたいとお声がけいただくケースが特に増えていますし、すでにAzureを使っているものの色々なデータが混在しており、どう活用すればいいかわからない、といった悩みがよく寄せられています。そこで、CP4Dと組み合わせることで、まずはデータを収集して、活用に至るまでをスムーズに結びつけることができるようになりました。
また、CP4Dもグローバルでのマイクロソフトとのアライアンスの下で提供されているソリューションなので、Azureのマーケットプレイスから直接展開でき、基盤部分のサポートもAzureとして受けられることもお客様にとって大きな魅力です。
森氏:IBMには企業ITの世界で長い歴史と実績のあるツールが豊富にありますので、エンジニアにとっても利用経験のあるケースが多いというのは大きなメリットであるはずです。
企業ITは大きくSoE(Systems of Engagement)とSoR(Systems of Records)に分かれますが、マイクロソフトはどうしてもSoE寄りになるのに対して、IBMはSoRのITで歴史的に大きな影響力を維持し続けています。このため当社ではなかなか手の届かないSoRの領域も、IBMとのパートナーシップによりカバーできるようになり、その結果、お客様にもより価値を提供できるのではと期待しています。
細野氏:データ分析基盤というのはニーズの拡大とともにスケールできないと意味がありません。ただ、CP4Dだけだとすべてのニーズに応えるのは難しいので、Azureという非常に強力な基盤の上で活用してこそ、さらなる価値を発揮することができます。現在そして将来的にデータ活用プラットフォームを検討しているのであれば、最優先の選択肢としていただいて間違いないものと自負しています。